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虫の世界
 
  ところ変われば虫変わる −ボルネオ島で出会った印象深い昆虫−

2009.7.10

 
倉敷昆虫同好会 青野孝昭

ボルネオ島 所変われば品変わるということわざがあります。土地が変われば、それに従って風俗・習慣・言語などが違うことを指したことわざですね。
 これを昆虫に当てはめると、ところ変われば虫変わるということになりましょうか。
 日頃は、自分の周りに棲んでいる昆虫と接してお馴染みにになっています。それはそれで結構なのですが、よその土地へ行くと、どんな昆虫に出会えるのだろうとの好奇心にも、また、押さえがたいものがあります。
 この度は、倉敷昆虫館から投稿の誘いをいただいたのを機会に、熱帯のど真ん中に位置するボルネオ島へ足を踏み入れたときに出会い、印象深かった南国の昆虫を少しばかり写真を添えて紹介します。
 虫友の船越俊平君(故人)がボルネオ島に行ってみないかと誘ってくれたのは、1997年のことでした。彼は気心の知れた学生時代からの友でしたので、二もなく行こうじゃないかと二人で出掛けました。
 船越君は、名古屋のある方から自然史博物館設立の話を持ちかけられ、国内外、各地の標本収集に努めていたこと(これは後に計画倒れとなる)、筆者の方は、ウォーレス(※1)も採集調査に入っているボルネオ島にも行って、東洋区固有の生きた昆虫に接してみたいという気軽な願望があったこと、この二つがかみ合ってのことでした。 
 二人は、マレーシア領サバ州のコタキナバルの空港から入国、5月下旬から6月上旬までの短い期間でしたが、採集禁止になっているキナバル山は避け、それより南に位置する山地に入り、4日間は両側に急斜面が落ち込む高標高レベルの尾根平坦部でキャンプ生活をしました。そのときの水銀灯を使った夜間採集では、多種多様な昆虫が次々と飛来し、ライブコンサートにでも臨んでいるような感覚を堪能しました。それでは、夜間採集を中心に、採集して帰った昆虫のいくつかを。
 

(※1)ウォーレス
 イギリスの有名な博物学者、探検家、アルフレッド・ラッセル・ウォーレス(1823-1913)は1848年から同国のヘンリー・ウォルター・ベーツ(1825-1892)を誘って、南米のアマゾンや東南アジアのマレー諸島を探検、ボルネオ島を含むマレー諸島には1854~1862年に訪れており、多数の昆虫やそれ以外の動植物標本も採集しています。
 1876年には、それらの採集経験にも基づいて、似た種類のいる土地をひとまとめにし、違った種類のいる土地と対立させ、地球を6つの動物地理区(※2)に分けました。
 100年以上経った現在も動物地理学上のこの区分けは、大筋において変えられることなく、所変われば生息する動物も変わることの実例として、よく利用されています。
 

(※2)世界の動物地理区
ウォーレスが地球を6つに分けた動物地理区の名称と地域、特徴を文献等を参照して以下の通り、簡略にまとめてみました。

旧北区
ヨーロッパからアジアにかけてのユーラシア大陸の大部分とアフリカ大陸の北部が含まれます。高山や亜寒帯の気候に適応した寒さに強い種が栄え、草原性のグルーが多いのも特色の一つです。
新北区
メキシコ以北の北アメリカ大陸地域です。この大陸で独自に進化した種に、旧北区に共通な群と中南米起源のものが加わっています。
東洋区
インド、東南アジアなどの熱帯地方が含まれます。高温多湿で、多種の植物が豊富であるため、昆虫の種類も非常に多く、また、多くの島々に別れているため、同一種でも地理的な変異が多く生じています。
エチオピア区
アフリカ大陸の大部分とアラビア半島南半、マダガスカル島がここに含まれます。サバンナ、砂漠、熱帯ジャングルなど様々な自然環境があります。東洋区と似ていますが、サバンナに適応したものが栄え、他の熱帯に比べ古いタイプの生き残りは少なくなっています。
オーストラリア区
オーストラリア大陸にニューギニア、ニュージーランドなどが含まれます。原始的な種が多く残存し、栄えています。東洋区起源のものも加わります。
新熱帯区
中南米を含む南アメリカ大陸地域です。アマゾンのジャングルが特徴的です。種類数、形態の多様性、ともに最も豊富な地理区です。

