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おかやまの植物事典

イヌハギ (マメ科) Lespedeza tomentosa

環境省レッドリスト2020:絶滅危惧Ⅱ類 / 岡山県レッドデータブック2020:準絶滅危惧

高さ1.5mほどになる半低木。日当たりが良く砂質の土壌を好み、河川敷などに生育することが多い。 花期は7~9月。解放花は長さ8~10mmほどで総状花序に多数付く。旗弁の基部には濃い紅紫色の斑がある。
▲高さ1.5mほどになる半低木。日当たりが良く砂質の土壌を好み、河川敷などに生育することが多い。 ▲花期は7~9月。解放花は長さ8~10mmほどで総状花序に多数付く。旗弁の基部には濃い紅紫色の斑がある。

 

イヌハギは、本州、四国、九州、沖縄にかけての、砂質の土壌で日当たりが良い、河川敷のような場所に生育する高さ1~150cmほどになる多年生の半低木です。国外では朝鮮半島、中国、極東ロシアなど東アジアからインド、ヒマラヤ地域に分布します。

花は7~9月(倉敷市など岡山県南部では8月下旬~9月)、いわゆる普通のハギらしい姿の「開放花(有弁花)」と、花弁のない「閉鎖花」の2種類の花をつけます。開放花は茎の上部で分枝した枝先の総状花序に多数付き、長さ8~10mm、白色で旗弁(マメ科の花…蝶形花を正面から見たとき、最後方で立ち上がっている花弁)の基部に濃い紅紫色の斑があります。

閉鎖花は、開放花の開花がほぼ終わりかけたころ、葉腋などに多数が球状に密集して付く。 果実は他のハギ類と同じような楕円形の豆果。種子は長さ3~5mmの歪んだ楕円形で、濃褐色の斑紋がある。
▲閉鎖花は、開放花の開花がほぼ終わりかけたころ、葉腋などに多数が球状に密集して付く。 ▲果実は他のハギ類と同じような楕円形の豆果。種子は長さ3~5mmの歪んだ楕円形で、濃褐色の斑紋がある。

 

閉鎖花は、開放花の開花期からはやや遅れ、開放花がほぼ終わりかけたぐらいの時期に、茎上部の葉腋や開放花の花序軸の基部に多数が球状に密集して付きます。閉鎖花が枝にびっしりと着いた状態は一見、異様にも思え、初めて見た方の中には、「虫えい(虫こぶ)」と勘違いする方も多いのですが、花後に球状の部分をバラバラにしてみると、一つ一つの果実はヤマハギ L. bicolor など普通のハギの豆果と同じような形をしています。種子は豆果(さや)の中に1個入っており、長さ3~5mmほどの歪んだ楕円形で、濃褐色の斑紋があります。

葉は3出複葉、小葉は3~6cmの長楕円形で先は鈍頭。表裏とも毛が生えるが、裏面、特に脈上に密生する。 植物体全体に黄褐色の毛が生える。葉裏、茎の稜上、葉柄、小葉柄などには特に毛が密生する。
▲葉は3出複葉、小葉は3~6cmの長楕円形で先は鈍頭。表裏とも毛が生えるが、裏面、特に脈上に密生する。 ▲植物体全体に黄褐色の毛が生える。葉裏、茎の稜上、葉柄、小葉柄などには特に毛が密生する。

 

葉は3出複葉、小葉は3~6cmの長楕円形で鈍頭(先端が丸い)、頂小葉がもっとも長くなり、質は厚く革質、表面は緑色で短毛が薄く生え、裏面は淡緑色で黄褐色の軟毛があり、特に脈上には密生します。黄褐色の毛は葉だけではなく、植物体全体に生えています。茎には低い稜があり、この稜上や葉柄、小葉柄などには特に毛が密生しています。茎の基部はヤマハギなどと同様に木化し、たびたび刈り取られるような環境であっても、根元から素早く再生します。

茎を切った後の株。茎の基部は木化し、たびたび刈り取られるような環境でも素早く再生する。 本種と同様、濃紅紫色の斑がある白色花をつけるネコハギ。軟らかく小型の「猫」に対して「犬」とされたか。
▲茎を切った後の株。茎の基部は木化し、たびたび刈り取られるような環境でも素早く再生する。 ▲本種と同様、濃紅紫色の斑がある白色花をつけるネコハギ。軟らかく小型の「猫」に対して「犬」とされたか。

 

和名を漢字で表記すると「犬萩」ですが、植物の和名では「イヌ」とつく植物は、基準となる他の植物に対して「異なる」ことを意味することが多いので、本種もヤマハギなど紅紫色の花をつけるヤマハギ節の「ハギ」に対して「イヌ」とつけられた、と説明されることが多いようです。ただ、本種の近縁(シベリアメドハギ節)の種には、小型で茎が柔らかく地面をはうように生育するネコハギ L. pilosa という種があり、小型で柔らかい印象の「猫」に対して、大型で丈夫な印象の本種を「犬」としたという説もあるようです。なお、中国では本種は「絨毛胡枝子(胡枝子=ハギ類の中国名)」または「山豆花」と呼ばれます。

本種は、河川改修や植生の変化による生育適地である河川敷の砂地の減少、また、田畑周辺の畦畔など直接的な人為的管理の影響がある場所では、草刈りから除草剤による管理になるなど、管理方法の変化などによって、全国的に個体数が減少しつつあり、環境省レッドリスト2020では「絶滅危惧Ⅱ類」、岡山県レッドデータブック2020でも「準絶滅危惧」とされています。

ただし、本来は刈り取りにも乾燥にも強い植物であるため、定期的な草刈りによる管理を行うなど、日当たりが良く乾燥気味の生育環境を整えてやりさえすれば、かなり旺盛に増殖します。当園では、古屋野寛 名誉園長が1979年に高梁市で採集した種子由来の個体を栽培していますが、現在では園内のあちこちでほぼ野生化しており、他の植物の植栽地にまで侵入して繁茂するため、管理上、悩みの種ともなっています。

(2021.9.19)

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