病院の中にこんちゅうかん!? 倉敷昆虫館
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虫の世界
 
 岡山県のトンボ

2014.8.29

倉敷昆虫同好会 守安 敦

  岡山県では、97種(亜種も含めて)のトンボが記録されています。滋賀県の100種には及びませんが、全国的にもかなり種類数の多い県だと言えます。県北部は、1000m級の山々が連なる中国山地、中部は吉備高原、南部は瀬戸内丘陵があり、河川堆積物による平野が広がっています。県内に、さまざまな流水の環境や止水の環境があることで、幼虫(ヤゴ)の時代を水中で過ごす多くの種類のトンボが生息できているといえます。
 2012年4月12日に公表された環境省のレッドリストに載っているトンボは、絶滅危惧I類(絶滅の危機に瀕している種)が15種、絶滅危惧II類(絶滅の危険が増大している種) が13種、準絶滅危惧が27種指定されています。トンボの指定種は増加しており,トンボの生息環境が、全国的に悪化していることを物語っています。岡山県でも、開発による池の埋め立てや水質の悪化、周辺部の伐採などによって、数が減ったり、見られなくなったトンボがたくさんいます。私たちは、トンボなどの生き物が豊かに生息できる環境こそが、人間にとっても生きるのに好ましい環境であるということを忘れてはならないと思います。

 これら貴重な種の内の9種を紹介します。

 グンバイトンボ latycnemis foliacea Selys  岡山県:準絶滅危惧 環境省:準絶滅危惧(NT)

グンバイトンボ 中国北部に生息するシナグンバイトンボの日本列島亜種(日本列島にいる特徴の少し違うシナグンバイトンボ)です。雄の中後脚(中足、後ろ足)が軍配のように白く平べったくなっていることからこう呼ばれています。この軍配を見せ合いながら、雄同士が空中でにらみ合ったまま縄張り争いをする姿はとても滑稽です。

 県内では、5月下旬から7月下旬の記録が多いですが,加茂川町宇甘渓で5月5日、真庭市八束村で8月23日、岡山市北区で8月14日の記録があります。宮城県以西の本州・四国・九州に分布しています。岡山県では、主に東部で多産地がありますが、全国的には少なくなっています。1997年6月のこと、数カ所の新産地を見つけることができました。その後、高梁川の本流でも見つかりましたが、なぜか本流から西側の吉備高原には、まだ生息地が見つかっていません。

                              グンバイトンボ(雄)  2011年7月23日   高梁市玉川町
 アオハダトンボ Calopteryx japonica Selys  岡山県:準絶滅危惧 環境省:準絶滅危惧(NT)
アオハダトンボ アオハダトンボは、ユーラシア大陸にも分布しており、日本では九州と本州で見られます。ハグロトンボが県南から県北までたくさん見られるのに対し、本種は、ヨシなどの植物やクロモなどが繁茂する緩やかな清流に生息しているため、河川の水質の悪化や改修で見られる場所も限られています。ハグロトンボとこのアオハダトンボはとてもよく似ています。捕まえて見比べると、アオハダトンボの方が小柄で、羽の反射光が美しい青藍色であることですぐに見分けが付きますが、遠目にはどちらも真っ黒にしか見えず見分けるのは至難の業です。ところが、アオハダトンボはハグロトンボはより少し早く見られるので、5月下旬から6月中旬に川の中を見て黒っぽいトンボを見つければ、ほぼ間違いなくアオハダトンボということになります。本種の雄が、雌の前で翅(はね)をふるわせ繰り広げる求愛のセレモニーは一見の価値ありです。