 

東洋区、ボルネオ島で出会い、印象深かった昆虫
 
 2種のコノハムシ Phyllium spp.
2種のコノハムシ コノハムシの仲間はナナフシ目コノハムシ科に分類されている昆虫です。雌の肢体が木の葉そっくりなため、隠蔽的擬態の典型例としてよく知られています。
 昼間は木陰に眠っていて、夜になると猛烈な早さで葉を食い荒らすため、東南アジア熱帯地方のカカオ農園では油断すると大被害を受けると説明された記事も読みました。 コノハムシ類の雌には飛ぶ翅がなく、歩くだけですが、雄には飛ぶ翅があり、飛ぶことができます。
 ボルネオ島では種名不詳の2種のコノハムシの雄がライトに飛来しました。雄の肢体は雌と違って、木の葉そっくりとは言えそうにありません。右の個体はマレー半島に分布するホンコノハムシPhyllium siccifoliumそっくりで、その亜種ではないかと思われます。左の個体は別種で体長65mmほど、右のは50mm余りです。
 
 ムナビロカレハカマキリ Deroplatys desicata
ムナビロカレハカマキリ カマキリ目の多くは亜熱帯や熱帯地方に棲んでいます。特に東南アジアの熱帯地方には奇抜な形や変わった色彩のカマキリが多く、花びらに似たもの、枯葉に似たもの、樹皮に似たものなど多様です。
 この度の夜間採集で水銀灯に飛来したカマキリの中で、一際大きいムナビロカレハカマキリの雄がいました。翅を閉じた状態では細長く、地味な枯葉色をしています。
雌の後翅裏面には眼状紋があるところからメダマカレハカマキリとも名付けられています。マレー、スマトラ、ジャワ、ボルネオなどに分布。写真の個体は体長65mmほど、翅を広げた幅が110mm余りです。
 
 キノボリバッタの一種 Chorotypus sp.
キノボリバッタの一種 クビナガバッタ科に属するバッタの一種です。森林性の樹上生活者で、ボルネオ島には近縁種が複数種いるようです。
 体長25mmほど。背中の帆を含めた翅の長さが40mmほどの中型のバッタです。体全体が薄っぺらで枯葉のように見え、腹端も上にそり上がった形で、はじめは枯葉のかけらかと思ったくらいでした。
 
 ヒシバッタの一種 Paraphyllum sp.
ヒシバッタの一種 ヒシバッタ科に属するこのバッタも背中に薄い帆が大きく広がって、その形が、恐竜スピノサウルスを連想させ、ちょっと注目を引きました。
 何でこのような奇怪な形をしているのか、帆の役割はなんだろう。毛細血管の分岐のようにも見える模様から、体液を送れば、体温を冷やす放熱のはたらきができそうとも考えて見ましたが、木の実の翼に似た突出物にも見え、何とも擬態の不思議さに驚くばかりです。実寸は体長20mmほどの小さなバッタで、私は(仮称)ミニスピノサウルスヒシバッタと名付けてうちうちの人と愉快がっています。
 
 クロテイオウゼミ Pomponia merula
クロテイオウゼミ 原生林(Virgin Forest)に棲む蝉を見つけてネットで採集するのは至難の業ですが、燈火に飛来する蝉は簡単に手づかみで採集することができます。
 この時の夜間採集では結構セミ類も飛来し、7種の蝉を採集した中、特に大きかったのがこの種とキオビアブラゼミの2種で、印象に残りました。
 本種は、はじめ世界最大の蝉として知られるテイオウゼミかと喜んでいましたが、帰国後、よく調べているうちに、それとよく似た本種であることに気づきました。
 テイオウゼミに比べ、大きさがやや小さく、体長は70mmほど、翅の先までで100mmほどの大きさしかありません。腹部が黒っぽく見え、特に前翅外縁に細いすじが目立っていいることなども、テイオウゼミと違うようです。
 
