トップページ


重井薬用植物園の見学は予約制です。

見学をご希望の方 こちらをクリック



お問い合わせ

重井薬用植物園
岡山県倉敷市浅原20
TEL:086-423-2396
FAX:086-697-5865
E-mail:shigeihg@shigei.or.jp

 

園内花アルバム

ユウスゲ(APGⅢ:ススキノキ科/新エングラー:ユリ科) Hemerocallis citrina var. vespertina

花はレモンイエローで花弁は6枚、軽く反り返る。夕方から翌朝まで咲き、一日花というよりは半日花。 当園の湿地エリアでは数百の花が乱れ咲く。野生ではここまでの群生になることは少ない。
▲花はレモンイエローで花弁は6枚、軽く反り返る。夕方から翌朝まで咲き、一日花というよりは半日花。 ▲当園の湿地エリアでは数百の花が乱れ咲く。野生ではここまでの群生になることは少ない。

ユウスゲは本州(中部以南)・四国・九州の日当たりの良い草地に生育するススキノキ科ワスレグサ属の多年草です。花期は7~8月で、高さ1~2mほどの花茎の先に次々とレモンイエローの花を咲かせます。葉は地際から束生し、長さ40~100cm程度の線形をしています。「ユウスゲ」の名は、「夕菅」と書き、細長い葉がカヤツリグサ科のスゲ(菅)類の葉に似ていることと、花が夕方にから咲くことから名付けられたとされます。また花の色からキスゲ(黄菅)とも呼ばれます。

属の学名のHemerocallis(ヘメロカリス)は「美しさ+1日」という意味のギリシャ語が語源となっており、この仲間の花が一日でしぼんでしまうことを意味しています。同じ属のノカンゾウやヤブカンゾウ、ニッコウキスゲ(ゼンテイカ)なども一日花ですが、花が咲いている時間は、夕方から開花して翌日の夕方に閉じるもの、朝に咲いて夕方に閉じるものなど、種によって様々です。本種の花は、開花しているのは夕方から翌朝までのおおよそ12時間程度で、一日花というよりは半日花といったほうが良いかもしれません。変種名となっているvespertinaも「夕方」の意味で、この花が夕方から開花することを指したものです。ただ、あまり厳密に時間を決めて咲いているわけではなく、午前中が晴れで昼頃から降雨があるなど、薄暗くなり気温が下がる、夕暮れ時に近い環境変化があった場合には、14時頃から咲くこともあります。

ワスレグサ属は旧来の分類体系(エングラー、クロンキスト分類体系)では、ユリ科に分類されていましたが、遺伝子解析による系統分析の結果を反映した新しい分類体系(APG分類体系)では、ススキノキ科(Xanthorrhoeaceae)という科に含められています。ススキノキとは聞きなれない名ですが、ススキノキはオーストラリアに自生し、ススキのように細い葉を持つのでその名がある植物です。ササユリやコオニユリなどのユリ科ユリ属の地下部はいわゆる鱗茎(ユリ根)状ですが、ワスレグサ属の地下部は肥大したひげ根状であること、ユリ属の種子は周囲に薄い膜(翼)があるのに対し、ワスレグサ属の種子は、不規則にゆがんだ形をした塊状である、などの形態的な違いがあります。そのため、もともとユリ科の中でも別の属とされていましたが、遺伝子を調べてみると、系統的にも違いが大きく、むしろススキノキに近かった…ということのようです。

 

葉は線形で地際から束生する。この葉がカヤツリグサ科のスゲ類に似ていることが名の由来だという。 ユウスゲのひげ根(左)とコオニユリの鱗茎(右)
▲葉は線形で地際から束生する。この葉がカヤツリグサ科のスゲ類に似ていることが名の由来だという。 ▲ユウスゲのひげ根(左)とコオニユリの鱗茎(右)


 属の和名のワスレグサ(忘れ草)という名はムラサキ科の「ワスレナグサ(忘れな草)」とよく似ていますが、「ワスレグサ」は、中国でこの仲間を「忘憂草」と呼び、身に帯びると、辛いことや憂いを忘れることができると信じられていたことに由来し、「私を忘れないで」というワスレナグサとは正反対の意味です。中国では「忘憂草」以外にも、本種に近い仲間を「麝香萱」または「黄花菜」とも呼びます。「麝香萱」は花に「麝香(ムスク)」のような香りがあることを意味していますが、本種の香りは控えめで香水のようには強くありません。しかし、群生しているような場所では独特の良い香りが周辺に漂います。「黄花菜」は「菜」の字のとおり、中華料理では、この仲間の蕾を「金針菜」と呼んで食材とします。金針菜は乾燥させた物もあり、普通は肉などと一緒に油炒めなどにしますが、生の花や蕾は天ぷらやおひたしにすると、ほのかな甘みと香りが楽しめます。鉄分などを多く含み、栄養価も高いようですが、日本ではノカンゾウやヤブカンゾウの新芽(葉)は山菜として利用されるますが、花はほとんど利用されていないようです。

本種は岡山県では県北部を中心にほぼ全域に分布しています。県南部では少なく、湿地周辺などの自然草地がおもな生育地となっていますが、県中~北部では、湿地周辺に加えて、やや湿った田の畔、林縁草地、火入れが毎年行われているような半自然草地がおもな生育地となっています。特に真庭市の火入れ草地には、本種のみを食草とする、フサヒゲルリカミキリ(「種の保存法」による国内希少野生動植物)が生息しています。当園では、地元の自然系施設・住民と連携しながら、ユウスゲを含めた草地環境の保全活動(火入れ・草刈りなど)に取り組んでいます。

ユウスゲの種子(左)とササユリの種子(右) ユウスゲのみを食草とするフサヒゲルリカミキリ
▲ユウスゲの種子(左)とササユリの種子(右) ▲ユウスゲのみを食草とするフサヒゲルリカミキリ

 

当園では、岡山県内の複数の産地から集めたものを園内で増殖しており、温室エリア、湿地エリアあわせると1,000株以上になっています。特に湿地エリアでは、最盛期には数百の花が一度に咲き、幻想的な光景となります。開花が閉園後になりますので、通常は見学していただくことはできませんが、一般の方向けに年に1度、7月に夜間の観察会を開催していますので、その際に参加していただければ、きっと憂いを忘れていただくことができるものと思います。

(2016.7.23 改訂)

▲このページの先頭へ
▲園内花アルバムのトップページへ