トップページ


重井薬用植物園の見学は予約制です。

見学をご希望の方 こちらをクリック



お問い合わせ

重井薬用植物園
岡山県倉敷市浅原20
TEL:086-423-2396
FAX:086-697-5865
E-mail:shigeihg@shigei.or.jp

 

おかやまの植物事典

ヒガンバナ(ヒガンバナ科) Lycoris radiata

秋の彼岸の頃に咲くので、その名がある。花被片は6枚で強く反り返り、5~7個が輪生して花序を形成する。 当園前の市道で満開となったヒガンバナ。草刈りがされるような道路わき、田のあぜなどに群生する。
▲秋の彼岸の頃に咲くので、その名がある。花被片は6枚で強く反り返り、5~7個が輪生して花序を形成する。 ▲当園前の市道で満開となったヒガンバナ。草刈りがされるような道路わき、田のあぜなどに群生する。

ヒガンバナは日本全国の日当たりの良い路傍や田のあぜ、土手などの草地に生育するヒガンバナ科の多年草です。花期は9月、ちょうど秋のお彼岸の頃に咲き、「彼岸花」の名の由来となっています。花は高さ30~50㎝程度の花茎の先に、強く反り返った6枚の花被片(花びら)を持った鮮やかな紅色の花が5~7個程度付き、やや扁平な球状の花序となります。花からは6本の雄しべと1本の雌しべがまるで装飾のように上方に長く突き出しています。

花は9月末ごろには終わりますが、その後、結実することなく、花茎は萎れて枯れてしまいます。日本国内に生育する本種は、染色体数がほぼ全て3倍体(2n=33)であるため、結実しないとされています(ごく稀に、突然変異で染色体数に変化が起これば、結実することもあるようです)。そのため、よく探せば、果実が膨らみ、充実した種子ができそうな花茎が見られることもあります。しかし、その場合でも白く未熟な状態のまま枯れることが多く、熟した状態(黒色)にまでなることはほとんどないようです。まれに黒色に熟した場合でも、発芽能力のない見かけだけの種子であることが多いようです。中国大陸の本種の染色体数には、2n=33に加え、2n=22(2倍体)、2n=32(4倍体)があり、これらは結実します。これらのことから、日本国内に分布する本種は、古い時代に種子ができない3倍体のみが、稲作とともに持ち込まれた、あるいは海流などの自然要因で、日本にたどり着き、鱗茎による栄養繁殖によって分布を広げた「史前帰化植物」であるとの見方が主流となっています。古事記や万葉集に登場する「壹師(いちし)」という植物について、諸説ありますが、本種とする説もあります。なお、中国産の2倍体のものは、「コヒガンバナ」などと呼ばれて栽培されることもあるようです。

よく探せば、果実が膨らみ、未熟な種子がある花茎を見つけることができる。(2015年11月4日 撮影) 特殊な場合を除き、結実はせず、果実は花茎ごと萎れて枯れてしまう。(2015年11月4日 撮影)
▲よく探せば、果実が膨らみ、未熟な種子がある花茎を見つけることができる。(2015年11月4日 撮影) ▲特殊な場合を除き、結実はせず、果実は花茎ごと萎れて枯れてしまう。(2015年11月4日 撮影)

 

地下には直径2~4㎝ほどの鱗茎(球根)があり、分球による栄養繁殖によって盛んに増殖します。鱗茎は根が鱗茎本体を土中に引き込む(牽引根という)という働きがあり、それによって土が掘り起こされるなどのかく乱にも適応しています。鱗茎からは秋に花茎が出たのちに入れ替わるように幅6~8㎜、長さ30~40㎝の深緑色をした線形の葉が出現します。葉は冬から春頃まで見られますが、5月頃には萎れて枯れてしまい、地上からはまったく姿を消し、秋の彼岸頃になると花茎を突如として地上に出現させます。同じ植物であっても、生える地域が違えば、気候や標高の違いによって花期がずれることはよくあることですが、不思議なことに、本種は気候や標高が違ってもほとんど花期がずれることがなく、ほとんどの地域で同時に開花します。

地下には鱗茎がある。葉と花茎は同時には出ない。 花後、冬から春にかけて線形の葉を束生する。左上に枯れているものが花茎。
▲地下には鱗茎がある。葉と花茎は同時には出ない。 ▲花後、冬から春にかけて線形の葉を束生する。左上に枯れているものが花茎。


本種には、400とも600とも言われる多くの地方名があるといわれ、墓地周辺に生えたり、お彼岸の墓参りの際に咲いているので、そのためか、シビトバナ(死人花)、ユウレイバナ(幽霊花)などの死を連想させる名が多いようです。もっとも知られている別名「マンジュシャゲ(曼殊沙華)」が、仏教の経典「法華経」の一節に由来するということもあるかもしれません。これは「赤い花」を表す梵語で、一説には本種そのものを指すともいわれます。また、本種は全草にリコリンといったアルカロイドを含む毒草ですが、、飢饉の際には鱗茎からとれるデンプンを救荒食として利用することもありましたが、その際に毒抜きが不十分なために中毒を起こすことがよくあったとされ、飢饉の記憶と結びついたことも本種がネガティブなイメージでとらえられる一因かもしれません。ちなみに属の学名 Lycoris (リコリス)は、その花の美しさを、ギリシア神話の海の女神(妖精)ネーレーイスの一人(50人以上いる姉妹である)、「リュコーリアス」の名を譲り受けることで称えたものとされます。

九州地方にはシロバナマンジュシャゲという本種の仲間が分布し、他の地方でも園芸種としてしばしば植栽されたり、植栽木とともに非意図的に移入されたりして、目にすることがあります。これは本種の白花品ではなく、九州地方に分布する黄色の花のショウキズイセン L. traubii と本種の雑種であり、ややピンク~クリーム色を帯びています。対して、まれに本種の群落の中に見られる本種の白花品と思われるものは、ほぼ純白であることが多いようです。

(2016.9.22)

シロバナマンジュシャゲ。九州に分布するショウキズイセンとヒガンバナの間の雑種とされる ヒガンバナの群落の中に一株だけ咲いていた白花品。
▲シロバナマンジュシャゲ。九州に分布するショウキズイセンとヒガンバナの間の雑種とされる。

▲ヒガンバナの群落の中に一株だけ咲いていた白花品。

▲このページの先頭へ