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おかやまの植物事典

ヒメガマ(ガマ科) Typha domingensis

日本全国の水辺に生育する抽水植物。「ガマの穂」は直径1~2cmほどでガマそのものよりやや細い。 葉の基部はさや状に重なる。花穂のつく茎は重なった葉の中心部から出る。
▲日本全国の水辺に生育する抽水植物。「ガマの穂」は直径1~2cmほどでガマそのものよりやや細い。 ▲葉の基部はさや状に重なる。花穂のつく茎は重なった葉の中心部から出る。

 

ヒメガマは、日本全国の湖沼やため池、河川の岸、休耕田などの水深の浅い水辺に生育する多年性の抽水植物(水底の泥中などに根を張り、葉や茎が水面より上に出る植物)です。地下には太い根茎があり、長い走出茎を長く伸ばして群生します。葉は幅5~15mm、長さ1~1.5mm程度の線形で緑白色をしており、基部はさや状に重なっています。花穂のつく茎はさや状になった葉の中心部から出て高さ1.5~2mほどになり、6~7月頃、頂部に円柱状の花穂をつけます。花穂は上部に長さ6~30cmの雄花群、下部に長さ5~20cmの雌花群がつきます。本種の雄花群と雌花群の間には間隔があり、緑色の軸が露出しています。それぞれの花群の基部には薄い膜状の苞がありますが、開花後しばらく経つと脱落します。なお、同属のガマ T. latifolia 、コガマ T. orientalis の花穂は雄花群と雌花群の間隔がなく、接した状態になっているので、この点は本種を見分けるうえで良い区別点となります。

黄色の花粉を出す雄花群と、雌花群の間には緑色の軸が露出する。花群の基部には膜状の苞がある。 7月頃には「ガマの穂」となるが、種子が熟すのは晩秋。穂がほぐれ、綿毛の着いた種子が大量に飛散する。
▲黄色の花粉を出す雄花群と、雌花群の間には緑色の軸が露出する。花群の基部には膜状の苞がある。 ▲7月頃には「ガマの穂」となるが、種子が熟すのは晩秋。穂がほぐれ、綿毛の着いた種子が大量に飛散する。

 

雄花群の花粉は風によって飛散して受粉します。花粉は黄色をしており、飛散する前に集めて乾燥させたものは生薬として「蒲黄」と呼ばれ、下血などに止血剤として煎じて服用したり、切り傷や軽度の火傷には直接患部に塗布して傷薬とされます。雌花群は、花期には太さ7~8mmほどで雄花群とほぼ同じ太さですが、花が終わると1~2cmほどに太くなり、7月頃には褐色のフランクフルトソーセージのような姿になります。これがいわゆる「ガマの穂」ですが、種子が熟すのは晩秋で、そのころには硬く締まった状態だった穂が徐々にほぐれ、綿毛の着いた種子を風によって大量に飛散させます。種子は下部(穂の軸側)に長毛を持った長い花柄があって、パラシュートのような姿をしており、風に乗って飛散しやすくなっています。ちょうどタンポポの綿毛に似た姿ですが、本種の綿毛の方がはるかに軽く、遠くまで散布されるようです。

種子の下部(写真左側が穂の軸側)には長毛のある花柄があり、風によって飛散しやすくなっている。 ▲ガマ(上)とヒメガマ(下)の葉。ヒメガマの方が細く厚みも薄い。全体に小型なので「姫蒲」である。
▲種子の下部(写真左側が穂の軸側)には長毛のある花柄があり、風によって飛散しやすくなっている。 ▲ガマ(上)とヒメガマ(下)の葉。ヒメガマの方が細く厚みも薄い。全体に小型なので「姫蒲」である。

 

和名は、ガマそのものに比べて葉の幅が細く、厚みも薄いため、全体的に小型であるとの意味で「姫蒲」とされたものです。「蒲」の字については、水辺や岸辺を示す「浦」の字と同源で、「艸(くさかんむり)」をつけ、水辺に生える植物であることを表したものとされます(加納善光 著.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.288‐299)。また、「蒲鉾(かまぼこ)」は、竹に魚肉をつけて焼いた、いわゆる「竹輪」の姿がガマの穂に似ていたことから、「蒲団(ふとん)」は、ガマの穂綿を綿(真綿)の代用として寝具に入れたことから、「蒲」の字が使われています。また、新芽を食用とするなど、本種は古来より薬用、食用、生活資材などとして利用されてきた有用植物であるといえます。岡山県北部の真庭市蒜山地域や苫田郡鏡野町などでは、伝統的民芸品として、背負いかごや腰かご、円座などの「がま細工」が作られていますが、その材料には、葉が細く細工しやすいヒメガマが使われています。ヒメガマの葉の内部は、隔壁で仕切られた通気道が通っており、スポンジのように空隙が多いため軽いうえ、抽水植物のため水にも強く、非常に丈夫で実用的な民芸品です。「ガマ」の名自体も、組んで筵などを作る意味の「クミ」、あるいは朝鮮語で(筵や敷物の)材料を意味する「カム」が語源ともいわれます。(木村陽二郎 監修,植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.115)

なお、「ガマ」が登場する有名な話に、「古事記」の「因幡の白兎」の話があります。ワニ(サメ)をだましたために皮を剥かれ、赤裸になった白ウサギに、大国主命が「ガマの穂」を敷いて転がるように教え、ウサギの傷が癒された…という話ですが、原文では「…水門之蒲黃 敷散而…」とあり、正確にはガマの「穂」ではなく、ガマの花粉である「蒲黄」を体につけるように指示していることがわかります。これは大国主命が医薬の神でもあることを示しています。なお、花粉を体につけるには、雄花群が花粉を出している時期でなければならず、「因幡の白兎事件」は、6~7月頃の出来事、と推理することができます。ただ、最近は「ガマの穂」と表記されるならまだしも、しばしば「ガマの穂綿の上で…」としてある書籍やウェブサイトが見られるようになっています。「穂綿」は、ガマの穂がほぐれた綿のことですから、秋の話になってしまい、花粉を体につけることはできず、これでは白ウサギの傷は癒されません。

(2018.6.23)

▲葉をスライスした状態。隔壁で仕切られた通気道があり、スポンジ状となっているため、軽く丈夫である。 岡山県北では、伝統民芸品の「ガマ細工」として本種を利用し、カゴや円座などが作られている。
▲葉をスライスした状態。隔壁で仕切られた通気道があり、スポンジ状となっているため、軽く丈夫である。 ▲岡山県北では、伝統民芸品の「ガマ細工」として本種を利用し、カゴや円座などが作られている。

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