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おかやまの植物事典

サクラソウ(サクラソウ科)  Primula sieboldii

環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧/岡山県版レッドデータブック2020:絶滅危惧Ⅰ類

春、15~30cmほどの花茎の先に数個から十数個の紅紫色の花を散形状に咲かせる。 和名は花がサクラを思わせることから。 葉は地際から出て、長さ4~10cm、幅3~6cmの先が鈍い楕円形、表面にしわが目立つ。 全体に白色の縮れた毛が生える。
▲春、15~30cmほどの花茎の先に数個から十数個の紅紫色の花を散形状に咲かせる。 和名は花がサクラを思わせることから。 ▲葉は地際から出て、長さ4~10cm、幅3~6cmの先が鈍い楕円形、表面にしわが目立つ。 全体に白色の縮れた毛が生える。

 
サクラソウは、北海道から九州南部までの日当たりが良く、湿り気の多い草地に生育する高さ15~30cm程度の多年草です。 国外では朝鮮半島、中国東北部、シベリア東部に分布しています。 本種の仲間は、変種も含めると日本には20種類ほどが知られていますが、そのほとんどが高山などの特殊な環境に生育しており、本種のように標高が低く温暖な地域にまで分布する種類は多くありません。 温暖な地域でも生育可能であるため、分布域は広く、かつては日本全国に大群生地があったと言われますが、現在では生育地の環境変化や開発、園芸目的の採取によって全国的に減少し、各地で絶滅が危惧される状況となっています。

岡山県においても、かつては県中部から北部に点々と自生地がありましたが、現在ではほとんどの地域で絶滅あるいは絶滅寸前の状況となっており、比較的自生集団が残っている真庭市蒜山地域においても、半自然草地や河川沿いなどに小さな集団が残存しているに過ぎず、ごく一部の保全活動が行なわれている場所以外では減少の一途をたどっている状態です。 2009年4月には、岡山県により「岡山県希少野生動植物保護条例」による指定希少野生動植物に指定され、県内に自生する本種の種子を含む採集や損傷が禁止されています。

外国産のサクラソウの仲間は,属名から「プリムラ」と呼ばれ,数多くの種類が流通している。 市民ボランティアによって行われたサクラソウ自生地の山焼き(火入れ)の様子(2014年)。
▲長花柱花(柱頭が葯より高い位置にある)。 花は異型花柱性を持ち、異なる花タイプ間で受粉しないとふつう結実しない。 ▲短花柱花(柱頭が葯より低い位置にある)。 時に柱頭と葯がほぼ同じ位置にある等花柱花も見られることがある。

 

葉は地際から出て、長さ4~10cm、幅3~6cmの先が鈍い楕円形で長い葉柄があります。 葉縁には浅い切れ込みがあり、表面には「縮緬(ちりめん)」のようなしわが目立ちます。 また、花冠や萼などをのぞく植物体全体に白色の縮れた毛があり、特に花茎や葉柄には目立ちます。 4~5月頃、葉の出現とほぼ同時に15~30cmほどの花茎を伸ばし、先端に数個から十数個の紅紫色の花を散形状に咲かせます。 花は長さ1~1.3cmの筒部があり、上部は深く5裂して平開し、裂片の先はさらに浅く2裂しています。 花の形状、花色の濃さなどは個体や集団によって多様性があるほか、花は個体によって雄しべの葯の位置より雌しべの柱頭の位置が高い(花柱が長い)「長花柱花」と、葯の位置より柱頭の位置が低い(花柱が短い)「短花柱花」の2つのタイプがある「異型花柱性」を持っており、異なるタイプの花同士で受粉を行わないと通常は結実しないとされます(柱頭と葯の位置が同じ高さの等花柱花の場合など、例外あり)

果実は蒴果で偏球形、6月~7月頃に白っぽく熟しますが、裂開はせず、花柱が宿存した果皮がまるで帽子のように外れて内部の種子がこぼれ落ちることで散布されます。 種子は長さ1mmほどの白っぽい褐色で角ばった形状をしています。

果実は蒴果で偏球形。 裂開はせず、花柱が宿存した果皮が帽子のように外れ、1mmほどで角ばった形状の種子が散布される。 地下には太くて短い根茎があり、多数の白色の根が生える。 新芽は根茎の下部から出て上方に向かって伸長する。
▲果実は蒴果で偏球形。 裂開はせず、花柱が宿存した果皮が帽子のように外れ、1mmほどで角ばった形状の種子が散布される。 ▲地下には太くて短い根茎があり、多数の白色の根が生える。 新芽は根茎の下部から出て上方に向かって伸長する。

 

種子が散布される頃から葉は徐々に枯れ始め、本種が周囲の草にすっかり覆われて日当たりが悪くなる夏前には、地上部はすべて枯れ、根茎のみで翌春まで休眠します。 根茎は太くて短く、やや太めの白色の根が多数生えています。 面白いことに、新芽は根茎の下部から出て、上方に向かって伸長する性質があり、おそらくは大雨の際などに土壌ごと流されたり、埋まったりするような不安定な生育環境への適応と考えられます。

和名を漢字で書くと「桜草」で、花の形や色が樹木のサクラを思わせることに由来します。 日本では江戸時代から様々な園芸品種が作出され栽培されてきた文化・歴史がありますが、現在は園芸店等で様々な色・形の外国産のサクラソウの園芸品種が「プリムラ」あるいは「西洋サクラソウ」の名で販売されており、それら外国産のものと区別するため、本種やその園芸品種はしばしば「日本サクラソウ」と呼ばれます。 属の学名 Primula は、春に他の植物に先駆けて咲くことから、「最初」を意味するラテン語 primis に由来します。 種小名 sieboldii は、江戸時代に日本の植物を西欧に数多く紹介したドイツの医師で博物学者のシーボルトへの献名です。

外国産のサクラソウの仲間。 属名から「プリムラ」あるいは「西洋サクラソウ」などと呼ばれ,数多くの種類が流通している。 真庭市蒜山地域のサクラソウ自生地保全のための「山焼き」を行う市民ボランティア。 このほか、初夏に草刈りなども行われている。
▲外国産のサクラソウの仲間。 属名から「プリムラ」あるいは「西洋サクラソウ」などと呼ばれ,数多くの種類が流通している。 ▲真庭市蒜山地域のサクラソウ自生地保全のための「山焼き」を行う市民ボランティア。 このほか、初夏に草刈りなども行われている。

 

岡山県真庭市蒜山地域の一部の自生地では、生育環境である半自然草原の保全のため、当園も参画する「蒜山自然再生協議会」が主体となり、市民ボランティアを募集して毎春の「山焼き」や、初夏に自生地の草刈りなどの保全活動を行っており、本種の個体数も増加しています。 しかし、蒜山地域内に点々と残る他の自生地については、「蒜山ガイドクラブ」などの地元団体による草刈りなどが行われ、個体数が維持されている場所もありますが、ほとんどの場所で保全の手が回っておらず、集団が衰退あるいは消滅しつつある状況となっています。

(2024.5.6 改訂)

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