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| ▲秋には美しく紅葉するため、古くから庭園に植栽され、親しまれてきた。 当園の湿地エリアにも多数が植栽されている。 | ▲葉表(左)と葉裏(右)。 葉は直径3~8cmほどで掌状に5~7深裂する。 裏面の基部の脈腋に淡褐色の毛がある以外は無毛。 |
イロハモミジは福島県以南の本州、四国、九州の山地に分布する、高さ15mほどになる落葉小高木~高木です。 日当たりが良く、適度な湿り気がある立地を好み、谷地形の斜面などによく生育しています。 と言っても、カエデの仲間の中では比較的、乾燥に強い種類で、秋の紅葉も美しいため、古くから庭園に植えられて親しまれてきた樹木で、園芸品種も数多くあります。 岡山県においてもほぼ全域に分布するほか、各地の庭園、公園などによく植栽されており、紅葉の名所と呼ばれる場所も数多くあります。 なお、カエデ Acer 属の植物は、旧来の分類体系では「カエデ科」とされていましたが、現在主流となっている遺伝子解析情報を反映したAPG分類体系においては、カエデ科はすべてムクロジ科に含まれており、「カエデ科」は消滅した形となっています。
葉は枝に対生し、葉柄は細く、長さ2~6cmで無毛、葉身は薄く紙質、直径3~8cmほどで、ふつう掌状に5~7深裂していますが、葉身基部の裂片がさらに小さく裂けて、8~9裂となっていることもあります。 裂片は披針形で先は長く尾状に伸びています。 裂片の縁には重鋸歯(大きな鋸歯のふちにさらに細かい鋸歯がある)があります。 葉には春の芽吹き直後には褐色の軟毛がありますが、完全に展葉する頃には、葉裏の基部の脈腋に淡褐色の毛がある以外、表裏とも無毛となります。 芽吹きの頃には花序と葉柄の出ているあたりに、赤くて細長い托葉状のものがありますが、これは芽鱗(冬芽)の一部が伸長した鱗片葉で、葉が展葉しきる頃までには脱落します。 秋には葉が鮮やかな紅色に紅葉します。
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| ▲葉の裂片の先は尾状に長く伸びており、縁の鋸歯は重鋸歯となっている。 | ▲花は4~5月、展葉と同時に複散房状の花序に雄花と両性花をつける。 赤い托葉状のものは芽鱗の一部が伸長した鱗片葉。 |
花期は4~5月、展葉とほぼ同時に枝先に複散房状の花序を出し、直径4~6mmの花を10~20個ほどつけます。 花は同じ花序に雄しべのみの雄花と、雄しべと雌しべがそろった両性花が混生していますが、雄花の方が数が多く、雌花はわずかです。 花弁と萼片は5枚ずつあり、萼片は暗紫色、花弁は淡黄~黄緑色で薄紫色を帯びる場合もあります。 両性花では雄しべは花柱(雌しべ)よりも短く、雌しべの柱頭は成熟すると2裂し、先が反り返った形状となります。 雄花の雄しべは花弁や萼片より長く、花の外部に突き出します。 果実が熟すのは、倉敷市など岡山県南部では10~11月頃で、薄い翼を持った果実が水平に2つ繋がっており、まるで竹とんぼのような形状をしています。 果実が完全に熟して乾燥すると、花柄の付いている部分から2つに分かれて落下しますが、落下の際には、果実はプロペラのようにクルクルと回転しながら比較的ゆっくりと落ちていきます。 これはできるだけ広範囲に果実を散布するための工夫であると考えられています。
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| ▲両性花。雄しべは花柱よりも短い。 写真で雄しべの上部にある淡黄色のものが花弁、さらに上部の暗紫色のものが萼片。 | ▲雄花。 雄花の雄しべは長く、花の外部に突き出す。 写真の花はやや時期が遅いため、花弁は無くなっている。 |
若い枝は緑色をしていて平滑、比較的若い幹などでも、部分的に緑色の部分が残っていることがあります。 年数が経った樹皮では緑色の部分がなくなり、淡灰褐色で縦方向に浅い皮目が入ります。
種は植栽されることも多く、一般の認知度も比較的高い、最も身近な「モミジ」ですが、 実はオオモミジ A. amoenum の変種、ヤマモミジ A. amoenum var. matsumurae も本種と同じように良く植栽されています。 ヤマモミジは簡単にいうと、オオモミジの鋸歯(重鋸歯も混じることがあるが、おおむね整った単鋸歯)が重鋸歯縁となったタイプ(分布上はオオモミジが太平洋側、ヤマモミジが日本海側に多い)で、本種と混同されることが多く、公園に植栽されているイロハモミジに「ヤマモミジ」との名札がかかっていることも良くあります。 これらの判別点としては、果実の形状が、ほぼ水平(竹とんぼ状)で、果実が上方に直立するように着く傾向が強い(下垂気味に付くものもあるので注意)のがイロハモミジ、果実が90°前後の角度(ブーメラン状)で、枝から垂れ下がるように着く傾向が強いものがヤマモミジ(オオモミジの果実も同じ)と覚えるのが良いようです。
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| ▲果実は翼があり、熟すと果柄の部分でちぎれて、回転しながら落下する。 下垂するものもあるが、上方に直立するものが多い。 | ▲若い枝は緑色をしていて、なめらか。 年数が経つにつれて淡灰褐色に変化し、縦に浅い皮目が入る。 |
和名は「いろは・モミジ」で、葉が大体7裂であることが多く、「い、ろ、は、に、ほ、へ、と」と、裂片の数を数えたことに由来するとされます。 また、属の学名 Acer は ラテン語でカエデを意味し、種小名 palmatum は「掌状の」を意味します。 「カエデ」は「カエルの手(蛙手)」の意味で、カエデの仲間の掌状葉が、水かきのあるカエルの手を思わせることに由来するとされます。 万葉集の和歌には「黄變蝦手」(もみつかえるで)と詠まれており、「葉が変色する動詞」(木下武司.2010.万葉植物文化誌.八坂書房.p.178)として使われていた「黄変つ(もみつ)」という言葉が、カエデの仲間の中でも、庭園に植栽されることも多く身近であった本種やオオモミジ、ヤマモミジを指す名として使われるようになったのではないかと考えられます。
(2025.11.15)