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おかやまの植物事典

キシツツジ(ツツジ科) Rhododendron ripense

環境省レッドリスト2020:該当なし / 岡山県版レッドデータブック2020:絶滅危惧Ⅱ類

増水時の水流に耐えるためか、特に剪定をしなくとも、枝はあまり立ち上がらず、横に広がるような樹形となる。 4~5月頃、1~3個の淡紅紫色の花が、葉の展葉とほぼ同時に咲く。花冠は直径4~6cm、雄しべは普通10本。
▲増水時の水流に耐えるためか、特に剪定をしなくとも、枝はあまり立ち上がらず、横に広がるような樹形となる。 ▲4~5月頃、1~3個の淡紅紫色の花が、葉の展葉とほぼ同時に咲く。花冠は直径4~6cm、雄しべは普通10本。

 

キシツツジは本州(岡山県以西の中国地方)、四国、九州(大分県)の川岸の岩上などに生育する高さ0.5~1.5m程度になる半常緑低木です。岡山県における分布は、県西部を流れる高梁川流域に概ね限られており、中部を流れる旭川流域以東には、近縁のモチツツジ R. macrosepalum が本種に置き換わるように分布しており、岡山県が2種の分布の境界となっています。国外には分布しておらず、日本固有種とされます。

本種は川岸の中でも、通常の水位では水に浸からず、増水時にのみ水没するような場所のみに生育することが多く、「渓流沿い植物(渓流植物/渓岸植物)」のひとつとされます。本種を植栽した場合、水際でなくても問題なく生育しますが、剪定で形を整えなくても、枝は上方にはほとんど伸長せず、横に広がるような樹形となります。おそらくは増水時の強い水流に耐えるための性質であると考えられます。

花は4~5月頃にかけて、枝先に1~3個の先が5中裂した、直径4~6cmの漏斗(ラッパ)状の淡紅紫色の花を葉の展葉とほぼ同時に咲かせます。上側の裂片には紅紫色の斑点があり、花の中心からは、先端部が上方に屈曲した1本の雌しべと普通10本の雄しべが伸びています。花の萼(がく)と花柄には粘液を持った腺毛が散生しており、触るとやや粘りますが、モチツツジほどには粘りません(モチツツジは春には糸を引くほど粘る)。葉は花と一緒に展葉する「春葉」と夏以降に出る「夏葉」があり、春葉は長さ3~5cm、幅0.8~1.5cm程度の長楕円形で、両面に淡褐色の長毛があります。夏葉は春葉よりも細く小型で、一部は冬にも落葉せず、そのまま越冬します。種子は淡褐色~褐色をしており、長さ0.8~1.2mmほどと小さく、8~10月頃に果実が裂開して散布されます。裂開した果実は冬頃にも枝先に残っていることがしばしばあります。

萼や花柄には腺毛が散生しており、触るとやや粘る。県東部に分布するモチツツジはさらに腺毛が多く、粘る。 葉は春葉と夏葉がある。写真は花と一緒に出る春葉で、長さ3~5cm、幅0.8~1.5cm程度の長楕円形。
▲萼や花柄には腺毛が散生しており、触るとやや粘る。県東部に分布するモチツツジはさらに腺毛が多く、粘る。 ▲葉は春葉と夏葉がある。写真は花と一緒に出る春葉で、長さ3~5cm、幅0.8~1.5cm程度の長楕円形。

 

岡山県では、分布の境界ということもあって個体数があまり多くないうえ、生育環境が河川周辺に限定されているため、護岸工事や道路工事などの影響を受けやすく、個体数が減少傾向にあり、岡山県レッドデータブック2020では「絶滅危惧Ⅱ類」とされています。岡山県より西、あるいは四国に行くと個体数がやや多くなり、広島県東部などでは川岸だけではなく、ため池の岸や堤防法面などにも生育しています。

裂開した果実と越冬する夏葉(写真右側)果実は蒴果で直径1cmほどの狭卵形。写真は1月初旬撮影。 種子は淡褐色~褐色、長さ0.8~1.2mmほどで小さく、果実の中に多数入っている。
▲裂開した果実と越冬する夏葉(写真右側)果実は蒴果で直径1cmほどの狭卵形。写真は1月初旬撮影。 ▲種子は淡褐色~褐色、長さ0.8~1.2mmほどで小さく、果実の中に多数入っている。

 

和名は「岸・躑躅(つつじ)」で、川岸に生育することに由来します。学名の種小名 ripenseも、「川岸に生える」という意味のラテン語に由来しますが、これは本種を記載した牧野富太郎博士の命名です。ただ、和名については牧野博士の原記載文(T.Makino.1908.Observations on the Flora of Japan(Continued from p. 38).植物学雑誌22: 254.p. 55-57)では、土佐地方の地方名として別名の「Iso-tsutsuji」(イソツツジ)のみが書かれており、「キシツツジ」の名は書かれていません。ツツジ類は江戸時代に多くの園芸品種が作出され、本種についても人為的に他種と交配されて様々な園芸品種が作られており、自然雑種として、モチツツジとの雑種 リュウキュウツツジ R. × mucronatum ヤマツツジとの雑種 サンヨウツツジ R. × komatsui などが知られており、それぞれを元にして、さらに多くの園芸品種が作出されています。江戸時代には「躑躅譜」(坂本浩然,1836)などツツジに関する様々な書籍も発行されていますが、それらの中にも「キシツツジ」の名は見当たりません。推測ですが、江戸時代にはモチツツジあるいはリュウキュウツツジと区別されずに扱われていたものが、明治以降、国内の植物の分類が進展する過程で、牧野博士が名付けた種小名であるripenseからキシツツジの名が生まれ、使われるようになったのかもしれません。

(2020.4.30 改訂)

岡山県より西に行くと比較的個体数が多くなる。写真は広島県東部で、ため池の堤防法面に生育している様子。 ▲岡山県以東に分布するモチツツジ。キシツツジに比べて萼と花柄に腺毛が多く、強く粘る。雄しべは普通5本。
▲岡山県より西に行くと比較的個体数が多くなる。写真は広島県東部で、ため池の堤防法面に生育している様子。 ▲岡山県以東に分布するモチツツジ。キシツツジに比べて萼と花柄に腺毛が多く、強く粘る。雄しべは普通5本。


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