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おかやまの植物事典

クリ (ブナ科) Castanea crenata

畑のそばのクリの木(開花中)。 古来より実を食用とするほか、建築・薪炭材として利用・栽培される身近な樹木である。 葉は長さ7~19cm、幅3~5cmほどの先の尖った長楕円形。 クヌギやアベマキなどに比べて葉の付き方が平面的。
▲畑のそばのクリの木(開花中)。 古来より実を食用とするほか、建築・薪炭材として利用・栽培される身近な樹木である。 ▲葉は長さ7~19cm、幅3~5cmほどの先の尖った長楕円形。 クヌギやアベマキなどに比べて葉の付き方が平面的。

 

クリは北海道、本州、四国、九州にかけて、人里周辺の低山から比較的標高の高い山地にまで生育する、高さ17mほどにもなる落葉高木です。 国外では朝鮮半島中南部にも分布します。 中国大陸には本種と同属ですが別種のチュウゴクグリ(シナグリ) C. mollissima が分布し、日本でもいわゆる「天津甘栗」として販売されています。 果実が食用になるほか、材も建築材、薪炭材などとして有用であるため、古来より利用・栽培され、品種改良も行われており、縄文時代の遺跡からもクリの実が出土しています。 人里周辺に植えられることも多く、「里山」の樹木の代表とも言っても過言ではありません。

葉は長さ7~19cm、幅3~5cmほどの先の尖った長楕円形をしています。 同じブナ科のコナラ Quercus 属のクヌギ Q. acutissima やアベマキ Q. variabilis の葉によく似ていますが、本種の葉は枝に平面的に互生しており、やや立体的なクヌギやアベマキとは枝ぶりが異なります。 また、アベマキは葉裏に灰白色の星状毛が密生して白く見えますが、本種の葉裏は葉脈周辺に毛が散生する程度で淡緑色です。 クヌギの葉裏も毛がなく淡緑色ですが、本種の葉は針状になった鋸歯の先端まで緑色をしており、褐色の針状になっているクヌギ、アベマキの葉とは多少慣れれば比較的簡単に見分けられます。 しかしながら、岡山県ではクヌギはかなり分布が少ない樹木であるため、本種とクヌギの見分けをするような場面に遭遇する確率はかなり低いかもしれません。

葉の裏は淡緑色、葉脈周辺に毛が散生する程度でほぼ無毛。鋸歯の先端は針状だが、葉緑素があり緑色(写真左上)。 尾状花序につく花の大部分は雄花。 雄花には独特の生ぐさい臭いがあり、その臭いで昆虫を引き寄せる虫媒花である。
▲葉の裏は淡緑色、葉脈周辺に毛が散生する程度でほぼ無毛。鋸歯の先端は針状だが、葉緑素があり緑色(写真左上)。 ▲尾状花序につく花の大部分は雄花。 雄花には独特の生ぐさい臭いがあり、その臭いで昆虫を引き寄せる虫媒花である。

 

花は6月頃に咲き、雌雄異花かつ雌雄同株、新枝の葉腋から尾状花序を出します。 花序の花は大部分が雄花ですが、雄花には特有の生ぐさい臭いがありますが、風で花粉を飛ばして受粉を行う「風媒花」が多いブナ科では珍しく、本種はこの匂いによって訪花昆虫を引き寄せて花粉を運んでもらう「虫媒花」です。 雌花は花序の下方(付け根)付近に数個つきますが、雌花がない雄花のみの花序もあります。 雌花は3個が緑色の総苞(花後に「いが」になる部分)に包まれた状態で直径3mmほどの大きさで、花柱が総苞の外部に突き出しています。

果実は堅果(堅い皮に包まれ、熟しても裂開しない果実)で、総苞が長さ1cmほどの鋭い刺が密生する殻斗(いが)となって堅果を包んでいます。 同じ年の秋、堅果が熟すと殻斗は4つに裂開し、堅果が落下しますが、殻斗ごと落下する場合も多くあります。 堅果の大きさは、野生と栽培のものでかなり異なり、シバグリ/ヤマグリと呼ばれる野生のものの堅果は幅1.5~2cm程度ですが、タンバグリ(丹波栗)と呼ばれる栽培品種のなかには幅4.5cmを超えるような堅果ができるものもあるそうです。 また、堅果の中に、白いイモムシがいることがありますが、これはクリシギゾウムシというゾウムシの一種やクリミガというガの一種の幼虫で、やがて堅果の皮に丸い穴を開けて脱出し、土中に潜って蛹となります。

雌花は直径3mmほどで、3個が総苞に包まれている。 花序の付け根付近に数個つくが、雌花がつかない花序も見られる。 殻斗(いが)には長さ1cmほどの鋭い針状の刺が密生していおり、堅果が熟すと4つに裂開する。
▲雌花は直径3mmほどで、3個が総苞に包まれている。 花序の付け根付近に数個つくが、雌花がつかない花序も見られる。 ▲殻斗(いが)には長さ1cmほどの鋭い針状の刺が密生していおり、堅果が熟すと4つに裂開する。

 

和名の「くり」は、古事記(応神記)や、万葉集にも登場しますが、多くの場合、 「三つ栗」という枕詞(「中」にかかる)として歌に詠まれており、いが」の中の堅果は必ず3個である(充実していない「しいな」も含む)という本種の特徴が古来より認識されていたことがうかがえます。 「くり」の語源については、諸説ありますが、「古語で黒という意味があり、暗いのクラ、黒いのクロと同源で、樹皮が黒味がかっていることに由来するという」(加納善光.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版)ともされますが、本種の樹皮は灰~灰黒色で縦方向に入る深く大きな割れ目が黒っぽく見えはするものの、全体としてはそれほど黒い印象ではありません。 小野蘭山「本草綱目啓蒙」(1803)にも「皮色黒シ、故ニ名ク」と記述されていますが、これは「牧野日本植物図鑑」(1940)において牧野博士が「黒實即チくろみノ意ニシテろみノ反シハりナレバ乃チくりト成ル」と解説しているように、堅果の皮色のことを指していると考えるほうが適当なように思われます。 もしくは、本種の材が建築材として古来より利用されてきた理由として、材に植物ポリフェノールの一種のタンニンを多く含んでおり、腐りにくく耐久性があることが挙げられますが、タンニンは鉄分などに反応して黒色に変化する性質があるため、クリ材も黒色に変色することがあり、「黒」なのは、樹皮や堅果ではなく、材の色に由来するとも考えられるかもしれません。

(2023.10.28)

写真左2個は野生のクリ、 右2個は栽培品種のクリの堅果。 右上の堅果にある穴はクリミガの幼虫の侵入孔あるいは脱出孔。 樹皮は灰色~灰黒色で、縦に深く大きな割れ目がある。 材にはタンニンを多く含み、腐りにくいために建築材として利用された。
▲写真左2個は野生のクリ、 右2個は栽培品種のクリの堅果。 右上の堅果にある穴はクリミガの幼虫の侵入孔あるいは脱出孔。 ▲樹皮は灰色~灰黒色で、縦に深く大きな割れ目がある。 材にはタンニンを多く含み、腐りにくいために建築材として利用された。

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