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園内花アルバム

ワレモコウ(バラ科) Sanguisorba officinalis

日当たりのよい草地に生育する。秋の七草には詠まれていないものの、秋の風情を感じさせる代表的な草本。 花弁に見えるのは暗赤紫色の「がく」。花は花序の先から下部に向けて咲き進む。ピンク色の萼片が開花中の花。
▲日当たりのよい草地に生育する。秋の七草には詠まれていないものの、秋の風情を感じさせる代表的な草本。 ▲花弁に見えるのは暗赤紫色の「がく」。花は花序の先から下部に向けて咲き進む。ピンク色の萼片が開花中の花。

 

ワレモコウは、北海道、本州、四国、九州の日当たりのよい草地に生育する、高さ0.3~1.5mほどになる多年草です。国外ではヨーロッパからロシア、朝鮮半島、中国のほか、北アメリカにも分布しています。花は夏から秋にかけて、分枝した茎の先端に長さ1~3cmの卵型~短円柱状の穂状花序を1個づつつけて咲きます。花は花弁(花びら)がなく、暗赤紫色をした4枚の萼片がまるで花弁のように見えます。萼片は開花終了後もそのままの色・形で宿存するため、開花中なのか既に開花終了しているのか、花序をぱっと見ただけでは判りにくいのですが、よく見てみると、開花時の萼片は少し白っぽい色をしていて、4本ある雄しべの暗赤色の葯から黄色い花粉が出ているのを観察することができます。花は花序の先端から下部へ、ほぼ同じタイミングで咲き進んでいきます。果実は長さ2.5mm程度の痩果で3稜形をしており、内部には1個の種子が入っています。

果実には萼片が宿存し、3稜がある。写真は未熟な果実のため緑色だが、熟すと暗褐色となる。 葉は奇数羽状複葉で、整った鋸歯がある。基部には托葉があり、茎を抱く。
▲果実には萼片が宿存し、3稜がある。写真は未熟な果実のため緑色だが、熟すと暗褐色となる。 ▲葉は奇数羽状複葉で、整った鋸歯がある。基部には托葉があり、茎を抱く。

 

葉は奇数羽状複葉(先端に小葉がつくので、必ず小葉の数が奇数になる)で、小葉は両面無毛で5~13枚、幅1.5~3cm、長さ2.5~6cm程度の長楕円形をしており、縁には整った鋸歯があります。小葉の裏面はやや緑白色をしています。また、葉の基部には茎を抱くように2枚の托葉があります。地下の根茎は太く木質で、ところどころ円柱状もしくは錘形に肥厚しています。横に這って広がり、茎を地上に伸ばすので、管理状態や環境によっては、それほど密生はしないものの、しばしば群生状態になることがあります。漢方では、この根茎を掘り上げて乾燥させたものを「地楡(ちゆ)」と呼んで、下痢や吐血時の止血などの生薬として用います。これはそのまま、本種の漢名(中国名)でもあり、葉の質感や鋸歯の様子が「楡(ニレ)」に似て、地面に生える草本であることを指したものでしょう。

地下の根茎は太く木質となる。漢方では、この根茎を「地楡」とよび、生薬として用いる。 開花終了後の花。4枚の萼片の様子を「帽額(もこう)」あるいは「木瓜紋」に例えたというが…。
▲地下の根茎は太く木質となる。漢方では、この根茎を「地楡」とよび、生薬として用いる。 ▲開花終了後の花。4枚の萼片の様子を「帽額(もこう)」あるいは「木瓜紋」に例えたというが…。

 

比較的わかりやすい漢名に対して、和名は、「吾亦紅」、「吾(我)木香」、「吾(我)毛香」、「吾木瓜」など、様々な漢字が当てられており、由来についても諸説乱立、という状態です。古典においては『源氏物語』の第四十二帖「匂宮」に「われもかう」と、かなで書かれているのが初出とされます(深津正 著.2000.植物和名の語源探究.八坂書房.p.137)。現在、もっともよくみられる漢字表記は「吾亦紅」で、俳人、高浜虚子が詠んだ「吾も亦 紅なりと ひそやかに」の句が有名なように、「私も赤い花なのだ」と花が訴えている、という話があることから来ているようです。また、「吾(我)木香」は、生薬で芳香のある「木香」(インド原産のキク科の植物 モッコウ Saussurea costus の根)が健胃や整腸などに用いられることから、本種には芳香はないものの、同様の薬効があり、日本に産するという意味で、「我(が国の)木香」と称した名ではないかとされます(深津正 著.2000.植物和名の語源探究.八坂書房.p.145)。なお、「毛香」は中国では、キク科のウスユキソウの一種 Leontopodium stracheyi に「毛香火絨草」の名がありますが、「我毛香」の場合は、おそらくは「もこう」の音に単に字をあてただけかと思われます(ちなみに火絨草は、毛を火口・灸として用いたことから)。

「木瓜紋」の色々。ワレモコウの花に似ている?(沼田頼輔 著.1926.日本紋章学.明治書院.P.1266/画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載) 御簾の「帽額」の文様(世尊寺伊房 詞書.源氏物語絵巻/画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載)
▲「木瓜紋」の色々。ワレモコウの花に似ている?(沼田頼輔 著.1926.日本紋章学.明治書院.P.1266/画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載) ▲御簾の「帽額」の文様(世尊寺伊房 詞書.源氏物語絵巻/画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載)

また別の説には、家紋の種類の一つに「木瓜(もっこう)紋」という紋章があり、本種の4枚の萼片の様子が「木瓜紋」に割れ目を入れたようであるので、「割れ木瓜」が由来であるともされます。ちなみに「木瓜紋」自体の由来は、「木瓜」は野菜のキュウリのことで、キュウリを輪切りにした断面に模様が似ているので…とされることもありますが、木瓜紋は元々中国より伝来した文様で、御簾の上部の飾り幕の「帽額(もこう)」によく使用されたことが本来の由来であるとされます。

本種は意外なことに万葉集には登場していません。初出とされる「源氏物語」では、「物気無き(目立たない、みすぼらしい)とされており、万葉人には少々受けの悪い植物だったのかもしれません。しかし江戸時代には小林一茶、近代では高浜虚子や若山牧水が俳句や短歌に詠むなど、秋の風情やあるいはもの寂しさを感じさせる植物として、現代に至るまで愛され続けている植物となっています。

(2018.9.23)

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