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おかやまの植物事典

オキナグサ(キンポウゲ科)  Pulsatilla cernua

環境省レッドリスト(2017):絶滅危惧Ⅱ類 / 岡山県レッドデータブック(2009):絶滅危惧Ⅰ類

開花したオキナグサ。柔らかな白毛をまとっている。花弁のように見えるのはがくで、花弁はない。 黄色の葯の雄しべに取り囲まれた暗紫色の毛束のような部分が雌しべ。
▲開花したオキナグサ。柔らかな白毛をまとっている。花弁のように見えるのはがくで、花弁はない。 ▲黄色の葯の雄しべに取り囲まれた暗紫色の毛束のような部分が雌しべ。

 
オキナグサは本州、四国、九州の日当たりのよい原野に生える多年草です。全体に長くて白い毛が多く、根は太く丈夫で深く地中に入ります。花期は4~5月、まず冬枯れした葉の中心から白い毛に覆われた数枚の若葉と花茎が伸びてきます。花茎の先には1個のつぼみが3~4片の茎葉に包まれるように付いており、花茎が10cm位まで伸びると開花し始めます。開花後、花と茎葉との間の花柄は曲がって伸び、2~3日経つと花は下向きに咲くようになります。花の内側は暗赤紫色、外面は白い毛におおわれて白っぽく見えます。実は6枚の花びらのように見えるのは正確には「がく」で、他の多くのキンポウゲ科の花同様、本種には花びら(花弁)はありません。

本種の花は、先端に暗紫色をした多数の雌しべと、多数の黄色の雄しべがそれを取り巻いています。雌しべの数や、綿毛になった状態を見ると、ひとつの頭花からは大変多くの種子が生産されるように思えますが、実際には1個の頭花の雌しべ280本ほどの中で、充実した種子は70個程度、つまり結実率は25%程度です。これは本種の花が雌性先熟(雌しべが先に成熟し、あとから雄しべが成熟する)で、自家受粉を避ける仕組みになっていて、訪花昆虫による受粉に頼っていること、花粉が雨に弱く濡れると受粉能力を失うため、天候によって受粉効率が左右されること(高橋佳孝 他.2003.オキナグサの種子生産は天候に左右されやすい?.日本草地学会誌.49(別) 46-47)などがあるようです。

花が終わると、花茎は長く伸びて高さ30~40cmほどになる。がく片が脱落すると花柱の束が姿を現す。 花柱には多数の長毛が密生している。果実が未熟なうちは長毛は寝た状態で、銀色に輝いて美しい。
▲花が終わると、花茎は長く伸びて高さ30~40cmほどになる。がく片が脱落すると花柱の束が姿を現す。 ▲花柱には多数の長毛が密生している。果実が未熟なうちは長毛は寝た状態で、銀色に輝いて美しい。

 

花は1週間ほど開花を続けたのち、花柄が再びまっすぐ上に向いて伸長し、高さ30cm前後になります。その後、がく片は脱落し、内部の花柱の束が現れます。花柱は最初は短く、長さ3~4cmぐらいまで伸長します。花柱には多数の長毛が密生しており、種子が未熟なうちは寝た状態で瑞々しく銀色に輝いていますが、種子が熟すと乾燥して長毛は毛羽立ち、果実は大きな毛玉の状態となります。種子(厳密にはそう果)は、花柱1本に1個が付いており、タンポポの綿毛同様、風によって散布されますが、タンポポのようにパラシュート型の毛ではなく、鳥の羽根のような形状をしていますので、それほど遠くまでは飛ばないようです。

