明けましておめでとうございます。年頭に当たり、一言ご挨拶を申し上げます。私にとって新年の挨拶も7回目。こうして7年目の新年を無事迎えることが出来たのも、皆様の支えあってこそと、心より感謝いたします。
昨年11月の日本医療福祉設備学会のメインテーマは「病院から健院へ」でした。会長講演では次のような説明がありました。病気の治療の場として君臨してきた「病院」も、これからは人々の健康を扱う「健院」へと、発想を転換する必要があります。かつて中世ヨーロッパにおいては「僧院」が患者の収容施設であり、病を治す所と言うよりは、神に救いを求める所でした。
医学が急激に進歩する近代になると、戦争による外傷や感染症を中心とした治療を行う「病院」という施設に場所を変えました。そして21世紀の今、「病院」は健康を回復するため、あるいは健康を維持するための施設、すなわち「病院」ではなく「健院」という施設になるべきでは、との説明でしたが、今一つ良く判らない。で、私なりの解釈を試み、二つの解釈が出て来ました。
ひとつは、病院の機能分化として、「病院」から「健康になる健院」を分離することです。今、日本中の病院は自院の役割の明確化を求められ、急性期病院あるいは回復期・維持期病院、いずれかの選択を迫られています。これを言いかえると、命を失わないために重症ケア環境を提供するいわゆる急性期「病院」に対して、健康の回復と自立を支援するための環境を提供する「健院」。
つまり、発病から生死の峠を超えるまでの比較的短期間を「病院」が、峠を超えてのちの健康の回復をはかる比較的長期間を「健院」が受け持つ。命の峠を超えたら即「健院」の出番です。病状が続いていても峠を超えたら直ちに患者の居場所が変わるというのは、急性期病院での急激な在院日数の短縮に対して、リハビリ機能を有する病院のこれまた急激な増加ということからも、すでに現実のものとなっています。そういう意味であれば、しげい病院新南館は「健院」という名にふさわしい自立支援を提供しており、ただちに「健院」と名を改めたいところです。
『患者を、一般の病院生活の気落ちさせる環境からほかに移すことが早ければ早いだけ、患者の回復(自立)は急速であろう。』チャールズ・H・メイヨ−
『病院にいる限り、患者の(依存)意識は変わらない。』フロレンス・ナイティンゲ−ル
もう一つはもっとグローバルな考えで、「病院はすべてが健院に」という医療そのものの根本的な発想の転換です。国策として国は「健康日本21」を掲げ、昨年それを実施するために「健康増進法」を法制化しました。医療は、そして病院は、治療中心の場から、疾病予防さらには介護予防の場へと重点を置きかえる。
病気させず、かからせず、寝たきりにさせず、さらに健康をアップさせるということで、平均寿命ではなく健康寿命、すなわち壮年期での死亡の減少、および痴呆・寝たきり等にならずに生活できる期間をいかに伸ばすかに力を注ぐ。すなわち「病院でなく健院」となるべし、というものです。疾病が感染症中心から、がん、心臓病、脳血管疾患、糖尿病等の生活習慣病に移った現在、病院は発病後の治療ではなく、発病の予防に全力を尽くすという発想の転換の求めは、今日において大いに理にかなったものと言えましょう。
『病気について考えをめぐらすとき、私はその治療というものを考えることはなく、その代わりに予防を考えます。』
ルイ・パストゥール
『医学の目的は病気の予防と人生の延長であり、医学の理想は、医者の必要をなくすことです。』ウイリアム・J・メイヨ−
病院において予防を中心に置くという事は、現実にすでに始まっています。例えば回復期リハビリ病棟は介護予防・自立支援、すなわち寝たきりにせず、そのものが役割とされており、逆に同病棟や療養型病棟で疾病が発生した場合は、包括点数・まるめのルールから、罰則とも言える保険請求不可で、病気にさせずが重要なポイントとなります。
病気にさせずの一例として、回復期リハ病棟での取り組みとして、栄養状態の掌握と改善が、入院中のコストの発生に繋がる発病や再発の予防となること、また効率の良いリハビリアップには良い栄養に基づく持久力改善が必要として、各種サプリメントなどによる栄養補強という投資を進めています。
また、褥瘡やインフルエンザの予防対策への投資も同様の行為といえます。栄養指導や運動療法に力を入れ、薬剤に頼らないといったこともあります。また、4月の介護保険改定では、要介護度を改善させる(例えば介護度1を要支援に)、すなわち健康をアップさせることに保険点数が付くと言われています。高齢者は肉体的には現状を維持するのが限界との従来の考えを改め、介護度の改善を目指したパワーリハビリという新しい概念のリハビリを提供する試みが始まっています。
この予防に重点を置いた医療経済的(診療報酬)誘導が、一般医療の中に取り入れられるのも、もう真近かと考えるべきでしょう。では、創和会の柱である腎・透析医療はどうするのかですが、例えば保存期腎不全であれば透析にいたる事態をいかに防ぐか、避けられないならばいかに先に延ばすか、また不幸にして透析にいたった場合、長期維持透析中に発生する様々な合併症について発症をいかに予防するか等に、当然のことですが総力を傾けるという、従来我々が行っている事をさらに強化することに他ならないでしょう。
創和会の理念「生きることの尊さと 健康であることの幸せを、すべての人と共に」は、前理事長の言葉ですが、病院として、何か今一つしっくりこない思いがありました。が、今回の「病院から健院へ」について考えたことで、すっきりしました。患者さまにとって私達は、病気になったから必要なのではなく、健康になるために必要とされているのだと。
(平成15年新年互礼会での挨拶より)