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おかやまの植物事典

ヘクソカズラ(アカネ科) Paederia foetida

当園の金網フェンスにからむヘクソカズラ。日本全国の日当たりの良い場所にごく普通に生育するつる植物。 花は長さ1cmほどの釣り鐘型。外面は細かい毛が密生して灰白色。花冠先端は浅く5裂して平開する。
▲当園の金網フェンスにからむヘクソカズラ。日本全国の日当たりの良い場所にごく普通に生育するつる植物。 ▲花は長さ1cmほどの釣り鐘型。外面は細かい毛が密生して灰白色。花冠先端は浅く5裂して平開する。

ヘクソカズラは日本全国のやぶ、草むらなど日当たりの良い場所にごく普通に生育する、つる性の多年草です。国外でも東南アジアに広く分布します。自然性の高い場所だけでなく、都市部でも公園や人家の庭など、ちょっとした緑地のフェンスや植木にも絡みついて生育しています。葉や茎を傷つけると強い悪臭がありますが、これは細胞が壊れた際に発生するメタンチオール(メチルメルカプタン)という成分のためです。

花は長さ約1cmの釣り鐘型をしており、花冠の先は平開して浅く5裂しています。花冠外面は細かい毛が密生して灰白色、平開した「のど」の部分から筒状になった花冠内部にかけては紅紫色で腺毛が密生しています。花期は植物図鑑では、夏(8~9月)とされていますが、岡山県南部などの比較的暖かい地域では、6月下旬頃から咲き始めます。葉は対生、長さ4~10cm,幅1~7cmの楕円形あるいは長卵形、先端は尖り、基部はやや心形(凹んだ形状)です。葉柄の基部には三角形の托葉(左右の葉の托葉が合着したもの。合着せず離れている場合もある)があります。葉やつるには粗い毛があります。ちなみに、つるの巻き方は必ず「左巻き(根元からつるの先端方向に見た場合に反時計回り)」になっています。茎の基部は木質化し、根も太くしっかりとしており、つるも手では引きちぎれないほど丈夫です。根本で刈り取っても、すぐに再生するうえ、前述の悪臭があるため、庭の草取りなどでは嫌われ者です。

花冠内部は紅紫色で腺毛が密生する。2本の糸くずのように見えるのは花柱(雌しべ)。 葉は対生、長さ4~10cm,幅1~7cmの楕円形~長卵形。葉柄の基部には三角形の托葉がある。
▲花冠内部は紅紫色で腺毛が密生する。2本の糸くずのように見えるのは花柱(雌しべ)。 ▲葉は対生、長さ4~10cm,幅1~7cmの楕円形~長卵形。葉柄の基部には三角形の托葉がある。

 

しかしながら、晩秋に熟す直径5mmほどの球形をした果実は光沢のある黄褐色で美しく、鳥などに食べられない限りは、植物体が枯れた後も長く残ります。嫌われる原因である悪臭も、枯れて乾燥した状態になると臭わなくなるので、クリスマスなどのリース素材として人気があるようです。種子は光沢がある外果皮を取り除くと中に2個ずつ入っています。厳密には種子に見えるものは「核」と呼ばれる果皮が変化したもので、本当の種子は核の中に1個ずつ入っています(核果)。

掘り上げた株。太い根を持ち、茎の基部は木質化する。つるも丈夫で手では容易には引きちぎれないほど。 実には光沢があり美しい。嫌われる原因の悪臭は乾燥すると無くなるため、リースなどに利用される。
▲掘り上げた株。太い根を持ち、茎の基部は木質化する。つるも丈夫で手では容易には引きちぎれないほど。 ▲実には光沢があり美しい。嫌われる原因の悪臭は乾燥すると無くなるため、リースなどに利用される。


和名は「屁糞・葛」で、説明するまでもなく、本種の臭いに由来することは明らかですが、花の中央が赤い様子が「やいと(お灸)」の痕を思わせることから「ヤイトバナ」、または花が田植えをする女性「早乙女」が被る笠を思わせるので「サオトメバナ」との別名もあります。「サオトメバナ」の由来には、花自体が可愛らしいことを「早乙女」に例えたとも、早乙女が田植えをするころに花が咲くからという説もあります。ヘクソカズラの名があまりに下品な印象であることから、上品に「サオトメバナ」と呼んだほうが良い、という主張をされる方も時におられますが、実は本種は万葉集にも1首だけですが、「屎葛(くそかずら)」の名で登場します。「屁」がいつ付け加わったのかは分かりませんが、1200年以上前の万葉びとも、本種の臭いから連想するものは同じであったようです。さらには、属の学名の Paederia も、ラテン語で汚れや汚物を意味する Paedor という言葉に由来する(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.141)うえ、英語でもSkunk-vine(スカンクのつる)と呼ばれており、歴史的にも世界的にも、本種とその仲間の「臭い」が本種の最もわかりやすい特徴ということは共通しているようです。これらをすべて抑えて花の可愛らしさなどを由来とする名を定着させるのは、至難の業であると言わざるを得ないでしょう。また、ネット上には、「“ヘ”クソカズラ」の命名者を牧野富太郎博士(1862年生)と紹介しているウェブサイトがしばしば見受けられますが、1847年発行の「重訂本草綱目啓蒙」に既に「ヘクソカヅラ」の名がありますので、これは間違いです。

果実は「核果」。光沢があるのは薄い外果皮で、中には、2個の「核」がある。本当の種子は核の中に入っている。 「ヘクソカズラツルフクレフシ」。本種の茎にヒメアトスカシバというガの幼虫が寄生した「虫えい(虫こぶ)」。
▲果実は「核果」。光沢があるのは薄い外果皮で、中には、2個の「核」がある。本当の種子は核の中に入っている。 ▲「ヘクソカズラツルフクレフシ」。本種の茎にヒメアトスカシバというガの幼虫が寄生した「虫えい(虫こぶ)」。


ちなみに、秋~冬頃に、時に半ば木質化した本種の茎が紡錘形に膨れている場合がありますが、これはヒメアトスカシバというガの幼虫がつくった「ヘクソカズラツルフクレフシ」という名の虫えい(虫こぶ)です。人間には1200年以上、臭いと言われ続けている?本種ですが、生き物のなかには、嫌われ者の本種をうまく利用しているものもいるようです。

(2021.7.17)

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