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おかやまの植物事典

イヌホオズキ(ナス科) Solanum nigrum

畑地周辺や路傍に生育する1年草。 在来種とされるが、古い時代に日本に渡来した「史前帰化植物」のひとつともされる。 葉は長さ3~10cm、幅2~6cmほどの広卵形。 当園内に生育するものは葉の表裏に短毛が比較的多く、ざらついた感触。
▲畑地周辺や路傍に生育する1年草。 在来種とされるが、古い時代に日本に渡来した「史前帰化植物」のひとつともされる。 ▲葉は長さ3~10cm、幅2~6cmほどの広卵形。 当園内に生育するものは葉の表裏に短毛が比較的多く、ざらついた感触。

 

イヌホオズキは日本全国の畑地周辺、路傍、荒れ地等に生育する、高さ20~60cm程度になる一年草です。 「世界の熱帯~温帯に広く分布する」(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物5.平凡社.p.43-44)とされ、熱帯アジア原産で、農耕の広がりとともに、古い時代に日本に入ってきた「史前帰化植物」のひとつとも考えられていますが、多くの場合、在来種として扱われます。 岡山県内では、北部の中国山地など寒冷な地域では少ないものの、海沿いの地域も含めてほぼ全域に分布しています。 ただし、近年ではアメリカイヌホオズキ S.ptychanthum など、同属の帰化植物の分布拡大が著しく、本種を目にする機会は少なくなりつつあるようです。 なお、ナス Solanum 属には、トマト S. lycopersicum 、ナス S. melongena 、ジャガイモ S. tuberosum など野菜として栽培される多くの種が含まれています。

茎は無毛もしくはまばらに短毛が生え、直立してまばらに枝分かれをします。葉は互生、長さ3~10cm、幅2~6cmほどの広卵形で、葉のふちは全縁(ぎざぎざがない)か、ゆるやかな波状の鋸歯(ぎざぎざ)があり、基部は円形あるいはくさび形で緑色の翼となって葉柄部分に流れています。 「葉身は縁や裏面にまばらに短毛があるほか、ほとんど無毛」(大橋ほか.2017)とされますが、当園内でみられるものは、葉の両面に硬い短毛が比較的多く生えており、触るとざらついた感触があります。

花は直径1cmほどで花冠は5深裂。 通常は白色だが、生育環境などによっては淡紫色をおびる場合もある。 果実は黒色の液果。果実の柄は果軸に分散して着き、果実表面には光沢がほとんどない。 写真はやや光沢がある果実。
▲花は直径1cmほどで花冠は5深裂。 通常は白色だが、生育環境などによっては淡紫色をおびる場合もある。 ▲果実は黒色の液果。果実の柄は果軸に分散して着き、果実表面には光沢がほとんどない。 写真はやや光沢がある果実。

 

花は夏から秋にかけて、茎の途中から出した花序に4~8個の花を咲かせます。 花は直径1cmほどで花冠は5深裂します。 花色は通常は白色ですが、生育環境などによっては淡紫色を帯びることもあります。 花を咲かせながら、直径0.7~1cmの黒色(黒紫色)の液果を実らせます。 果柄は果軸(花序軸)に分散して着いており、果実表面には光沢はほとんどありません。 これらの果実の特徴は、果柄が果軸先端に集まって着き、果実表面にニスを塗ったような明らかな光沢があるアメリカイヌホオズキとの良い区別点となります。

果実内部も濃紫色で、20~50個ほどの種子が入っており、種子は長さ約2mm、扁平でややゆがんだ卵形をしており、表面には網目状の細かなしわがあります。 また、アメリカイヌホオズキやオオイヌホオズキ S. nigrescens の果実内部には種子に混じって、球状顆粒と呼ばれる小さな固い粒が含まれますが、本種の果実内部には球状顆粒が含まれないことも特徴のひとつです。 特に、オオイヌホオズキの果実は光沢が少なく、果柄も果軸に分散して着くため、サイズの小さな個体の場合には判別が難しいことがあり、球状顆粒の有無は分かりやすい判別点となります。

果実内部は濃紫色で多数の種子が入っている。 アメリカイヌホオズキやオオイヌホオズキの果実に含まれる球状顆粒はない。 洗浄して乾燥した種子。 長さ約2mmほどのゆがんだ卵形で扁平。 表面には網目状の細かなしわがある。
▲果実内部は濃紫色で多数の種子が入っている。 アメリカイヌホオズキやオオイヌホオズキの果実に含まれる球状顆粒はない。 ▲洗浄して乾燥した種子。 長さ約2mmほどのゆがんだ卵形で扁平。 表面には網目状の細かなしわがある。

 

本種の仲間には前述のアメリカイヌホオズキ、オオイヌホオズキの他にも、テリミノイヌホオズキS. americanum (在来種とする意見もある)、ヒメケイヌホオズキ S. physalifolium var. nitidibaccatum などの帰化植物の種類が多く、形態も似通っているうえ、分類学上も様々な見解があるため、整理が大変難しい仲間です。 図鑑によっては果実が落ちる時に果柄ごと落ちるか、果実のみ落ちるかを見分けのポイントとしている場合もありますが、当園近辺で観察している限りでは、例外が多く、あまりあてにならないように思います。

和名は「犬・酸漿(鬼灯)」で、朱色の袋状のがくを持つ、いわゆる普通のホオズキAlkekengi officinarum var. franchetii とは別属であり、ホオズキとは異なるとの意味でイヌホオズキと名付けられています。 「イヌ」の名を持つ植物の名の由来として、しばしば「犬=役に立たない」という意味であると解説されますが、本種の全草を乾燥させたものは「龍葵(りゅうき)」と呼ばれて生薬として用いられますので、役に立たないわけではなく、「異なる=異な」ものであることを意味すると考えるほうが納得できる気がします。 ただし、生薬として用いられるといっても、本種の仲間はほとんどがソラニンやサポニンといった有毒成分を含む毒草であるため、家庭での利用は避けた方が良いでしょう。 例外として、ナンゴクイヌホオズキ S. scabrum という種類は「ガーデンハックルベリー」と呼ばれてしばしば栽培され、完熟した果実をジャムなどに加工して食用としますが、これも未熟な果実や葉などの植物体は有毒であるとされますので、注意が必要です。

 (2023.11.12 改訂)

アメリカイヌホオズキの果実。 果実の柄は果軸の先端に集まって着き、果実表面にはニスを塗ったような明らかな光沢がある。 食用として栽培されるナンゴクイヌホオズキ S. scabrum (ガーデンハックルベリー) 。 未熟果実は有毒なので注意が必要。
▲アメリカイヌホオズキの果実。 果実の柄は果軸の先端に集まって着き、果実表面にはニスを塗ったような明らかな光沢がある。 ▲食用として栽培されるナンゴクイヌホオズキ S. scabrum (ガーデンハックルベリー) 。 未熟果実は有毒なので注意が必要。

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