                               アオハダトンボ(雄) 2012年6月9日 高梁市川面町

 ムカシトンボ  Epiophlebia superstes (Selys).  岡山県:留意
 ムカシトンボは、中生代ジュラ紀(1億9650万年前〜1億4550万年前)の化石で見つかったトンボと同じような形をしていることから、カブトガニ、シーラカンスと同じように生きた化石といわれています。世界中のムカシトンボの仲間(ムカシトンボ亜目)は、ヒマラヤ地域と日本にいるムカシトンボの2種と言われていましたが、2011年に中国東北部で3種目のムカシトンボが見つかりました。それにしても、北海道から九州までこの貴重なトンボが普通に見られる日本列島はというのはすばらしいことです。最南部の記録は、芳井町池谷と総社市槻です。幼虫は、流れの速い瀬の石にへばりついて生活しており、5〜6年かかってトンボになります。羽化の一か月前から陸上で生活し、成虫は、5月上旬から6月上旬まで見られます。雄は渓流の上を時々ホバリングを交えながら、非常に速いスピードで飛んでおり、採集や撮影にはかなりの根気を必要とします。
                                   ムカシトンボ(雌) 2013年5月5日 新見市大佐

ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys 

岡山県:準絶滅危惧 環境省:準絶滅危惧(NT)

 本種は、アオヤンマとは同じ仲間ですが、一回り大きく、アオヤンマが緑色をしているのに対し、黒地に黄色い模様があるのですぐ区別できます。採集された成虫の数は非常に少ないのですが、それは昼間は目立たない林内の枝にぶら下がっていて、黄昏(たそがれ)時になると飛び始めるからかもしれません。日本と中国中部に分布していて、新潟から南の本州と四国、九州で見られます。

 岡山県内では、岡山市南部、倉敷市南部、北木島で記録があります。私も1度だけ採集したことがあります。倉敷市内の池で、夏の暑い盛りのことでした。小さな池でしたが、周囲に生えている松の枝にぶらさがって止まっていました。初めての大物で、採集する時に手が震えたのを覚えています。倉敷市内では、児島の小学生により1991年と1995年に採集されています。

                               ネアカヨシヤンマ(雌) 1995年7月23日 倉敷市児島
 ナゴヤサナエ Stylurus nagoyanus (Asahina) 岡山県:準絶滅危惧 環境省:絶滅危惧U類(VU)
ナゴヤサナエ

  1994年の夏に、高梁川の水江の渡しの付近でキイロヤマトンボの幼虫を調べるため、川岸の泥の中を探っていると見慣れない細長い幼虫が採れました。初めて見るナゴヤサナエの幼虫でした。流れの深いところにいる本種の幼虫ですが、川岸の浅いところにいたのは、この年の異常渇水と関係があったのかもしれません。その後、1998年の9月、高梁川の河岸の樹木の葉上に止まるナゴヤサナエの雄を見つけることができました。
 本種は、大型のサナエトンボで、黒地に黄色の模様があります。日本固有種で、北陸から四国、九州に分布していますが、産地は非常に限られます。高梁川、旭川、吉井川では、下流域のみに生息しており、時々倉敷市内で成虫が採集されています。羽化が行われているのは、下流部の潮止堰までの川岸や町中に流れ込んだ水路などです。7月上旬から8月上旬にかけて羽化し、9月中旬ごろまで成虫の記録があります。

                                 ナゴヤサナエ交尾 1998年9月13日 倉敷市水江
 オグマサナエ Trigomphus ogumai Asahina 岡山県:準絶滅危惧 環境省:絶滅危惧U類(VU)

 和名(日本語の名前)の「オグマサナエ」は、トンボ研究者である朝比奈正二郎博士(1913-2010)によって、遺伝学者で日本のトンボ分類学の先覚者として知られた小熊捍(おぐままもる)博士(1886-1971)に献呈されたものです。本種は、自然豊かな池に生息しており、分布は近畿から中国地方、九州にに限られています。四国では徳島県の記録がありますが、1973年以降見つかっておらず、絶滅している可能性が高いようです。
 日本特産種(日本にしか生息していない種)で分布している地域も限られています。最近では池の改修や周辺部の開発、環境の悪化により少なくなってきています。池で見られる本種ですが、2006年、高梁川の河川敷にある池で発見されました。開発が進んで自然の豊かな池が少なくなっている現状から考えると、河川敷の池は、残された貴重な生息環境といえるでしょう。

