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おかやまの植物事典

サルトリイバラ(APGⅢ:サルトリイバラ科/エングラー:ユリ科) Smilax china

花は春に咲く。花色は新葉と同じような淡黄緑色。葉の付け根から2本の巻きひげが出る。 果実は晩秋、鮮やかな赤色に熟す。つるから脱落しにくいため、生け花やクリスマスリースにも使われる。

▲花は春に咲く。花色は新葉と同じような淡黄緑色。葉の付け根から2本の巻きひげが出る。

▲果実は晩秋、鮮やかな赤色に熟す。つるから脱落しにくいため、生け花やクリスマスリースにも使われる。

 

サルトリイバラは、日本全国の日当たりの良い山野に生育するつる性の落葉低木です。国外では、中国、朝鮮半島、台湾から東南アジアにまで分布します。つる性と言っても、茎は硬く、フジなどのように樹木にぐるぐると巻き付くようなことはなく、葉柄部分から出る2本の巻きひげで他の植物にしがみつくようにして成長します。葉は直径3~12cmほどになる円形で、質は厚く、全縁(縁にギザギザがない)、両面無毛です。茎にはまばらに鋭いトゲがあり(トゲの数には個体差があり、ほとんどない個体もある)、葉が着いた部分ごとに折れ曲がってジグザグになっています。花は4~5月頃、葉の付け根の部分から散形花序を出し、淡黄緑色の花を多数咲かせます。果実は液果で、晩秋に鮮やかな赤色に熟します。熟したばかりの時には食べることもできますが(甘くはないが、少し酸っぱい味)、時期が遅くなると、乾燥してしまって中は種子ばかりになります。鳥などに食べられなければ落葉後もつるに残るため、生け花や、クリスマスリースの飾りなどにも使われます。果実の中にはあずき色をした直径1cm弱の種子が5~6個入っています。

本種は、従来の分類体系(新エングラー分類体系)では、ユリ科とされていましたが、葉は網状脈が発達するなど、形態的に他のユリ科とは異なる部分が多く、遺伝的な解析結果を反映した新しい分類体系(APG分類体系)では、ユリ科からは独立してサルトリイバラ科(あるいはシオデ科)とされています。

果実は直径1cm弱。中にはあずき色の種子が5~6個ほどある。時期が遅くなると乾燥した状態になる。 茎は葉が付いている部分ごとに折れ曲がるため、上から見るとジグザグになっている。
▲果実は直径1cm弱。中にはあずき色の種子が5~6個ほどある。時期が遅くなると乾燥した状態になる。 ▲茎は葉が付いている部分ごとに折れ曲がるため、上から見るとジグザグになっている。

 

本種の葉は、大きなものは直径10cmを超える大きさとなり、西日本を中心に端午の節句などに「かしわ餅」を作る際、餅を包む葉として使われます(岡山県周辺では、「しば(柴)餅」とも呼ばれます)。これを「西日本にはブナ科のカシワの木が少ないので、カシワの代用品として使った」と説明されることがありますが、「かしわ餅」の“かしわ” は、昔、食べ物を炊く(蒸す)際に使った様々な種類の大きな葉を「炊し葉」といい、「炊し葉」とされた樹木のうちの一種が「カシワ」と名付けられたに過ぎません。植物の葉を使って餅や団子を包むことは、古来より各地で広く行われており、本種を使った「かしわ餅/しば餅」は決して代用ではなく、「炊葉餅」のひとつの形と考えるのが適当であると思われます。

「サルトリイバラ」は、「猿捕り茨」で、本種の茂みにサルを追い込むと、トゲが引っ掛かって身動きが取れなくなり、容易に捕えることができるとの意味です。実際にサルが引っ掛るのかどうかは分かりませんが、山歩きをする方なら、ちょっとした茂みに近づいた際に、本種のトゲが服に引っかかってしまい、困った経験がある方も多いのではないかと思います。昔の人も、よく本種のトゲに悩まされて、身軽なサルでも引っ掛かる、という名をつけたのではないでしょうか。また、本種の別名として「山帰来(サンキライ)」という名があげられることがあります。これは病気(かつて不治の病とされた梅毒など)にかかり、山に捨てられた人が、この植物の根を薬として用い、治癒して「山から帰り来た」ので、と言われます。ただし、漢方薬として用いる「山帰来」は、中国などに産し、生薬名(中国名)を「土茯苓(どぶくりょう)」という、ナメラサンキライ S. glabra という別種のことで、本種は正確には「和山帰来(わのさんきらい)」、生薬として用いる根茎部分は生薬名(中国名)を「菝葜(ばっかつ)」といい、異なるものです。

 

茎にはまばらに鋭いトゲがある。名はサルですら引っ掛かって身動きが取れなくなり、捕えられてしまうイバラの意味。 西日本では、本種の葉を使って、餅や団子を包む。「かしわ餅」の一形態であって、「カシワの代用」ではない。岡山県周辺では「しば(柴)餅」とも呼ばれる。
▲茎にはまばらに鋭いトゲがある。名はサルですら引っ掛かって身動きが取れなくなり、捕えられてしまうイバラの意味。 ▲西日本では、本種の葉を使って、餅や団子を包む。「かしわ餅」の一形態であって、「カシワの代用」ではない。岡山県周辺では「しば(柴)餅」とも呼ばれる。

 

本種は、「サンキライ」の他にも、別名や地方名が多い植物として知られます。岡山県では、主に「さんきら」、「ぐい」、「だんがめ(スッポンのこと)」などと呼ばれますが、九州南部では「かから」などと言い、本種の「かしわ餅」のことを、「かから/かからん餅(団子)」というそうです。近縁種に園芸種として流通もしている、葉の小さなヒメカカラ Smilax biflora という種がありますが、これはヒメカカラの自然分布が屋久島から奄美諸島であることから、九州地方の地方名がそのまま使われたもので、「小さなサルトリイバラ」の意味です。 「かから」の語源については一般には、はっきりしないとされていますが、岡山県中部以北から山陰地方にかけて、「たたらぐい」という呼び名があります。「たたら」は「たたら製鉄」のことと考えられ、本種は森林が伐採されたような日当たりのよい立地に良く生えることから、森林を切り開いて行う、「たたら」の周辺に良く生えている「ぐい=トゲのある植物」の意味で「たたらぐい」と呼ばれたのではないかと思われます。九州地方も古代にはたたら製鉄が盛んであったとされますので、「たたら」が変化して「かから」となった(あるいはその逆)のではないかと推測しています。ひょっとすると、本種の「かしわ餅/しば餅/かから餅」には、餅だけではなく、悠久の古代史も包み込まれているのかもしれません。

(2018.5.5 改訂)

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