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おかやまの植物事典

モウソウチク(イネ科・タケ亜科)   Phyllostachys edulis

わずか3か月ほどで高さ20mほどにまで成長する、日本最大のタケ類である。 岡山県南での筍発生のピークは4月中旬ごろ。筍は肉厚でえぐみが少ないため、食用とされる。
▲わずか3か月ほどで高さ20mほどにまで成長する、日本最大のタケ類である。 ▲岡山県南での筍発生のピークは4月中旬ごろ。筍は肉厚でえぐみが少ないため、食用とされる。

 

モウソウチクは高さ20m、稈(かん:イネ科やタケ・ササ類などの内部が中空になっている茎)は直径20㎝ほどにもなり、日本に生育するタケ類の中では最大となる種です。中国大陸が原産地とされますが、今日では寒冷地では少ないものの、日本全国に植栽されています。当園のある岡山県倉敷市真備町地域でも栽培が盛んで岡山県における一大産地となっています。筍は岡山県南部では4月中旬ごろ発生のピークを迎え、地中に長く伸びた地下茎から発生します。筍の皮を剥いた際、下部に赤い点状の突起が並んでいるのを見たことがある方もおられるかと思いますが、これは根の成長点で、筍の発生初期には、地下茎から養分や水分を得ているため、根は未発達で伸長していませんが、筍が地上に顔を出して数日のうちには太い根が筍の下部より伸長しだします。食用にするには、根が伸長していないものほど柔らかくて美味しいため、筍の産地では地上に筍が顔を出す直前に見つけ、掘り取るということです。

筍は地中に伸びた地下茎より発生する。伸長には地下茎からの養分を利用するため、根は未発達。 筍の皮を剥くと赤い点状の突起(根の成長点)がある。これが目立たないものほど若い筍である。
▲筍は地中に伸びた地下茎より発生する。伸長には地下茎からの養分を利用するため、根は未発達。 ▲筍の皮を剥くと赤い点状の突起(根の成長点)がある。これが目立たないものほど若い筍である。

 

花はめったに咲くことがありませんが、まれに一部の枝に花をつけることがあり、話題となることがあります。タケ・ササ類には一斉に花をつけ(一斉開花)、開花して種子を生産した後は地下茎を含めた全体が枯死(一斉枯死)する現象があることが知られており、マダケではその周期が120年との報告があります。モウソウチクでは部分開花した花の種子から栽培した集団が67年目に一斉開花・枯死したとの記録がありますが、これはむしろ特殊な事例で、実際には本種の一斉開花・枯死の周期はもっと長いものであるようです。

モウソウチクは漢字で書くと「孟宗竹」で、中国三国時代の呉の国の孟宗という人物が母に好物の筍を食べさせたいと冬に竹林で嘆願したところ、孝行の心が通じ筍が生えてきて母に食べさせることができたという、「雪中の筍」の故事に由来しています。日本には1736年に薩摩藩によって琉球を経て現在の鹿児島県に移入されたのがはじめと言われますが、1650年頃には既に京都に植えられていたという説もあり、移入年代についてははっきりしません。また、日本には大型のタケとして他にマダケとハチクがありますが、マダケは在来種、ハチクはモウソウチクと同様に中国からの移入種と考えられています(マダケも移入とする意見もある)。マダケとハチクは、節の部分が2重になることで、1重のモウソウチクと見分けることができます。なお、タケとササの違いは、たいていの場合、稈鞘(竹の皮)が稈の成長が終わると脱落するものをタケ類、脱落せずに稈についたままとなるものをササ類としますが、分類学的なものではなく便宜的な区分です。

タケ・ササ類は植物分類上はイネ科に属する植物ですが、稈が硬く木化する、葉ははっきりとした葉柄があるなどの他のイネ科とは大きく違う特徴があることから、イネ科の中での1グループとしてタケ亜科として扱われています。タケの話をすると、「タケは木か草か?」という質問をよく受けることがあります。稈が木化する、枝が毎年新たに伸長して伸びるなどの特徴は樹木的ですし、稈は3か月ほどで最大サイズに達し、その後は樹木のように肥大成長によってサイズが変化することがない(年輪を形成しない)、花を咲かせると枯れてしまうなどの特徴は草本的と言えます。どちらかに決めるならば、感覚的には樹木とするより「開花サイクルが非常に長い、巨大な草本」と考えるほうがタケの性質をとらえやすいかと思いますが、そもそも「草本/木本」という区別自体が曖昧なもので、つる植物やマメ科のハギ類などのように、草本と木本との中間的な性質を持つ植物は珍しくありませんので、タケ類もそのような中間的な位置にある植物として、「木でも草でもない」としておくのが適当と思います。

筍生産のためによく手入れされた倉敷市真備町地域のモウソウチク林。 手入れを放棄されたモウソウチク・マダケの混交林。倒れた稈などが積み重なり、林内を歩くことも難しい。
▲筍生産のためによく手入れされた倉敷市真備町地域のモウソウチク林。 ▲手入れを放棄されたモウソウチク・マダケの混交林。倒れた稈などが積み重なり、林内を歩くことも難しい。

 

モウソウチクは稈が太く、材も厚みがあるため、竹かごなどの繊細な細工物には用いられませんでしたが、樹高が高く、丈夫であるため、伝統的に建築や農業資材などとして使用され、筍は食料として利用されてきました。しかし、戦後、資材としての需要が減少したことに加え、近年は外国からの安価な筍の輸入が増加したために食材としての筍の生産も減少することになり、竹林は管理を放棄されることになりました。その結果、各地で周囲の森林を侵食する形で面積を拡大するようになり、問題となっています。

当園では、湿地エリアの一角にモウソウチク林があり、毎年多くの筍が発生して、見学者の方の体験メニューとして筍掘り体験をしていただいたり、筍をお土産として差し上げて喜ばれていますが、竹林の外部にも筍が発生し、放っておくと他の植物に影響を与えるため、毎年4月中旬~5月上旬は、筍の発生状況を毎日チェックして、竹林を適正に管理するようにしています。

(2013.4.28/2020.7.3改訂)

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