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おかやまの植物事典

カモノハシ (イネ科) Ischaemum aristatum (広義)

湿地では貧栄養な環境(写真中央奥)ではあまり生育せず、やや富栄養な環境に生育することが多い(写真手前)。 花は7~11月にかけて茎頂部の細長い穂に咲く。雌性先熟で、写真右側が雌性期、左側が雄性期終盤の穂。
▲湿地では貧栄養な環境(写真中央奥)ではあまり生育せず、やや富栄養な環境に生育することが多い(写真手前)。 ▲花は7~11月にかけて茎頂部の細長い穂に咲く。雌性先熟で、写真右側が雌性期、左側が雄性期終盤の穂。

 

カモノハシは、本州から九州にかけての湿地、湿った草地、砂浜などに生育する高さ30~80cmほどになる多年草です。 国外では朝鮮半島、中国、台湾に分布しています(大橋広好・門田裕一ほか編.2016.改訂新版 日本の野生植物2.平凡社.p.87)。 岡山県下においても、県南部から北部にかけての湿地、河川・ため池の岸、水田の周辺などで比較的普通に見られる植物です。 湿地内部の草丈の低い貧栄養な環境では生育数は少なく、生育密度も低くなりますが、湿地の辺縁部など、やや富栄養な環境では、しばしば密度の高い群落となって生育します。

花は7~11月にかけて咲き、茎の先に長さ4~7cm、幅5~8mmほどの細長い花序(穂、植物学では「総」という)を作って咲きます。 花は雌性先熟(雌しべの方が先に成熟する)で、まず試験管ブラシ状の柱頭(雌しべ)が現れ、それが萎れると入れ替わるように黄色の葯(雄しべ)が現れます。 柱頭ははじめ白色ですが、だんだんと紫褐色に変化します。 花序は1本の穂に見えますが、実際には2本の穂が密着して一本の穂に見えています。 穂は長い柄の小穂と短い柄の小穂が対になったものが連なってできており、それぞれの穂の縁は波状の凸凹のある形状となっていて、この凸凹がうまくかみ合っているだけの状態ですので、穂は指で簡単に開くことができます。 小穂はそれぞれ2個の小花があり、長柄小穂は2個とも雄性(雄しべのみ)で、短柄小穂は1個は雄性の小花、もう1個は両性の小花が咲きます。 花後、痩果が熟すと、小穂は開出した状態になり、対となった小穂ごとに節で折れ、ばらばらになって落ちることで散布されます。

花序は1本の穂に見えるが、実際には2本の穂(総)が密着した状態。写真は手で穂を開いたところ。 穂は長柄小穂と短柄小穂が対となったものが連なっている。痩果が熟すと節からばらばらになって散布される。
▲花序は1本の穂に見えるが、実際には2本の穂(総)が密着した状態。写真は手で穂を開いたところ。 ▲穂は長柄小穂と短柄小穂が対となったものが連なっている。痩果が熟すと節からばらばらになって散布される。


第2小花の護穎(ごえい)に長い芒があり、第1苞穎(ほうえい)の翼の幅が広いタイプのものを学名上の母種 I. aristatum var. aristatum (タイワンカモノハシ)として区別し、芒が短く目立たないものを変種 var. crassipes として、この変種を「カモノハシ」とする場合が普通ですが、当園の湿地に生育しているカモノハシは、小穂の芒が短い個体から長い個体まで変異があって明確に区別することが難しく、当園ではこれらを区別せず、広義のカモノハシとして扱っています。 また、稈を包む葉鞘についても、普通は無毛とされますが、当園のカモノハシの葉鞘は白色の長毛が生えているものがほとんどです。

株は叢生して大株となります。 稈(茎)の節は無毛で、葉は長さ15~30cm、幅0.5~1cmの線形で両面無毛、葉身と稈を包む葉鞘の間には長さ3~4mmの膜状の葉舌があります。 近縁の植物に、海岸の砂浜などに生えるケカモノハシ I. anthephoroides がありますが、ケカモノハシの稈の節には毛が密生し、小穂にも白色毛が生え、葉の両面も有毛であるなど、全体に毛が多いため、識別は容易です。 ただし、岡山県においてはケカモノハシの生育に適した砂浜の開発などによる減少とともにケカモノハシも数を減らし、現在では限られた地域でしかみられなくなっており、岡山県レッドデータブック2020では「絶滅危惧Ⅱ類」とされています。

稈の節は無毛。海岸の砂浜に生えるケカモノハシは稈の節に長毛があり、小穂にも毛が多い。 葉身と葉鞘の間には3~4mmの葉舌がある。葉鞘は普通無毛とされるが、当園では長毛があるものが多い。
▲稈の節は無毛。海岸の砂浜に生えるケカモノハシは稈の節に長毛があり、小穂にも毛が多い。 ▲葉身と葉鞘の間には3~4mmの葉舌がある。葉鞘は普通無毛とされるが、当園では長毛があるものが多い。

 

和名を漢字表記すると「鴨の嘴」で、2本の穂が密着して1本に見える花序の様子を鳥のカモのクチバシに例えたものとされます。 オーストラリアに生息する哺乳類 Ornithorhynchus anatinus も、「カモノハシ」の和名を持っていますが、この動物の学名の属名はカモを思わせる平たいクチバシを持っていることから「鳥のくちばし」、種小名も「カモに似た」の意味で、和名もこの学名に由来するようです。 一方、植物の方の「カモノハシ」の学名については、属名 Ischaemum は「止血」を意味するギリシャ語 ischaimos に由来します(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.107)。 本種には特に生薬としての利用はないようで、なぜこの属名が付けられているのかは定かではありませんが、同じイネ科のヨシ Phragmites australis の根茎は止血の効能を持つ生薬として利用されますので、本種についても、そのような効能があると考えられていたのかもしれません。 なお、種小名 aristatum は「芒がある」ことを意味します(豊国.1987.p.28)。 特に和名と学名に関連はなく、本種がいつごろから「カモノハシ」の名で呼ばれるようになったのかについても、はっきり分かりませんが、中国ではカモノハシ属の植物は「鴨嘴草」と呼ばれているようですので、「カモノハシ」の名は、日本の誰かが「カモのクチバシに似ている!」と発想して名付けたものではなく、中国名に由来するものかもしれません。

 (2022.8.28)

叢生して大株となる。写真は4月上旬に芽吹いたカモノハシの株の様子。 和名は「鴨の嘴」で、2本の穂が密着した花序の様子をカモのクチバシに例えたもの。写真はカルガモ。
▲叢生して大株となる。写真は4月上旬に芽吹いたカモノハシの株の様子。 ▲和名は「鴨の嘴」で、2本の穂が密着した花序の様子をカモのクチバシに例えたもの。写真はカルガモ。

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