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  刺さないハチもたくさんいる −岡山県のハバチ(葉蜂)について−
2009.4.21

 
倉敷昆虫同好会 近藤光宏

写真1 ヒゲナガハバチ(体長12mm内外) 幼虫はスミレの葉に寄生
▲写真1 ヒゲナガハバチ(体長12mm内外) 幼虫はスミレの葉に寄生

 ハバチは昆虫の中ではあまりなじみのない昆虫である。チョウは美しいものが多く、またコウチュウはカブトムシやクワガタムシに代表されるように、子供たちの人気者である。したがって、チョウやコウチュウに興味、関心をよせる人は多い。また、同好者も多く、分布・生態調査も進んでいる。
 反面、ハバチは後進で未知な分野である。しかし、それゆえに調査が進めば新知見が得られたり、新種発見という幸運に恵まれることもある。
 本文では、ハバチについて少しでも理解していただくために「ハバチは刺さない」「植食性のハチ」「ハバチの自主防衛」「採集と飼育」「ハバチの分類上の位置」の順に述べて、大まかに申し述べてみたい。


ハバチは人を刺さない

 ハバチは人を決して刺したりはしない。姿は和風スタイルで、いたっておとなしくむしろ平和なハチと言うことができる。
スズメバチやアシナガバチの仲間は産卵管が特化しており、刺す能力を備えているが、ハバチは産卵管を持っていても刺すことはできない。ハバチの産卵管は植物の組織内に卵を産むためのものであるから。
 これは、小学校や公民館、各種団体などが行う観察会に参加したときのことである。参加者にハバチは人を刺さないことを知っていただくために、ネットしたハバチをそれもできるだけスズメバチやアシナガバチなどに似ているハバチ(写真1)を素手で捕まえて見せることにしている。過去に刺された経験のあるなしにかかわらずハチは刺すもの、こわいものと思い込んでいる人は意外と多いようで、おどろきの目を向けられ、見せ場ともなる。そこで、ついでに参加者に勧めてみるが、掴む人は稀である。とは言うものの掴むとなぜか腹部をくねらせて刺すような仕種をする。私も初めは本当に刺さないかと半信半疑で、掴んだ後あわてて離してしまったこともある。無理からぬことと思う。


植食性のハチ
 ハバチの幼虫の多くは植物に依存しその葉を食べるものが多いので植食性のハチと呼ばれている。
 幼虫がコブシの葉を食べて育つコブシハバチ(写真2)(写真3)は倉敷市酒津公園のコブシで発見された幼虫を羽化させて岡山県内初記録となった。コブシハバチの和名の由来は、幼虫がコブシの葉を食べるところにある。1化性で年に一度しか発生しない。コブシは早くから公園や学校の緑化や街路樹として植栽されている。コブシハバチはコブシの苗木の土の中に幼虫または蛹の状態で潜んでいて苗木と一緒に運ばれて来たものと思われる。
 また、ハグロハバチ(写真4)の幼虫はスイバやギシギシ、イタドリなどの葉を食べる。年数回発生を繰り返し、県下に広く分布、霜のおりる12月ごろまで見られる普通種。ハバチは年1化のものから2化またはそれ以上数回に及ぶ種もある。
 また、中にはカブラハバチ(写真5)のように野菜の葉を食べる。いわゆる害虫として、人にとって甚だ迷惑なハバチもいる。

写真2 コブシハバチの幼虫 幼虫はコブシの葉に寄生 写真3 コブシハバチ(体長12mm内外)
▲写真2 コブシハバチの幼虫 幼虫はコブシの葉に寄生 ▲写真3 コブシハバチ(体長12mm内外)
写真4 ハグロハバチ(体長9mm内外) 幼虫はスイバやギシギシ、イタドリなどに寄生 写真5 カブラハバチの幼虫 野菜などの十字架植物に寄生
▲写真4 ハグロハバチ(体長9mm内外) 幼虫はスイバやギシギシ、イタドリなどに寄生 ▲写真5 カブラハバチの幼虫 野菜などの十字架植物に寄生


ハバチの自主防衛

写真6 サクツクリハバチ(体長6mm内外) 幼虫はヤマナラシやヤナギなどの葉に寄生
▲写真6 サクツクリハバチ(体長6mm内外) 幼虫はヤマナラシやヤナギなどの葉に寄生

