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おかやまの植物事典

ミコシギク(キク科) Leucanthemella linearis

環境省レッドリスト2020:絶滅危惧Ⅱ類/岡山県版レッドデータブック2020:絶滅危惧Ⅰ類

秋、園芸種か帰化植物と見まがうような大型の頭花を咲かせるが、氷期の遺存植物のひとつ。 総苞片は3列で円頭、ほぼ同長。縁は粗く切れ込んだ濃褐色の膜状になっている。
▲秋、園芸種か帰化植物と見まがうような大型の頭花を咲かせるが、氷期の遺存植物のひとつ。 ▲総苞片は3列で円頭、ほぼ同長。縁は粗く切れ込んだ濃褐色の膜状になっている。

 

ミコシギクは日当たりの良い湿地に生育する高さ30~100㎝ほどになる多年草です。茨城県以西の本州、九州に点々と分布していますが、湿地の開発などで生育地が減少し、絶滅に瀕している植物です。国外では中国東北部や朝鮮半島にも分布し、日本には氷期に朝鮮半島経由で分布を広げてきた、いわゆる氷河期の遺存植物のひとつと考えられています。種子の他、地下茎を土中に伸ばし、先端から新芽を出して増えます。花は秋(9~11月)、上部で分枝した茎の先端に直径3~6㎝の白色の舌状花を持つ頭花を一つずつ咲かせます。頭花の総苞片(「がく」に見える部分)は線形で円頭、3列に並んでほぼ同長、縁は粗く切れ込んだ濃褐色の膜状になっています。葉は長さ5~10㎝、幅2~5㎜程度の細長い線形~披針形か、1~2対の細長い裂片があり、縁は裏側にやや曲がっています。表面はややざらつき、葉裏には曲がった白色短毛があります。茎下部の葉は花期 には枯れてしまいます。茎上部には稜があり、曲がった白色短毛が密生します。

葉は線形~披針形だが、1~2対の裂片を持つ葉もあり、同じ茎に両方のタイプがあることも普通。 葉の表面はややざらつき、葉縁は裏側に曲がる。葉裏は曲がった白色短毛がある。
▲葉は線形~披針形だが、1~2対の裂片を持つ葉もあり、同じ茎に両方のタイプがあることも普通。 ▲葉の表面はややざらつき、葉縁は裏側に曲がる。葉裏は曲がった白色短毛がある。

 

本種を初めて見る方の中には、「マーガレット(フランスギク)」ではないのか、と言われる方がいますが、フランスギク Leucanthemum vulgare はヨーロッパ原産の帰化植物で、花期は5月頃の春の花ですし、花は確かに似ていますが、葉の様子は全く異なりますので、落ち着いて観察すれば、まず間違えることはありません。

ミコシギクの名は「御輿/神輿+菊」で、祭りの神輿行列や大名行列の際に振り歩く装飾された槍(御輿槍)の様子に、長い茎の先に大きな花が咲く本種の姿が似ているということで付けられたとされます。現在でも、祭りの行列の中で、動物の毛などで装飾された「毛槍」などを回転されたり、上下させたりする光景が見られますが、白い毛槍の毛が広がった様子は、まさに本種の花のイメージと言えるかもしれません。秋、本種の花が群れ咲く光景は、御輿行列が練り歩いている光景をを思わせます。じっと眺めていると、秋祭りの祭囃子が聞こえてくる・・・かも知れません。

茎葉は葉柄がない(無柄)で、茎上部には稜があり、曲がった白色短毛が密生する。 本種とよく似た、フランスギク(英名:マーガレット)。こちらの花期は春。
▲茎葉は葉柄がない(無柄)で、茎上部には稜があり、曲がった白色短毛が密生する。 ▲本種とよく似た、フランスギク(英名:マーガレット)。こちらの花期は春。

 

岡山県では、1903(明治36)年に、岡山県吉備郡大和村(現吉備中央町)で見つかったのが最初で、当時、国内では千葉県に次いで2ヶ所目の生育確認であったといいます(難波早苗,1993.岡山県内に自生する特殊な植物.岡山県環境保全事業団)。現在では吉備中央町からは姿を消しており、県内で確実な自生地は、国指定天然記念物の「鯉ヶ窪湿地」など数か所のみとなっています。当園では、2011年に県西部の山間湿地に生育していたものを入手し、栽培・増殖に取り組んでいます。

(2015.10.12)

江戸後期の「神田明神祭禮繪卷(2巻)」に描かれた毛槍などを持つ人物。(画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載) 長い茎の先に大きな頭花が咲いた様子が、毛槍などを持った神輿行列を思わせる。
▲江戸後期の「神田明神祭禮繪卷(2巻)」に描かれた毛槍などを持つ人物。(画像は国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/ より転載) ▲長い茎の先に大きな頭花が咲いた様子が、毛槍などを持った神輿行列を思わせる。


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