トップページ


重井薬用植物園の見学は予約制です。

見学をご希望の方 こちらをクリック



お問い合わせ

重井薬用植物園
岡山県倉敷市浅原20
TEL:086-423-2396
FAX:086-697-5865
E-mail:shigeihg@shigei.or.jp

 

おかやまの植物事典

アヤメ (アヤメ科) Iris sanguinea

環境省レッドリスト2020:該当なし / 岡山県版レッドデータブック2020:準絶滅危惧

アヤメ属の植物には湿生の種類も多いため勘違いされることも多いが、本種の生育環境は乾燥した草地である。 5~7月頃、花茎の頂部に径8cm程度の紫色の花をつける。外花被片の中央~付け根にかけて網状の模様がある。
▲アヤメ属の植物には湿生の種類も多いため勘違いされることも多いが、本種の生育環境は乾燥した草地である。 ▲5~7月頃、花茎の頂部に径8cm程度の紫色の花をつける。外花被片の中央~付け根にかけて網状の模様がある。

 

アヤメは北海道、本州、四国、九州の山地草原に生育する多年草です。国外では韓国、中国東北部、ロシア(シベリア東部)に分布します。岡山県でも中~北部の草地に分布するとされますが、古くから栽培される植物でもあり、自然分布の範囲を正確に把握することは非常に難しいのですが、生育環境である半自然草原が減少していることなどから、岡山県レッドデータブック2020では「準絶滅危惧」とされています。本種と同属で、栽培もされる仲間には、カキツバタI. laevigata 、ノハナショウブ I. ensata var. spontanea 、ハナショウブ I. ensata var. ensata など、水辺に生える湿生植物も多いため、本種も湿った場所に生育すると勘違いされている方も多いのですが、本種は日当たりがよく乾燥気味の草原を生育環境とする、草原の植物です。

外花被片の模様の上を覆うように伸びているのが花柱(雌しべ)。雄しべはその下にあり、外部からは見えない。 果実は蒴果、長さ3~4cm程度の楕円~長楕円形。8~9月頃に熟すと、先が3裂して内部の種子を散布する。
▲外花被片の模様の上を覆うように伸びているのが花柱(雌しべ)。雄しべはその下にあり、外部からは見えない。 ▲果実は蒴果、長さ3~4cm程度の楕円~長楕円形。8~9月頃に熟すと、先が3裂して内部の種子を散布する。

 

5~7月頃(当園では5月上旬~6月上旬頃)、高さ30~60cm程度の花茎の頂部に、直径8cmほどの紫色の花を2~3個つけます。形状幅が広く、垂れ下がった形状になっている部分を「外花被片(がいかひへん)」、長さ4cmほどで直立している部分を「内花被片(ないかひへん)」といい、外花被片の中央部から爪部(付け根)にかけては、黄色地に濃い紫色の網目模様があります。この網目模様の上をぴったりと覆うように伸びているのが花柱(雌しべ)で、一見、外花被片の一部のように見えます。先は2裂しており、裂片の先は歯牙(ギザギザ)になっています。雌しべの柱頭は2裂した部分の基部の部分です。雄しべは外花被片と花柱に挟まれており、外部からは見えませんが、訪花昆虫が蜜を求めて外花被片と花柱の隙間に潜りこんだ際、昆虫の背面に花粉を付着させる構造になっています。果実は長さ4cmほどの長楕円形の蒴果(熟すと裂けて種子を散布するタイプの果実)で、8~9月頃に熟して先が3裂します。種子は直径4~5mm程度の褐色で、果実の中に整然と並んで入っており、ひとつひとつは少し歪んだカマボコを切ったような形をしています。

種子は褐色、直径4~5cm程度で、少しゆがんだカマボコを切ったような形をしている。 葉は長さ30~50cm程度、剣型をしていて直立する。中脈はショウブやノハナショウブの葉ほど目立たない。
▲種子は褐色、直径4~5cm程度で、少しゆがんだカマボコを切ったような形をしている。 ▲葉は長さ30~50cm程度、剣型をしていて直立する。中脈はショウブやノハナショウブの葉ほど目立たない。

葉は長さ30~50cm、幅0.5~1cm程度で、先が尖った剣型をしています。葉には中脈がありますが、ショウブ科のショウブ Acorus calamus やノハナショウブの葉の中脈ほど目立ちません。この葉が、奈良時代頃は、「あやめ(ぐさ)」と呼ばれていたショウブの葉に似ていて、目立つ花が咲く植物、ということで、本種は奈良時代頃には「はなあやめ」と呼ばれていたようです。しかし平安時代後期頃には、だんだんと本種のほうを単に「あやめ」と呼ぶようになり、ショウブは「菖蒲」を音読みして「しょうぶ」と呼ばれるようになったようで、枕草子などにも「さうぶ」の名が登場しています(木下武司.2010.万葉植物文化誌.八坂書房.p.71)

植物図鑑によっては、本種の和名について、外花被片の「網目」模様があることが由来である、と解説されている場合がありますが、前述のように「あやめ」の名がショウブに由来することをふまえれば、「あみめ→あやめ」説は誤りと言えます。しかし、同時期に咲くカキツバタなど、アヤメ属の植物の花は似たものが多く特徴をおぼえにくいので、特徴を記憶する方法として「網目が(あるのが)アヤメ」とおぼえておくのは良い方法です。さらに「似ているけど、性格(生育環境)は真反対」と、乾燥地に生育する本種と、湿地に生育するカキツバタの生育環境の違いもおぼえておくと良いかもしれません。

なお、「いずれ菖蒲か杜若」という言葉がありますが、これは「太平記 巻二一」の源頼政が詠んだという「五月雨に沢辺の真薦水越て何菖蒲と引ぞ煩ふ」という和歌に由来しますが、この歌は、雨が降って沢辺の水が増え、どれが「あやめ」か、マコモかわからなくなってしまった…という歌であり、本種が増水時に水没するような場所に生育することは考えにくいことから、この歌が指す「あやめ」は、本種ではなく、水辺に生育するショウブ科のショウブのほうであると考えられます。

(2022.5.22 改訂)

本種とほぼ同時期に咲き、「いずれ菖蒲か杜若」との例えにも登場するカキツバタ。こちらは水辺に生育する。 万葉集における「あやめ」、ショウブ科のショウブ。こちらは花(花序)は目立たないが、植物体に芳香がある。
▲本種とほぼ同時期に咲き、「いずれ菖蒲か杜若」との例えにも登場するカキツバタ。こちらは水辺に生育する。 ▲万葉集における「あやめ」、ショウブ科のショウブ。こちらは花(花序)は目立たないが、植物体に芳香がある。

 

▲このページの先頭へ