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おかやまの植物事典

エゾミソハギ(ミソハギ科) Lythrum salicaria

湿地に生育する多年草。ミソハギより大型で分枝が多く、咲き出しがやや早い。 分類上、ミソハギと同種とする説もある。 花は7月頃に咲き、紅紫色で直径1~1.5cm程度の6弁花。 当園で見られるのは「中雌しべ+長雄しべ+短雄しべ」の型のみ。
▲湿地に生育する多年草。ミソハギより大型で分枝が多く、咲き出しがやや早い。 分類上、ミソハギと同種とする説もある。 ▲花は7月頃に咲き、紅紫色で直径1~1.5cm程度の6弁花。 当園で見られるのは「中雌しべ+長雄しべ+短雄しべ」の型のみ。

 

エゾミソハギは、北海道、本州、四国、九州の日当たりの良い湿地に生育する高さ150cmほどになる多年草です。 国外ではユーラシア、ヨーロッパ、北アフリカ、北アメリカなど北半球に広く分布するとされます〔Flora of China(1994). eFloras (2008). Published on the Internet http://www.efloras.org [accessed 9 July 2023]〕 。 また、ミソハギ L. anceps との関係について、「エゾミソハギとの雑種と考えられる中間型がときにみられ、メミソハギという。 この中間型の存在を根拠として、本種(注:ミソハギ)をエゾミソハギの種内分類群とする説もある」(大橋広好・門田裕一ほか編.2016.改訂新版 日本の野生植物3.平凡社.p.258)など、分類学上、様々な見解がある植物です。 ミソハギとの区別点は後述しますが、一般的には、本種の方がミソハギより全体に大型で分枝が多い姿となるようです。

花は7~8月頃(当園では6月中旬~)、茎上部で分枝した枝先などに穂状に多数の花を咲かせます。 なお、ミソハギの開花は当園では7月下旬頃からで、本種の方が咲き出しが早くなります。 茎に付いた小苞の基部に、長さ4~8mm程度の萼筒が2個ほど着き、萼筒の先は6個の三角形の裂片となり、裂片の間には針状の付属片があります。 この付属片がミソハギではほぼ平開といえるほど開出しますが、本種の付属片は斜上~直立となっています。 また本種の萼筒には短毛があり、ミソハギは萼筒を含めて全体無毛であることも区別点となります。

雄しべと雌しべの長さは長・中・短とあり、3つの組み合わせが見られる。写真は「短雌しべ+長雄しべ+中雄しべ」の型。 花の基部に小苞がある。 萼筒には短毛があり、萼片の間にある針状の付属片は斜上~直立。 ミソハギの付属片は横に開出。
▲雄しべと雌しべの長さは長・中・短とあり、3つの組み合わせが見られる。写真は「短雌しべ+長雄しべ+中雄しべ」の型。 ▲花の基部に小苞がある。 萼筒には短毛があり、萼片の間にある針状の付属片は斜上~直立。 ミソハギの付属片は横に開出。

 

花弁は紅紫色で6枚、花の直径1~1.5cm程度、雄しべは長い雄しべが6本、短い雄しべが6本の計12本あります。 ミソハギ属の植物は「雄しべと雌しべの長さが雄しべ、長、中、短とあり、その組み合わせによって3つの型の花がある。 雌しべの長い花には中雄しべと短雄しべ、中雌しべの花には長雄しべと短雄しべ、短雌しべの花には長雄しべと中雄しべというように、自家受粉を防ぐシステムになっている。」(林弥栄,2013.山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花 増補改訂新版(門田裕一 改訂版監修).山と渓谷社.p.308)とされます。 この花型は同一個体に混在するわけではなく、個体によって異なり、当園の園内に植栽されているものは古屋野寛前園長が1990年に倉敷市内の湿地に生育していた1個体から挿し芽で増やしたものであるため、「中雌しべ+長雄しべ+短雄しべ」の花型のみが見られます。

花の萼筒は花期には茎に対して45°程度の角度で開出していますが、花が終わり、果期になると、茎に対して平行に密着した状態となります。 果実は蒴果で、萼筒に包まれた状態で8月下旬~9月頃に熟して裂開し、茎が風で揺れた際などにこぼれ落ちることで散布されます。 種子は淡褐色で長さ1~1.5mm程度、概ね細長い形状ですが、形は不揃いで、ちょうどジャガイモを乱切りにしたような姿をしています。

期には萼筒は茎に対して45°ほどの角度で着いているが、果期の果実は茎にほぼ平行に密着する。 果実は蒴果。 種子は淡褐色、長さ1~1.5mm程度でやや長細く、やや不揃いな形状。 茎が風で揺れた際に蒴果からこぼれて散布される。
▲花期には萼筒は茎に対して45°ほどの角度で着いているが、果期の果実は茎にほぼ平行に密着する。 果実は蒴果。 ▲種子は淡褐色、長さ1~1.5mm程度でやや長細く、やや不揃いな形状。 茎が風で揺れた際に蒴果からこぼれて散布される。

 

茎は直立して根本付近はなかば木化します。 4稜あるいは6稜の角があり、普通、花序部分を含めて短毛が生えていますが、個体や集団によって状態に幅があり、ほとんど無毛の場合もあります。 葉は長さ3.5~6.5cmの長披針形~広披針形で、茎に対生するか、3枚が輪生します。 葉の基部はやや茎を抱くような形となり、茎を抱かないミソハギとのもっとも判別しやすい区別点となります。

和名は「蝦夷・禊萩(溝萩)」で、「ミソハギ」の由来については、溝に生えるので「溝萩」との説もありますが、お盆に仏前に供える「盆花」の1種で、特にミソハギ類は水に浸けて打つ「禊」に用いたとも言われることから、「盆花の由来からすれば水ハギあるいは禊ハギの方が根拠があるようだ。」(湯浅浩史.1993.「植物と行事 その由来を推理する.朝日新聞社(朝日選書478).p.161)と言われます。 「蝦夷」の部分については、蝦夷地、現在の北海道周辺の地域を指しますが、北海道にもミソハギは分布していますし、本種も北海道以外にも広く分布しているため、分布を示しているというよりも、「蝦夷地に多い」程度の意味と考えたほうが良いようです。 岡山県においても、ミソハギそのものは県全域の水田周辺などでごく普通に見られるのに対し、本種はやや自然性の高い湿原周辺などで生育することが多い印象です。 また、全草が下痢止めなどの効能のある生薬として用いられ、生薬名としては漢名(中国名)で「千屈菜」とも呼ばれます。 

(2023.7.16 改訂)

葉は長さ3.5~6.5cmの長披針形~広披針形で、対生するか、3枚が輪生。 基部はやや茎を抱く。 ミソハギ L. anceps 。 本種より小型で全体無毛、葉の基部は茎を抱かない。 岡山県では本種より普通に見られる。
▲葉は長さ3.5~6.5cmの長披針形~広披針形で、対生するか、3枚が輪生。 基部はやや茎を抱く。 ▲ミソハギ L. anceps 。 本種より小型で全体無毛、葉の基部は茎を抱かない。 岡山県では本種より普通に見られる。

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