 シタベニハゴロモの一種 Penthicodes sp.
シタベニハゴロモの一種 カメムシ目の昆虫です。セミやウンカに似て、細長い口吻を持っていますが、セミやウンカとは独立したビワハゴロモ科に属しています。
 羽を閉じていると目立ちませんでしたが、開くと派手な色彩の模様が現れ、驚きました。
 写真の個体は体長約25mm、翅を広げた幅が70mmほどです。
 
 ジンメンカメムシ Catacanthus incarnatus
ジンメンカメムシ 頭を下に、逆さまにしてみると人の顔に見えてきます。人面カメムシとはよく名付けたもので、納得できます。特に、黒っぽい翅の先端部が日本人の私たちには、ちょんまげに見え、小盾板が、大きな鼻に見えるところも愉快です。
 走光性を持っていて、かなりの個体が水銀灯の光に引かれてやって来ました。体長は30mm前後あります。
 熱帯雨林に適応しているようで、インド以東の東南アジアに広く分布しています。
 
 バイオリンムシのボルネオ亜種 Mormolyce phyllodes engeli
バイオリンムシのボルネオ亜種 一見何の仲間だろうと首を傾げたくなるほどの奇妙な形をしていますが、キノコ(サルノコシカケ)に集まる昆虫を補食するといわれるオサムシ科の甲虫です。
 誰がバイオリンムシと名付けたのか、英名でFiddle Beetleというのは見たことがありますが、日本では団扇虫と名付けた人もいるようです。
 それにしても、鞘ばねの周りが脚が透けて見えるほど薄っぺらの、平らな幕状に広がっている姿には驚いてしまいます。
 この奇虫を入手するため、19世紀の中頃、パリの博物館が1,000フランも投じて購入したとの伝えもあり、当時いかに珍重されていたかが窺えます。
 このバイオリンムシはタイやマレー半島、スマトラなどに分布する基亜種とは前胸の形や色彩などが多少異なっており、ボルネオの原生林だけに棲むボルネオ亜種とされています。3晩続けた夜間採集で、やってきたのはこの1個体だけでしたが、こんな平べったい虫が、まさか、飛んでくるとは思ってもいませんでした。
 写真の個体は体長約70mmです。
 
 ルニフェルホソアカクワガタ Cyclommatus lunifer
ルニフェルホソアカクワガタ それほど大きくないクワガタながら、明るい色が目立っていました。頭でっかちで大あごの発達もよく、小ぶりであってもクワガタらしい見事な体形の持ち主です。写真の個体は体長が約45mm(角を含む)です。
 頭盾が前に出っ張っているところから、テングホソアカクワガタという和名もあるようで、これも日本のクワガタには見られない特徴の一つと言っていいでしょう。
 ミャンマーからマレー半島、スマトラ、ボルネオに生息している普通種だそうですね。
 
 アトラスオオカブト Chalcosoma atlas
アトラスオオカブト アトラスオオカブトムシの雄には個体変異が多く、大型から小型まであって、大型雄にはいかにも雄らしい頑丈な角が備わっていますが、小型雄になると貧弱になって頭部の角も前胸部の角も申し訳程度のものになるそうです。
 ボルネオ島の原生林でお目見えしたこのアトラスオオカブトは中型で、頭部の角もインカーブして伸びる前胸部の角も控えめでした。飛来した個体数もわずかで、モーレンカンプオオカブトムシに対して12:1の比でした。ボルネオ島では稀な存在と言えるようです。
 属名のChalcosomaは金属的な色彩をもつ体という意味のラテン語で、実際、深みのある青や褐色を帯びた美しい光沢に輝いています。
種小名のatlas はギリシャ神話の巨人 、ヤペトスとその妻クリュメネの間に生まれたアトラスにちなんでおり、この甲虫の姿を力強い巨人になぞらえて名付けたのでしょう。ボルネオ島のアトラスオオカブトは大型タイプほどではありませんでしたが、それなりに一定の迫力はもっていました。
 写真の個体は体長約65mm(角を含む)です。
 
