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おかやまの植物事典

ジュズダマ (イネ科) Coix lacryma-jobi var. lacryma-jobi

熱帯アジア地域原産で古い時代に日本に渡来した植物とされる。 水田周辺やため池の岸など、水辺に生育することが多い。 葉は長さ20~50cm、幅1.5~4cmでススキなどより幅広い印象をうける。 白い中央脈が目立ち、葉の縁、葉表はざらつく。
▲熱帯アジア地域原産で古い時代に日本に渡来した植物とされる。 水田周辺やため池の岸など、水辺に生育することが多い。 ▲葉は長さ20~50cm、幅1.5~4cmでススキなどより幅広い印象をうける。 白い中央脈が目立ち、葉の縁、葉表はざらつく。

 

ジュズダマは、インドシナ半島、インドネシアなどの熱帯アジア地域を原産とする多年草で、日本では本州から沖縄までの水田周辺やため池、比較的流れの穏やかな水路わきなどの水辺で見られます。 日本で見られるジュズダマ属の植物は本種1種のみ(栽培される変種 ハトムギ var. ma-yuen を含む)ですが、 日本にあるものは自然分布ではなく、古い時代に渡来し、栽培されていたものが野生化したものと考えられています。 こういった古い時代に持ち込まれた (あるいは非意図的に入ってきた) 外来植物は「史前帰化植物」と呼ばれ、在来種として扱われる種もありますが、本種の場合は、熱帯アジア地域原産であることが明らかなためか、帰化(外来)植物として扱われる場合が多いようです。 岡山県においても県中~南部を中心に県全域に分布するとされていますが、南部の水田地域においては、確かにかつてはかなり普通に分布していたようですが、近年では用水路の改修や水田自体の宅地化などによって生育地が減少しており、若い世代の中には本種を知らない人もかなり増えているようです。

稈(茎)は直立して草丈は0.8~2m程度になり、葉は長さ20~50cm、幅1.5~4cm、中央脈が白く目立ちます。 葉のふちは細かい突起がならんでざらつくほか、葉表も葉の基部から葉先に向けて非常に細かい突起があり、葉先から基部に向けてさわるとヤスリのような抵抗を感じます。 葉裏は平滑で、葉表のようなざらつきはありません。 花期は分布地域の気候によって異なりますが、倉敷地域では8月下旬~10月上旬頃で、稈上部の葉のわきに花序を出して花を着けます。 花序の基部には、花後に「数珠の玉」となるつぼ型の「総苞/苞鞘(ほうしょう)」という部分があり、雌性小穂はこの苞鞘に完全に包まれていて外部からは見えず、白色で細い2本の花柱のみが苞鞘の外に伸びて受粉を行います。 雄性小穂も苞鞘の内部から出てますが、長い柄があり、柄の先に多数の小穂が集まった「総」を形作り、総が垂れ下がる姿で咲きます。 一見、雄性小穂の部分がイネの穂のように実るような印象を受けますが、雄性小穂は開花後はバラバラに散ってしまいます。

雌性小穂はつぼ型の「苞鞘」に包まれ、外部からは見えない。 白色のひも状のものが雌性小穂から伸びた花柱。 開花した雄性小穂。 雄性小穂も苞鞘の内部から出るが、長い柄があって、総と呼ばれる花の集まりが垂れ下がる姿となる。
▲雌性小穂はつぼ型の「苞鞘」に包まれ、外部からは見えない。 白色のひも状のものが雌性小穂から伸びた花柱。 ▲開花した雄性小穂。 雄性小穂も苞鞘の内部から出るが、長い柄があって、総と呼ばれる花の集まりが垂れ下がる姿となる。

 

花後、苞鞘は陶器のような光沢がある黒褐色~灰白色に熟し、基部から取れて落下します。 熟した苞鞘は非常に硬く、金づちやペンチなど道具を使わなければ潰せないほどです。 落下した苞鞘には雄性小穂の枯れた柄が残っていますが、細い針金などを使えば容易に取り除くことができ、糸などを簡単に通すことができるようになるため、「(国内では)数珠に作られ、国外ではビーズ玉として使われた」(長田武正 著.1989.日本イネ科植物図譜.平凡社.p.734)とされ、これが和名の由来となっています。 また、お手玉の中身としてもよく使ったといいます。

花後、苞鞘は黒褐色~灰白色に熟して非常に硬くなる。 熟した苞鞘は直径8~12mm、陶器のような光沢がある。 苞鞘は熟すと脱落し、雄性小穂の柄を細い針金等で取り除くと容易に糸が通せる。 写真は苞鞘を使ったアクセサリーの例。
▲花後、苞鞘は黒褐色~灰白色に熟して非常に硬くなる。 熟した苞鞘は直径8~12mm、陶器のような光沢がある。 ▲苞鞘は熟すと脱落し、雄性小穂の柄を細い針金等で取り除くと容易に糸が通せる。 写真は苞鞘を使ったアクセサリーの例。

 

「ハト麦茶」にされるハトムギ var. ma-yuen は本種の変種で、苞鞘の見た目は本種とそっくりですが、道具を使わずとも、指で簡単に潰せる程度の硬さです。 苞鞘を取り除いた種子は「薏苡仁(よくいにん)という生薬として用いられますが、ハト麦茶とする場合には、苞鞘がついたまま焙じる場合が多いようです。 本種の苞鞘も「川穀(せんこく)」と呼ばれて生薬として用いられますが、あくまでハトムギの代用としての位置づけのようです(指田豊 監修.2010.増補改訂フィールドベスト図鑑15 日本の薬草.学研.p.21)。 ただし、本種は古くは808年に編纂された「古語拾遺」に「薏子(つすたま)」として登場しますが、ハトムギは「『大和本草批正』(小野蘭山:1783)中に享保年間(1716~1736)に中国より渡来したと記載されており」(村上道夫.1966.Coix属の改良に関する育種学的研究 Ⅻ ハトムギおよびジュズダマの諸形質の地理的変異.京都府立大学学術報告 農学.第18号:p.1-7)とされ、本種に比べてかなり時代が下っての渡来とされています。 我が国においては、古くから本種が薬用あるいは食用植物として利用されていたが、利用しやすいハトムギが渡来した後はハトムギの利用が主流となった、と考えるのが適当かもしれません。。

栽培され、「ハトムギ茶」の原料となるハトムギ var. ma-yuen は本種の栽培変種。 苞鞘が柔らかく、容易に果実を取り出せる。 ジュズダマ(上)とハトムギ(下)の断面の比較。 ジュズダマの方が皮が厚く、ハトムギの方が果実部分の割合が大きい。
▲栽培され、「ハトムギ茶」の原料となるハトムギ var. ma-yuen は本種の栽培変種。 苞鞘が柔らかく、容易に果実を取り出せる。 ▲ジュズダマ(上)とハトムギ(下)の断面の比較。 ジュズダマの方が皮が厚く、ハトムギの方が果実部分の割合が大きい。

なお、属の学名 Coix はシュロ(ヤシ科)を意味するギリシャ語からの転用とされ(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.52)、種小名 lacryma-jobi は、「涙」または「しずく」「水玉」を意味するラテン語 racrima と、旧約聖書「ヨブ記」の聖人ヨブの名を組み合わせたもので、「ヨブの涙」の意味です。 また、ハトムギの変種名 ma-yuen は、「ハトムギを中国に導入した人、馬援(マーエン)の名前に由来」(指田豊・木原浩 著.2013.身近な薬用植物 あの薬はこの植物から採れる.平凡社.p.160)するとされます。

(2023.9.30)

 

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