 消極的な防衛ではあるが、武器を持たない多くのハバチは保護色をしていることで周りの環境や植物の色にまぎれて身を守っているものが多い。また、トガリハチガタハバチやヒゲナガハバチなどは、鋭い毒針を持つスズメバチやアシナガバチに姿を似せて、いわゆる擬態によって鳥などの天敵から身を守っているハバチもある。
 一方やや積極的な防衛の見られるハバチの中にサクツクリハバチがある。幼虫は葉の周りに柵を設けて(写真6)、部外者を寄せ付けないようにしておいてから、柵内の葉を安心して?食べて育つ。この柵は幼虫が自らの分泌物をだして柵を作る。その光景が牧場の柵を思わせるところからサクツクリハバチの名がある。写真6はヤマナラシの葉で食餌中のサクツクリハバチ。


採集と飼育
 成虫は他の昆虫と同様にネットで採集するが、幼虫は網を使わないで、ビニールの袋を使用して行う。そこで、フイールドには必ずこの袋を携帯していて幼虫がいたらその植物毎袋に入れて持ち帰る。ビニール中だと植物が乾燥しないし、持ち歩いても傷つくことはない。その上中身がよく見えて好都合である。この場合植物は少し大目にいただいて、別の袋に入れて持ち帰り、冷蔵庫または冷暗所で保存しておく。飼育の途中で足りなくなったら出して補給する。幼虫は植物と共に3分の1位土の入った植木鉢(6号位が適当)に移し、食草が乾かないよう霧をかけ、寒冷紗で幼虫が逃げないよう覆う。そして、日陰に置いて飼育の様子を観察する。幼虫は早ければ2〜3日、遅くても1週間位で土に潜る。すると、もう植物はいらなくなり、幼虫の世話から解放される。後は湿度の管理に気を付ける。今度成虫が羽化してくるのは、年1化性であれば翌年の春に羽化する。それまでは湿度の管理を続けなくてはならない。乾き過ぎると干物になり、湿り過ぎるとカビにやられて、せっかくの苦労が水の泡に、そして、なにより楽しみがなくなる。しかし、その分、無事に成虫が羽化して来たときの喜びは大きい。
 この方法で採集飼育すると幼虫の段階では種名がわからなくても、成虫になれば判ることが多い。更によい点は、種にとって寄生植物との関わりが明らかになり、新知見が得られたり、運よく新種に出会えることもある。ヤエムグラハバチ(写真7)は植物のヤエムグラで発見された幼虫(写真8)から羽化した新種である。

写真7 ヤエムグラハバチの幼虫 岡山県で発見されたハバチの新種 写真8 ヤエムグラハバチ(体長6mm内外) ヤエムグラの葉に寄生
▲写真7 ヤエムグラハバチの幼虫 岡山県で発見されたハバチの新種 ▲写真8 ヤエムグラハバチ(体長6mm内外) ヤエムグラの葉に寄生


ハバチの分類上の位置

 ハチ目は、スズメバチやミツバチなどの所属する細腰亜目とハバチを含む広腰亜目の二つの亜目に大別されている。そして広腰亜目は下記のように更に11の科に分けられ、ハバチ科はそのうちの一科にすぎない。
1ナギナタハバチ(3)、2ヒラタハバチ(7)、3キバチ(8)、4クビナガチバチ(6)、5ヤドリキバチ(1)、6クキバチ(7)、7ヨフシハバチ(1)、8ハバチ(137)、9マツハバチ(4)、10コンボウハバチ(11)、11ミフシハバチ(10)。( )内は岡山県内でこれまでに記録させている種数である。なお、この数は2003年に発行された岡山県野生生物目録による。
 2亜目の種数の割合はおよそ10対1と言われているが、岡山県では462対175と広腰亜目の割合が高く、そのうちハバチは137と広腰亜目の多くを占めており、ハバチの県内における分布調査は、他の分野に比べて進んでいると言える。


おわりに
 岡山県のハバチについて、早くから種の同定はもとより、分布、生態、調査方法等にいたるまで大変貴重なご指導をいただいた、ハバチに関する権威者である元神戸大学昆虫学研究室の奥谷貞一博士、並びに石川県立農業短期大学の富樫一次博士に厚くお礼申し上げたい。
 一方、県内におけるババチの調査に対し、物心両面にあたたかいご支援を賜った前しげい病院理事長の重井博博士に深謝申し上げたい。

 

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