 モーレンカンプオオカブト Chalcosoma moellemkampi
モーレンカンプオオカブト ボルネオ固有のオオカブトで、ボルネオオオカブトとも呼ばれています。ボルネオ産のアトラスオオカブトよりも大きく、迫力があり、角の形や前胸の形が異なり、色彩も金属光沢に褐色を含まないなど、いくつかの違いが見られます。
 さすがにオオカブトだけあって、ライトに飛来するときの羽音や落下した折りの物音の大きさは日本のカブトムシの比ではありません。鋭い棘をもつ脚の力も相当なもので、うっかり手を出すと痛い目に遭います。
 1,000mを超える山中の原生林では、かなりの個体が生息しているようでしたが、平地では全く見られませんでした。
 写真の個体は体長約100mm(角を含む)です。
 
 ヘラツノコガネ Ceropleophana modiglianii
ヘラツノコガネ カブトムシを小型化したようなコガネムシで、体長は20mmほど。頭部の角は後方に反り返り、先端が二股に別れています。写真の通り、胸角はなく、すべすべしています。
 動きはゆったりとして、ラブリーと言いましょうか、まこと、愛嬌たっぷりの可憐な甲虫です。
 マレー半島とスマトラ、ボルネオに分布しています。
 
 クロスジオオクワガタコガネ Fruhstorferia nigromuliebris
クロスジオオクワガタコガネ クワガタコガネの仲間は、雄の大あごがクワガタのよう発達し、クワガタとコガネのあいのこの様な形をしており、色彩も明るい緑や黄色、茶色などと、ユニークな姿をした、愛くるしい感じのコガネムシです。東南アジアには分化した複数の種が分布していることが知られていて、ボルネオ島の夜間採集ではこの種が飛来しました。
 体長は30mmほど、角を含めると45mmほどの大きさがあります。
 
 ホソガタヒレアシハナムグリ Pseudochalcothea planiuscula
ホソガタヒレアシハナムグリ 体長約30mmのやや大きめのハナムグリ。前胸や翅の背面が光沢のある明るい緑色をしていて、南国の強い陽射しを跳ね返しているように見受けられます。
 後脚脛節の付け根から役割不詳の附属物が伸びています。不思議な感じがしますが、何に役立っているのでしょうね。
 スマトラ島には本種とよく似て、脛節付け根から附属の突起物が出ているハッセルトヒレアシハナムグリという種がいて、両者は亜種関係にあるのではとの見方もあるようです。
 
 コメツキムシの一種 Campsosternus sp.
コメツキムシの一種 コメツキムシというと、裏返しにするとピチッと硬い音を立て、ぴょんと高く飛び上がって正位に戻る、あの特殊な技を持つ甲虫です。
 オオアオコメツキ属Campsosternusのコメツキムシは、金属光沢に富む美麗種揃いで、東南アジアからわが国の南西諸島にかけて、いくつもの種類が生息しています。
 体長35mmほどのこのコメツキは、昼間さんさんと照りつける太陽光の下で活動していました。美しい緑の金属光沢は日射を跳ね返し、過度な体温上昇を防いでいることがうかがえます。
 
 ベッコウバチの一種
ベッコウバチの一種 体長35mmほど。翅を広げた幅が70mmほどの大型ベッコウバチの一種です。
 ベッコウバチの仲間はクモ狩りの名手揃いで、この大型種も狩りをしている最中でしたが、日本にいる仲間より一回り大きく目立っていました。種名までは突き止めていません。

 

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