本種の花茎は、生育初期には1株に1~2本程度ですが、花茎の数は年々多くなり、数年で10数本から数10本にもなりますが、これは株分かれをしているわけではなく、根が太くなり、その断面積分だけ出てくる花茎や葉の数が増えているに過ぎません。大株になると「白絹病」などの病気にかかりやすくなり、根腐れが引き起こされますが、根は一本ですので、根腐れが起こると株全体が一度に枯れてしまいます。管理状況にもよりますが、野外ではおおよそ5年前後が“寿命”のようです。本種が生き延びるためには、大株になって枯れてしまうまでに、種子を散布し、次の世代の実生を作る必要があります。また、本種は、フクジュソウなどの他のキンポウゲ科の植物にみられるように、他の植物が茂る夏期ごろには地上部を枯らして休眠するようなことは無く、冬、霜が降りる時期まで葉を茂らせて生育します。したがって、本種が安定して生育するためには、一年を通じて他の植物に被陰されない、シバ草地のような草丈が極端に低い環境が必要となります。

種子が熟すと、花柱の長毛は乾燥して毛羽立ち、果実全体がふわふわの綿毛となる。 根腐れを起こして枯死した株。株分かれをほとんどしないため、枯れるときは株全体が一度に枯れる。
▲種子が熟すと、花柱の長毛は乾燥して毛羽立ち、果実全体がふわふわの綿毛となる。 ▲根腐れを起こして枯死した株。株分かれをほとんどしないため、枯れるときは株全体が一度に枯れる。

 

和名は、綿毛となった果実が白髪頭の老人を連想させるところから「翁草」と名付けられたものです。中国語でも本種の仲間のことを「白頭翁」と呼びます。ただし中国で「白頭翁」と呼んでいる種は、日本のものとは近縁ですが、別種です。なお、本種は大変に別名(地方名)の多い植物で、一説には300以上も呼び名があるとされます。地方名にはやはり植物体に毛が多いことや果実の綿毛に由来するものが多く、翁だけでなく、お婆さんや筆に例えた名もあります。ちなみに岡山周辺や甲州地方では、「けーせー○○」と呼ばれることがあったようです(八坂書房編.日本植物方言集成)。これは「傾城」の意味だと思われますが、なぜそう呼ばれたのか定かではありませんが、昔の人も本種の花の持つ、妖しくも美しい雰囲気を「傾城の美人」に例えたのだろうと思えます。

岡山県では、オキナグサは1970年代頃までは、ほぼ県下全域の河川敷や田んぼのあぜ、半自然草原などに生育する、ごく身近な花であったようです。しかし現在では、植生の変化や開発によって生育地は激減し、園芸目的での採取などが追い打ちをかけ、県内の自生地は片手で数えられるほどまでに減少しています。当園のオキナグサは、1978年に入手した井原市産の種子由来のものですが、現在は、その自生地もすでに消滅してしまったそうです。

(2017.3.25 改訂)

オキナグサは地方名・別名が非常に多い植物でもある。そのうちの一つ、「フデクサ」とは芽生えたばかりの花茎を筆に例えたものか。 岡山など一部の地域では、「けーせー○○」といった呼び名も。妖しい雰囲気の花を「傾城の美女」に例えたものか。
▲オキナグサは地方名・別名が非常に多い植物でもある。そのうちの一つ、「フデクサ」とは芽生えたばかりの花茎を筆に例えたものか。 ▲岡山など一部の地域では、「けーせー○○」といった呼び名も。妖しい雰囲気の花を「傾城の美女」に例えたものか。

 

オキナグサの育て方(古屋野寛 名誉園長)

種子の保存

オキナグサオキナグサの種子は寿命が短く、常温では数ヶ月で、5月の連休ごろに採取したものは、お盆から秋のお彼岸ごろには死んでしまい全然発芽しなくなります。保存するには、よく乾燥させてから冷蔵庫か冷凍庫に入れることです。冷蔵庫では約10年、冷凍庫では約50年は大丈夫と言われています。

重井薬用植物園では、面倒ですが次の処理を行ってから冷蔵しています。それは、種子を播く時の利便性を考えて、沢山な種子の中からよく実ったものだけを選別し、邪魔になる綿毛をすべて除去し、更に目の細かい篩にかけて厳選した種子だけをフイルムの容器などに入れてから冷蔵庫に入れています。こうしておきますと、発芽テストの際に正確に発芽率が測定できますし、種子を配布するときにも非常に便利です。

