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おかやまの植物事典

ヒサカキ(APGⅢ:モッコク科/エングラー:ツバキ科) Eurya japonica

各地の里山にごく普通に見られる常緑樹。地域によっては枝は神前に供える玉串としても用いられる。 林内の株の葉(上)と日当たりが良く乾燥する場所の株の葉(下)。生育環境により葉の大きさは様々。
▲各地の里山にごく普通に見られる常緑樹。地域によっては枝は神前に供える玉串としても用いられる。 ▲林内の株の葉(上)と日当たりが良く乾燥する場所の株の葉(下)。生育環境により葉の大きさは様々。

 

ヒサカキは、青森県をのぞく本州、四国、九州、沖縄の山野に普通に見られる、常緑の低木~小高木です。岡山県でも沿岸部から中国山地まで全域に生育していますが、温暖な地域には多く、冷涼な地域では少なくなります。また、マツ林のような明るい林に生育することはもちろん、耐陰性も高く、マツ枯れ後、アラカシなどの常緑樹の成長によって暗くなった林内にも生育しています。伐採すると、切株より盛んに萌芽を出して再生しますので、柴刈りなどを頻繁に行う里山においても生育することができ、里山における代表的な樹木ともいえます。

葉は両面無毛で厚い革質、互生します。葉の縁には浅い鋸歯があり、先端は鈍頭、あるいは少しへこんだ形となっています。葉の長さは5~6㎝ほどですが、日当たりが良く乾燥する立地に生育するものは4~3㎝ほどに葉が小さくなります。花は3~4月頃、枝の葉腋(葉の付け根)に直径2.5~5㎜の5弁花が1~3個ずつ咲きますが、普通、雌雄異株で、雄花は雌しべは退化していて雄しべが12~15本あります。逆に雌花は雄しべは退化して、先が3裂して反り返った花柱を持ちます。花には強い匂いがありますが、あまり良い匂いというわけではなく、漬物やガスのような匂いと例えられることもあります。果実は10~11月頃に熟し、直径4~5㎜程度の光沢のある球形の液果で、中には小さな種子が多数入っています。樹皮は灰色でなめらかですが、やや太くなると不規則な横じわが出てきます。

雄花。花弁は5枚、がく片は濃紫色。 雌花。花柱は3裂して反り返っている。
▲雄花。花弁は5枚、がく片は濃紫色。 ▲雌花。花柱は3裂して反り返っている。

 

果実は光沢があり、直径4~5㎜の球形で、秋に熟す。 幹は灰色で滑らか。不規則な横じわがある。
▲果実は光沢があり、直径4~5㎜の球形で、秋に熟す。 ▲幹は灰色で滑らか。不規則な横じわがある。

 

ヒサカキの仲間(属)の分類上の扱いについては、従来の分類体系(新エングラー)では、ツバキ科とされていましたが、遺伝的な解析結果を反映した新しい分類体系(APG分類体系)では、サカキ属などと共にツバキ科からは独立し、モッコク科(またはサカキ科)として扱われています。
ヒサカキの名は、神前に供える玉串とするサカキと比較すると小型であるため、「姫(ひめ)サカキ」からとも、サカキに似ているが違うということで「サカキに非ず=非サカキ」からともされます。その他にも実を多くつけるので、「実サカキ」が由来であるという説もあります。いずれにしてもサカキを基準とした名です。本種は、全国各地でサカキ同様に玉串として用いられているようで、岡山県でも本種を「シャシャキ」などと呼び、玉串とします。その際の説明として、「サカキが手に入りにくい地域で代用として用いられる」とほとんどの図鑑、事典などで説明されていますが、現在知られている名がサカキを基準にしているからと言って、ヒサカキは「代用」であるとしてよいのでしょうか。

玉串とされる植物には、古来、サカキに限らず、オガタマノキ、ソヨゴ、スギなど様々な植物が用いられてきました(サカキという名は、神前にささげたり、神事に用いる樹木の総称であるという説もあります)。それらの植物に共通するのは、常緑の樹木の枝であることであり、落葉樹が冬枯れていても緑の葉をつけ、生命力にあふれている姿に神性を見出すことは、クリスマスにヤドリギやセイヨウヒイラギを飾るヨーロッパの風習にも見られることで、洋の東西を問いません。そう考えるなら、神前に供えるのは常緑の木であることこそが重要であるとも言えます。「代用」では失礼なのでと、わざわざサカキの枝を買って神棚に供えるよりは、自らの手で山から採ってきた「シャシャキ」を供えるほうが、ご利益があるかもしれません。

(2016.3.27)

ヒサカキの葉(左)葉の先は鈍頭(丸い)か、少しへこむ。右は良く似たツツジ科の常緑樹、シャシャンボの葉先で、鋭頭(尖っている)。 耐陰性も高く、暗い林内にも生育する(赤丸部分)。萌芽能力も高く、伐採してもすぐに再生する。
▲ヒサカキの葉(左)葉の先は鈍頭(丸い)か、少しへこむ。右は良く似たツツジ科の常緑樹、シャシャンボの葉先で、鋭頭(尖っている)。 ▲耐陰性も高く、暗い林内にも生育する(赤丸部分)。萌芽能力も高く、伐採してもすぐに再生する。

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