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園内花アルバム

イヌノフグリ(APGⅢ:オオバコ科/エングラー:ゴマノハグサ科)  Veronica polita

環境省レッドリスト2018:絶滅危惧Ⅱ類/岡山県レッドデータブック(2009):準絶滅危惧

石垣の隙間(最下部)に生育するイヌノフグリ。地際から分岐して地面を這うように生育する。 花冠は4裂し、直径2~4mm程度。普通、花色は淡紅色で紅紫色の筋があるが、個体により濃淡がある。
▲石垣の隙間(最下部)に生育するイヌノフグリ。地際から分岐して地面を這うように生育する。 ▲花冠は4裂し、直径2~4mm程度。普通、花色は淡紅色で紅紫色の筋があるが、個体により濃淡がある。

 

イヌノフグリは、本州中部から沖縄にかけての日当たりの良い畑地や路傍、石垣の間隙などに生育する越年草(2年草)です。茎は地際から分岐して地面を這うように広がり、長さ5~20cm程度になります。茎には伏した軟毛がまばらに生えています。葉は直径0.6~1cm程度の卵円形で縁には4~8個程度の先の鈍い鋸歯があり、毛は両面ともにまばらに短毛が見られる程度でほとんど生えていません。葉には短い葉柄があり、茎の下部では対生、上部では互生しています。

葉には先の鈍い鋸歯がある。花は茎上部の葉腋に1花ずつ付き、ある程度天気が良い日でないと開かない。 花後には二つのボールをくっつけたような蒴果ができる。この果実の様子を「犬の陰嚢(ふぐり)」に例えた。
▲葉には先の鈍い鋸歯がある。花は茎上部の葉腋に1花ずつ付き、ある程度天気が良い日でないと開かない。 ▲花後には二つのボールをくっつけたような蒴果ができる。この果実の様子を「犬の陰嚢(ふぐり)」に例えた。

 

花は2月頃から4月頃にかけて咲き、茎の上部の葉の腋から出た1cmほどの花茎の先に1花づつ付きます。花冠は大きく4裂しており、直径は2~4mm程度、花色は普通、淡紅色で紅紫色の筋が入っていますが、生育状態や個体によって花色には濃淡があり、ほぼ白色の花も良く見られます。花冠が非常に小さいうえ、ある程度天気が良くないと開かないので目立たず、生育していても気づかれないことも多いようです。果実は球形の果実が2個あるように見えますが、実際にはヒョウタンのようにくびれた一つの果実(蒴果)です。種子は直径1mm程度で淡黄白色、船のように凹んだ形状で、凹んだ部分にはエライオソームと呼ばれるアリの好む物質がついており、種子が果実からこぼれ落ちた後は、アリによって運ばれます。

イヌノフグリの種子。黄白色で船のように凹んでいる。凹んだ部分には、アリを誘因するエライオソームがある。 オオイヌノフグリ(左)とイヌノフグリ(右)の花の比較。大きさも花色も全く異なり、見分けは難しくない。
▲イヌノフグリの種子。黄白色で船のように凹んでいる。凹んだ部分には、アリを誘因するエライオソームがある。 ▲オオイヌノフグリ(左)とイヌノフグリ(右)の花の比較。大きさも花色も全く異なり、見分けは難しくない。

 

同属の近縁種には、オオイヌノフグリ V. persica がありますが、日本全国のいたるところで見られるオオイヌノフグリに比べて、本種は非常に少なく、環境省のレッドリスト2018では絶滅危惧Ⅱ類、岡山県をはじめとする自治体でもレッドデータ種となっていることが多い植物です。本種とオオイヌノフグリが同所的に生育する場所では、オオイヌノフグリの花粉が本種の雌しべに付くと、本種の正常な種子生産を妨げるという、「繁殖干渉」が起きていることが指摘されており(Takakura K .2013.Two-Way but Asymmetrical Reproductive Interference between an Invasive Veronica Species and a Native Congener.American Journal of Plant Sciences 4(3):534-542.)、本種の減少の一因ではないかと考えられています。現在では、「イヌノフグリ」というと、オオイヌノフグリのことだと思う人もいるくらい、影が薄くなっている本種ですが、オオイヌノフグリの花冠の直径は7~10mmで青紫(るり)色、果実はやや平たく、2つにくびれた先は少し尖っているなどの明らかな違いがあり、一度両種を比較する機会があれば、見分けることは難しくありません。オオイヌノフグリはヨーロッパ原産(ユーラシア、アフリカという説もある)で明治年間に帰化したとされる外来植物ですが、本種も、北半球の温帯~暖帯に広く帰化しており、ヨーロッパあるいは南西アジア原産で日本には古い時代に帰化した(分布を広げてきた)植物という見解(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物5.平凡社.p.84-85)もあります。

オオイヌノフグリの果実。イヌノフグリの果実に比べて扁平で、2つにくびれた先が尖っている。 花がオオイヌノフグリに比べると小さいので、本種としばしば間違われるタチイヌノフグリ。花はるり色。
▲オオイヌノフグリの果実。イヌノフグリの果実に比べて扁平で、2つにくびれた先が尖っている。 ▲花がオオイヌノフグリに比べると小さいので、本種としばしば間違われるタチイヌノフグリ。花はるり色。

 

なお、和名の「ふぐり」は「陰嚢」を意味し、「犬の陰嚢」を意味する名です。ヒトの陰嚢に例えられなかったのは、本種の果実には短毛が多く生えており、イヌなどの毛の多い動物のもの、という印象が強かったためでしょう。なお、前述したようにオオイヌノフグリの果実は扁平で、陰嚢を連想させる形はしていません。つまり、オオイヌノフグリの和名は「大きな犬の・陰嚢」ではなく、「大きな・イヌノフグリ」であり、本種を基準として、植物体が大きいことを表しています。

近年では、オオイヌノフグリと同じくヨーロッパ原産とされる帰化植物、タチイヌノフグリ V.arvensis も路傍や芝生などで良く見られるようになり、花のサイズが小さいことから、これをイヌノフグリと勘違いされる方も多いようですが、花色はオオイヌノフグリと同様の青紫(るり)色ですので、少し気を付けて観察すれば間違えることはありません。

(2019.3.24)

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