                                オグマサナエ(雄)  2010年5月5日 倉敷市種松山
 キイロヤマトンボ Macromia daimoji Okumura 岡山県:準絶滅危惧 環境省:準絶滅危惧(NT)
 20年前、トンボの調査を始めたばかりの私は毎週のように倉敷の種松山でトンボを採っていました。ある時、きれいな水が流れ込む池でヤゴをすくっていると、クモのように足の長いヤゴが網に入りました。図鑑で調べてみると、岡山県では採集された記録がないキイロヤマトンボの幼虫らしいとわかりました。これは大変なことになったと、すぐ倉敷昆虫館に電話して、重井博先生にお会いしたのでした。私は幼虫を家で飼うことになり、しばらくして羽化し、立派な成虫になりました。その後、高梁川にもキイロヤマトンボが生息していることがわかり、私は幼虫の成長をまとめて発表することにもなりました。本種は、細身の大型のトンボで、青緑色の金属光沢に黄色の模様があります。幼虫は、流れの緩やかな部分に溜まったとても細かい砂の中にいることから個体数はあまり多くありません。
                           キイロヤマトンボ(雄) 種松山で採集 1993年6月18日羽化
 ナニワトンボ Sympetrum gracile Oguma 岡山県:絶滅危惧U類 環境省:絶滅危惧U類(VU)
 「浪速蜻蛉」という和名は、最初の発見地が大阪の浪速だったことからつけられました。池の周囲に遠浅の部分があり、林に囲まれた木陰のある水質のいい池にいます。池の改修等でこのような環境が壊され少なくなってきています。アカトンボの仲間ですが、成熟すると、雄はきれいな青い色になります。体長は35mmほどで、目がクリクリっとしてかわいいトンボです。秋には、池に突き出た枝先などで、雄が縄張りを張っているのが見られます。日本特産種で、瀬戸内海周辺部にしか分布していません。このナニワトンボも2005年に高梁川河川敷の池で見つかりました。周囲の池からどんどん姿が見えなくなっている今では、貴重な生息地になってしまいました。ナニワトンボに近い仲間で、マダラナニワトンボという珍しいトンボがいますが、1954年に岡山大学の周辺で研究用に採集されたトンボの中に雄一匹が含まれていました。残念ながら、この記録があるだけでその後は見つかっていません。
                             ナニワトンボ交尾・産卵 2010年10月16日 倉敷市児島
 オオキトンボ Sympetrum uniforme (Selys) 岡山県:絶滅危惧T類 環境省:絶滅危惧TB類(EN)
 オオキトンボは、日本産のアカトンボのなかまでは最も大きいトンボです。雄雌ともに全身が橙黄色です。岸にヨシなどが茂っている、よく開けた大きな池に生息しています。日本以外でも、朝鮮半島から中国にかけて分布しています。岡山県で本種が見られるのは真備町箭田(現倉敷市)の高津池だけでしたが、1984年頃までに、総合公園の土地造成で、池の一部が埋め立てられてしまい岡山県では見られなくなりました。ところが、1999年10月16日に賀陽町(現吉備中央町)の大和山周辺で当時香川県にお住まいの地下幸雄氏によって再発見され、11月4日の山陽新聞夕刊に写真が掲載されました。それから7年が過ぎた、2006年10月24日、邑久町尻海(現瀬戸内市)の錦海塩田跡地で、偶然オオキトンボの雌が撮影されました。それから3年後の2009年10月に、高梁川本流で本種が多数見つかり、同月、岡山市中区で、同月岡山市北区で見つかり、確認された場所があっという間に増えました。ところが、見られたのはその年だけで、その後再確認できていません。2012年には、錦海塩田跡地で、やっと6年ぶりにオオキトンボを再確認することができました。貴重な自然環境の残っている錦海塩田跡地ですが、現在メガソーラーの計画が進んでおり、環境省のレッドリストで絶滅危惧T類(CR+EN)の本種が安定して生息できる貴重な環境がこれからも残るのかどうか心配しています。
                                オオキトンボ(雄) 2009年10月31日  倉敷市高梁川

 

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