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おかやまの植物事典

ミズオトギリ (オトギリソウ科) Triadenum japonicum

池沼の岸や湿原など、湿った場所に生育する多年草。 中栄養でやや草丈が高い環境に生育することが多い。 花は8~9月頃に咲き、オトギリソウ科としてはめずらしく淡紅色。 雄しべは3本ずつ束になったものが3つある。
▲池沼の岸や湿原など、湿った場所に生育する多年草。 中栄養でやや草丈が高い環境に生育することが多い。 ▲花は8~9月頃に咲き、オトギリソウ科としてはめずらしく淡紅色。 雄しべは3本ずつ束になったものが3つある。

 

ミズオトギリは、北海道、本州、四国、九州の池沼の岸や湿原など湿った場所に生育する高さ30~100cmほどになる多年草です。 国外では朝鮮半島や中国東北部、極東ロシアに分布します。 岡山県でもほぼ全域に分布していますが、どこの湿地でも見られるわけではなく、湿地としては中栄養で草丈がやや高く、水分条件も比較的安定した状態の場所に生育している印象です。

本種は、従来はオトギリソウ Hypericum 属ではなく、別属のミズオトギリ Triadenum 属として扱われていましたが、最近では、オトギリソウ属に分類される場合もあるようです(オトギリソウ属とする場合、学名は Hypericum crassifolium (Blume) Nakai が用いられる)[米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info( 2023年8月17日閲覧)]。 本稿では、従来通りミズオトギリ属として扱いますが、この場合、国内のミズオトギリ属の植物は本種のみとなります。

花は8~9月頃(当園では7月下旬~)、茎の頂部または葉腋の短い花序に数個の花を着けます。 花は直径1cmほどの5弁花で、黄色の花がほとんどのオトギリソウ科の植物としてはめずらしく淡紅色で光沢があり、まるで飴細工のような質感です。 雄しべは9本あり、3本ずつ束になっています。 雄しべが束になること自体はオトギリソウ Hypericum erectum などと共通した特徴ですが、本種の花は、雄しべの本数が多く、長いオトギリソウなどと比べると雄しべが短く、束になっている様子が観察しやすい花です。 しかし本種の花が開いているのは16時頃から19時半頃までで、20時頃にはほぼ閉じてしまいます(当園での観察による。開花時間は地域、時期や天候等によって変化する可能性があります)。 花を観察できるのは夕方のわずかな時間のみということになるため、ある意味では花に出会うことが少々難しい種類と言えるかもしれません。 なお、花は一度開花した後は再び開くことはない一日花です。

花は16~19時30分頃まで開いていたが、20時頃にはほぼしぼんでしまった。 (撮影:2022/8/26 重井薬用植物園内) 果実は蒴果、長さ1cmほどの楕円形で秋に熟すと先端が裂開し、茎が風に揺れることで種子がこぼれ落ちて散布される。
▲花は16~19時30分頃まで開いていたが、20時頃にはほぼしぼんでしまった。 (撮影:2022/8/26 重井薬用植物園内) ▲果実は蒴果、長さ1cmほどの楕円形で秋に熟すと先端が裂開し、茎が風に揺れることで種子がこぼれ落ちて散布される。

 

果実は長さ1cmほどの先の尖った楕円形をした蒴果(熟すと裂けて種子を散布するタイプの果実)で、秋に熟し、先端が裂開して、茎が風に揺れた際などに種子が果実からこぼれ落ちることで散布されます。 種子は茶褐色~暗褐色、長さ1mmほどの俵形をしており、表面にはゴルフボールのような凸凹があります。

茎は、他のオトギリソウ科の植物には茎に稜をもつものがありますが、本種の茎には稜はなく円柱形で無毛、ほとんど分枝せず、茎の下部はしばしば赤紫色を帯びます。 葉は対生、長さ3~7cm、幅1~3cmほどの長楕円形で表裏無毛、葉の裏面はやや白っぽく、葉脈が隆起しています。 葉は秋には赤く紅葉します。

種子は茶褐色~暗褐色、長さ1mmほどの俵形。 表面にはゴルフボールのような凸凹が見られる。 オトギリソウ科の植物には茎に稜を持つものが比較的多いが、本種の茎は円柱形。 茎の下部は赤紫色を帯びることが多い。
▲種子は茶褐色~暗褐色、長さ1mmほどの俵形。 表面にはゴルフボールのような凸凹が見られる。 ▲オトギリソウ科の植物には茎に稜を持つものが比較的多いが、本種の茎は円柱形。 茎の下部は赤紫色を帯びることが多い。

 

オトギリソウ科の植物は茎や葉、萼や花弁などに腺点を持つものが多く、色素を含んでいて黒く見える腺点を「黒点/黒線」、色素を含まず白く見える腺点を「明点/明線」と呼び、種によって黒点と明点の有無、見られる位置などが異なるため、この仲間を見分ける際には重要な同定ポイントとなります。 黒点の目立つオトギリソウそのものなどは、家の秘密をもらした弟を兄が斬った返り血が黒点になった・・・という、「弟切草」の和名の由来とも結びついていますが、本種の葉には黒点はなく、葉内部と葉縁に明点のみが見られます。 なお、萼片内側に明線、花弁内側にも明点が見られます。

葉は対生、長さ3~7cm、幅1~3cmほどの長楕円形、裏面はやや白い。 葉裏全面に明点が散在し、葉縁にも明点が並ぶ。 葉や花に黒点が多く、黒点が飛び散った血に例えられたことが和名の由来となっているオトギリソウ Hypericum erectum 。
▲葉は対生、長さ3~7cm、幅1~3cmほどの長楕円形、裏面はやや白い。 葉裏全面に明点が散在し、葉縁にも明点が並ぶ。 ▲葉や花に黒点が多く、黒点が飛び散った血に例えられたことが和名の由来となっているオトギリソウ Hypericum erectum

 

和名は「水・弟切」で、湿った場所に生育するオトギリソウを意味します。 属の学名については、 Triadenum はギリシャ語で「3」を意味する treis と「腺のある」ことを意味する adenodes の組み合わせ(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.203)、オトギリソウ属とした場合の種小名 crassifolium はラテン語で「厚い」ことを意味する crassus と「葉」を意味する folium の組み合わせで「厚い葉」を意味します(豊国.p.57,84)

当園では園内の湿地に生育しています。 本種は岡山県南部では生育は比較的まれですが、園外から持ち込んで植栽したり播種した記録はなく、元々自生していたものと考えられます。 開花時間が夕方であるため、通常の見学受入れの時間帯では見て頂くことができません。 本種の花の観察をご希望される場合には、見学申し込みの際に「ミズオトギリの花を見たい」旨、必ずお伝えください。

(2023.8.26)

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