ちなみに、よく充実した種子の数は開花時の天候にもよりますが、普通1玉当り30個前後です。これは大きな毛玉だけを摘んだ場合のことで、特に大きな玉には100個以上のこともまれにはありますが、やや小型の玉には0~10個程度しかありません。

雌しべの数が300本前後ですので30個と言うのは約10%です。当園で厳選した種子は100%発芽するはずですが、実際には見掛けだけの充実した種子が混入しますので、80%程度にしかなりません。

 

子苗の移植

本葉が3~5枚出た頃が移植の適期です。子苗の移植で枯らすことがありますので、適期を守ってください。適期を過ぎると根が絡み合って分け難くなり根を傷めて枯らすこともあります。掘り上げた子苗は小さいポリポットに移植します。用土は腐葉土を少し混ぜた園用土が無難です。子苗の移植を嫌う人は、最初から小さいポリポットに用土を入れ、それに1粒ずつ播くそうです。

移植したら用心のために暫らく半日陰に置き、活着を確かめてから再び日向に出します。以後は薄い液肥を水遣り代わりに与えます。その内苗が育ち大きくなりますと鉢が小さくなりますので、やや大き目の鉢に土を落とさないようにそっくり移植します。この作業を繰り返して行けば鉢での栽培も可能ですが、鉢の大きさにも限度がありますので、次の露地植えをお奨めします。

 

露地への定植

オキナグサは、根が深く伸びますので、鉢植えよりも露地植えをお奨めします。一日中日の当たる場所に穴を掘り、鉢から土を落とさないようにそっくり移して土を掛けます。最初は水を掛け時々固形肥料か液肥を与えますが、活着するとそのまま放置しておいても大丈夫です。

 

管理

露地植えのものは特別の管理は要りません。ただ、日陰を作るような雑草が生えるとオキナグサが弱りますので除草は必要です。また、時に小さい蚕のような害虫(キイロハバチの幼虫)が葉を食害します。放置しておきますと葉は太い葉脈だけになりますので、早目に見つけ一匹ずつ捕殺するか殺虫剤を散布してください。

一番厄介なのは白絹病です。葉の根元の土に小さい粒状の菌が多数発生し、オキナグサの地際から溶けたように腐ってしまいます。対策としては、園芸店等に有効な土壌殺菌剤が販売されていますので入手して使用するか、栽培環境によって薬剤の散布が難しい場合には、白絹病は沢山花を付ける大株に発生しますので、若い小苗を補植するようにしておけば絶えることはありません。

 

その他の注意

一度露地に植え開花するようになったオキナグサは、移植したり鉢に上げたりしない方が賢明です。開花株の根はかなり深く地中に潜っていますので、移植の際に根を痛めますと大抵枯れてしまいます。ただ、自然に生えた実生の子苗なら、大き目に掘り取り、土を落とさないように移植することは可能です。

よくオキナグサを株分けしたという人がいます。普通株分けというのは、大株になったものを複数の株に分けることです。オキナグサは、一株から数10本の花茎が出るようになっても株は分かれません。無理に分けると枯れてしまいますし、根をいためずに掘り上げること自体が至難の業です。恐らくその人は、一鉢に複数の苗を育てていたものを一株ずつに分けたのだろうと思います。それなら小株の内なら可能です。

鉢植えのオキナグサを地面に置いていますと、長い間には鉢底の穴から根が出て地中に潜ってしまいます。その時鉢を無理矢理に移動させますと、地中に入った根は切れてしまいます。根が切れると鉢のオキナグサは痛みますが、大株の場合には枯れることはありません。それよりも、地中に残った根から沢山の葉が出てきます。太い根からは大きな葉が、細い根からは小さい葉が出てきます。この根を掘り上げて植えなおしてやりますと一度に多数の子苗が作れます(根ぶせ)。一度お試しください。

オキナグサ

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