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おかやまの植物事典

ヨモギ(キク科) Artemisia indica var. maximowiczii

葉は中~深裂するが、大きさ、葉の切れ込み方などには変化が大きい。 夏~秋に茎の上部にたくさんの頭花を咲かせる。風で花粉を飛ばす風媒花で、花粉症の原因となる。
▲葉は中~深裂するが、大きさ、葉の切れ込み方などには変化が大きい。 ▲夏~秋に茎の上部にたくさんの頭花を咲かせる。風で花粉を飛ばす風媒花で、花粉症の原因となる。

 

 ヨモギは本州、四国、九州の日当たりのよい路傍から山野まで、いたるところに普通に生育する多年草です。地下には地下茎を伸ばして盛んに繁殖し、地上茎は高さ50~100㎝ほどになり、多くの枝を出します。葉は長さ6~12㎝で羽状に中~深裂し、裏面には白色の綿毛があり、白く見えます。夏~秋に茎の上部の枝先に幅1.5㎜ほどの小さな頭花をたくさん咲かせます。本種の仲間の花は、昆虫に花粉を運んでもらう「虫媒花」ではなく、風で花粉を飛ばして他の花に授粉する「風媒花」です。秋の花粉症の原因植物のひとつとしてもよく知られていることもあり、植物をよく知らない人でも、ヨモギならわかる、というくらい身近な野草です。

 ヨモギの仲間は、古くから中国、朝鮮、日本やヨーロッパにおいても魔除けや神秘的な力があると考えられてきました。ヨーロッパでは、ヨモギを身につけると無事に旅ができるといわれ、中国でも5月の端午の節句には、ショウブ科(サトイモ科)のショウブとともに門に飾るといったことが行われていました。朝鮮半島でも端午の節句にはヨモギをうるち米の粉につき込んだ餅が作られていたようです。日本でも古くから3月3日にヨモギの草餅を作ったり、5月5日の端午の節句にはショウブと一緒に、軒に挿したり風呂に入れて入浴したりということが広く行われてきました。万葉集にも大伴家持が詠んだ長歌にアヤメ(この時代はショウブをアヤメと呼んだ)の名と共にヨモギの名が登場します。

 薬草や山菜としても大変よく利用されてきた植物で、属名のArtemisia(アルテミシア)は、婦人病に効能があるとされたことからギリシア神話の月と豊穣の女神アルテミスの名が由来となっています。葉を乾燥させたものを煎じたり、生のものを絞って青汁として飲用するほか、湿布として使用したり、お風呂に入れて薬湯としても利用します。民間療法ですが、擦り傷などのケガをしたときに本種の葉を揉んで傷口に塗ったという経験のある方も多いのではないでしょうか。また、香り高い植物ですので、若葉をお浸しや天ぷら等にして山菜としてもよく利用されますが、もっとも知られているのは、餅や団子に若葉をつきこんだ、「草餅/草団子」でしょう。最近、スーパーなどで売られている草餅は、外国産の乾燥ヨモギを使っているためか、あまり香りがよくありませんが、春先に芽吹いたばかりのヨモギの葉は葉の表面まで白い綿毛で覆われています。この時期は葉がまだ小さく、摘むのは大変手間ですが、この時期に草餅とすると、アクも少なく驚くほど良い香りがします。時期が遅くなっても、草刈りの後などに再生してきた葉も利用できますが、アクが多くなっていますので、重曹などでアク抜きをする必要があり、そうすると香りも飛んでしまい、春先の新芽のものより風味は劣ります。さらに、蚊取り線香が明治時代に発明されて普及するまでは、この葉を火にくべることで煙を出し、蚊などの虫除け(蚊遣り)に利用したといい、人々の生活に欠かせない植物でもあったと言えます

日本全国の日当たりの良い場所に普通。春に勢いよく萌え出るので「善萌草」と呼ばれたという説も。 葉の裏には白色の綿毛に覆われている。葉など植物体には独特の香りがあり、邪気を祓うと信じられた。
▲日本全国の日当たりの良い場所に普通。春に勢いよく萌え出るので「善萌草」と呼ばれたという説も。 ▲葉の裏には白色の綿毛に覆われている。葉など植物体には独特の香りがあり、邪気を祓うと信じられた。


 本種を漢字で表記すると通常は「蓬」ですが、この漢字は中国では普通、キク科ムカシヨモギ属あるいはアカザ科の植物のことを指します。本種を意味する漢字は中国では本来「艾(ガイ)」ですが、現在の日本ではヨモギを指す字としてはあまり使いません(もちろん「ヨモギ」の読みはちゃんと辞書に載っています)。ヨモギの葉を乾燥させてすりつぶすと、葉裏の毛だけを集めることができますが、この毛を「もぐさ」と呼んでお灸の原料として使います。日本ではこの「もぐさ」にあてられた字が「艾」ですが、現在では「もぐさ」を使ってお灸をする人も少なくなり、「もぐさ」そのものを目にすることも少なくなったため、「艾」の字も使用されることが少なくなり、その意味するところも徐々に忘れられかけているかもしれません。なお、「ヨモギ」の名の由来には、もぐさとしてお灸に使う、あるいは火起こしの際の火口に使うので「善燃草(善く燃える草)」だとか、よく揉んで使う(あるいは揉んで毛を集める)ので、「善揉草(善く揉む草)」だとか、盛んに芽を出して萌え出ずるので、「善萌草(善く萌える草)」など、様々な説があってはっきりしません。

 日本にはヨモギ属の植物としては数十種類の近縁種がしられていますが、近年では外来種ハイイロヨモギが園芸用のキクの接ぎ木の台木からの逸出または緑化用吹付種子に使われたことによって野生化していたり、国内にも分布する種でも外国で採集されたヨモギやオオヨモギなどの外国産種子が国内に輸入されて緑化に使われることがあり、在来種との競合や遺伝的攪乱の恐れが指摘されるようになっています。

(2013.3.31)

春、芽吹いたばかりの葉は表面まで白い綿毛で覆われ、これを摘んで草餅などに利用する。 乾燥した葉をすりつぶして毛だけを集めたものが「艾(もぐさ)」である。
▲春、芽吹いたばかりの葉は表面まで白い綿毛で覆われ、これを摘んで草餅などに利用する。 ▲乾燥した葉をすりつぶして毛だけを集めたものが「艾(もぐさ)」である。

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