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おかやまの植物事典

ヌマトラノオ(サクラソウ科) Lysimachia fortunei

7~8月頃、茎の先に総状花序をつけ、白い花が下部より咲く。花序は屈曲せず、直立する。 地下茎を伸ばして増え、しばしば群生する。背の高い草が茂りすぎない、中栄養な環境が生育適地である。
▲7~8月頃、茎の先に総状花序をつけ、白い花が下部より咲く。花序は屈曲せず、直立する。 ▲地下茎を伸ばして増え、しばしば群生する。背の高い草が茂りすぎない、中栄養な環境が生育適地である。

 

ヌマトラノオは、本州および四国、九州の湿地に生育する高さ40~70cm程度になる多年草です。国外でも朝鮮半島、中国、台湾からインドシナにかけて広く分布します。地下茎を長く伸ばして増え、しばしば群生します。湿地の中でも、貧栄養な環境ではそれほど増えることはなく、ほどほどに養分があるが、背の高い草が茂るほど富栄養ではない、中栄養な環境を好みます。また、雨が降ると一時的に株元が水に浸かるような、地下水位が高く、常に土が湿っている場所に生育します。

花は7~8月頃で、茎の先に長さ10~20cm、直径1~2cm程度の細長い総状花序をつくり、白い花が花序の下から徐々に咲き上がっていきます。花序は直立し、同属のオカトラノオ L. clethroides の花序のように屈曲して垂れ下がるような姿になることはありません。また、花もオカトラノオの花は直径約1cm程度ですが、本種の花は5~6mmと少し小ぶりで、花序もややまばらに花が付いている印象を受けます。また、本種はサクラソウ Primula 属とは別属(オカトラノオ属)ですが、同じサクラソウ科に属しています。花色や花の付き方がサクラソウそのものとは大きく異なるため、違和感を感じられる方も多いのですが、深く5裂した花冠の裂片と雄しべが対生する(他の科では互生する場合が多い)ことや、子房の構造などを見ると、しっかりとサクラソウ科の特徴を備えています。葉は互生し、長さ4~7cm、幅1~1.5cmの披針形または倒披針状長楕円形で、先は短く尖ります。葉の両面はほぼ無毛ですが、光に透かすと、淡色の腺点が全体にあるのがわかります。茎は丸く、点状の毛が散生し、ふつう淡緑色をしていますが、しばしば茎の下部が赤みを帯びることがあります。秋には葉や茎などが鮮やかに紅葉することがあり、「草紅葉(くさもみじ)」のひとつとして秋の湿原を美しく彩ります。

花冠は深く5裂し、雄しべは裂片に対して対生する。花の内部の黒いものはハネカクシ(昆虫)の一種。 葉は互生し、長さ4~7cm、幅1~1.5cmの披針形または倒披針状長楕円形で、先は短く尖る。
▲花冠は深く5裂し、雄しべは裂片に対して対生する。花の内部の黒いものはハネカクシ(昆虫)の一種。 ▲葉は互生し、長さ4~7cm、幅1~1.5cmの披針形または倒披針状長楕円形で、先は短く尖る。

 

地下茎でつながった株。中国名は「紅根草」というがそれほど赤くはなく、乾燥すると赤茶色になる程度。 秋には葉が紅葉することもある。秋の湿原を彩る「草紅葉(くさもみじ)」の代表的なものである。
▲地下茎でつながった株。中国名は「紅根草」というがそれほど赤くはなく、乾燥すると赤茶色になる程度。 ▲秋には葉が紅葉することもある。秋の湿原を彩る「草紅葉(くさもみじ)」の代表的なものである。

 

和名の「トラノオ」とは、花序の形状をトラの尻尾(虎の尾)に例えたものですが、本種の花序は直立しており、長さも短いので、トラの尻尾のイメージはあまりありません。乾燥地に生育するオカトラノオ(丘虎の尾)などは、花序が太く長いうえ、尻尾のように屈曲して垂れ下がるので確かに虎の尻尾のようです。「丘」に対して、湿地(沼)に生育するので、「沼虎の尾」と名付けられたものでしょう。ちなみに中国では本種のことを「紅根草」または「星宿菜」と呼び、全草を生薬として用いる地域があるそうです。「星宿菜」は、葉の腺点を星に例えたものと思われますが、「紅根草」の方は、根を掘ってみると茶色ではありますが、それほど赤い色はしていません。ただ、根を乾燥させると少し赤みが強くなり、赤茶色と言える程度にはなりますので、茎の下部が赤みを帯びることとあわせて、そう呼ばれたのかもしれません。

本種は、岡山県下では比較的普通に生育する湿性植物で、県南部から県北部の中国山地の湿原まで、全県的に分布します。ただ、しばしばオカトラノオとの雑種であるイヌヌマトラノオ L. × pilophora が生育していることがあります。イヌヌマトラノオは生育環境は湿地ですが、葉の幅はオカトラノオほど幅広くなく、ヌマトラノオほど細くなく、花序はヌマトラノオのように完全に直立せず、斜めに屈曲します。曲がり方には幅があるものの、オカトラノオのように花序の付け根付近から屈曲することはない…など、雑種らしく両種の中間の形質を持っています。

(2017.7.15)

乾燥した場所に生育する同属のオカトラノオ。花序は尻尾のように屈曲して垂れ下がる。 オカトラノオとの雑種、イヌヌマトラノオ。湿地に生育し、花序が完全に直立せず、斜めになる。
▲乾燥した場所に生育する同属のオカトラノオ。花序は尻尾のように屈曲して垂れ下がる。 ▲オカトラノオとの雑種、イヌヌマトラノオ。湿地に生育し、花序が完全に直立せず、斜めになる。

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