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おかやまの植物事典

カラスノエンドウ/ヤハズエンドウ (マメ科)  Vicia sativa subsp. nigra

春から初夏にかけての道ばたなど日当たりの良い場所にごく普通に生育する身近な植物である。 花は3~6月、葉の腋に紅紫色の蝶形花を1~3花ずつつける。エンドウの名を持つが、実はソラマメ属の植物。
▲春から初夏にかけての道ばたなど日当たりの良い場所にごく普通に生育する身近な植物である ▲花は3~6月、葉の腋に紅紫色の蝶形花を1~3花ずつつける。エンドウの名を持つが、実はソラマメ属の植物。

 

カラスノエンドウは本州から沖縄にかけての日当たりの良い道ばたや畑地、田のあぜ、野原などにごく普通に生育する、つる性の1年草~越年草です。国外でもユーラシア大陸の暖温帯に広く分布し、日本には古い時代にヨーロッパから帰化したものとする説もあります(大橋広好・門田裕一ほか編.2016.改訂新版 日本の野生植物2.平凡社.p.299)。岡山県でも県下全域でみられ、春の草花の代表のひとつと言ってもよいでしょう。

花は3~6月、葉の腋から短い花柄を出し、紅紫色で長さ12~18mmの蝶形花を1~3花ずつつけます。葉は互生、羽状複葉で、小葉は長さ2~3cm、幅4~5mmの狭倒卵形で、8~16枚あります。葉の先端は普通3つに分枝した巻きひげとなるため、小葉は必ず4~8対の偶数となります(偶数羽状複葉)。ただ、小葉は葉軸のほぼ同じ位置に対称につく葉もあれば、かなりずれて互生状につくような葉もみられます。また、葉の基部には托葉(小さな葉のような器官)があります。托葉自体はマメ科の他の植物にも見られますが、本種の托葉には黒紫色の腺点があり、この腺点から蜜を分泌することでアリを引き寄せ、植物体を食害する昆虫の幼虫などから守ってもらっていると考えられています。このような「花」以外の蜜を出す器官を「花外蜜腺(かがいみつせん)」と言います。本種だけでなく、様々な種類の植物が花外蜜腺を持っていますが、アリに代表される昆虫との関係については不明なことも多く、現在も研究が進められています。

葉は偶数羽状複葉。葉の先端は巻きひげとなる。小葉は全く対称でなく、ずれてつくことも多い。 葉の基部には托葉がある。托葉中央部の黒紫色の部分は「花外蜜腺」で、蜜を出すことでアリを呼び寄せる。
▲葉は偶数羽状複葉。葉の先端は巻きひげとなる。小葉は全く対称でなく、ずれてつくことも多い。 ▲葉の基部には托葉がある。托葉中央部の黒紫色の部分は「花外蜜腺」で、蜜を出すことでアリを呼び寄せる。

 

花後には長さ3~5cm、幅5~6mmの豆果ができます。豆果は扁平で無毛、中には5~10個の種子が入っています。果皮(さや)は黒く熟し、2つにねじれるように裂開して、内部の種子をはじき出します。種子は直径2.5~3mmほどのやや歪んだ球形で、茶褐色に黒い斑があります。また、春の若い芽や葉、若い果実(さや)はおひたしや天ぷらなどにして食べることもできます。また、茎には稜があり、地際から分枝して長さ150cmほどにもなります。茎や葉などにはまばらに毛が生えますが、毛の状態には個体差があり、ほとんど無毛の個体もあります。根には、マメ科の植物らしく、根粒(根に根粒菌と呼ばれる細菌を共生させ、空気中の窒素を取り込む)を形成します。近縁種には緑肥植物として利用されるものもあります。

花後には長さ3~5cm、幅5~6mmの扁平な豆果ができる。種子は5~10個。若い果実は食用となる。 果実の果皮は黒熟し、ねじれるように裂開して種子をはじき出す。種子は茶褐色で黒色の斑がある。
▲花後には長さ3~5cm、幅5~6mmの扁平な豆果ができる。種子は5~10個。若い果実は食用となる。 ▲果実の果皮は黒熟し、ねじれるように裂開して種子をはじき出す。種子は茶褐色で黒色の斑がある。

 

和名は「カラスの、エンドウ」ではなく、「烏(カラス)・野豌豆(のえんどう)」で、豆果の果皮が黒く熟すのをカラスに例えた、あるいは近縁のスズメノエンドウ V. hirsuta に比べて大型であることに由来するとされます(木村陽二郎 監修,植物文化研究会 編.2005.図説 花と樹の事典.柏書房.p.119)。また、「エンドウ」の名を持ちますが、分類上は、エンドウ Pisum sativum とは別属のソラマメ属とされます。本種の和名には「ヤハズエンドウ」の名もあり、特に植物学などの分野では「ヤハズ…」が使われることが多く、本格的な植物図鑑ではこちらの名で掲載されていることが普通です。「ヤハズ」とは「矢筈」で、矢の端の弓の弦をつがえる部分のことで、本種の小葉の先端部がへこんだ形状となることが、「矢筈」を思わせるので…とされます。しかし小葉をよく見ると、へこんだ先端部には細い刺状の突起がありますので、小葉のへこんだ部分そのものを「矢筈」と見立てるより、小葉を「矢羽」、突起を「矢筈」と見立てる方が、矢のイメージに近いように思えます。

根には根粒(白い粒状のもの)を形成し、窒素固定を行う。緑肥植物として利用される近縁種もある。 小葉の先端がへこむことを「矢筈」としたとされるが、小葉部分は「矢羽」で、刺状の突起の部分が「矢筈」?
▲根には根粒(白い粒状のもの)を形成し、窒素固定を行う。緑肥植物として利用される近縁種もある。 ▲小葉の先端がへこむことを「矢筈」としたとされるが、小葉部分は「矢羽」で、刺状の突起の部分が「矢筈」?

 

また、なぜ植物学においては「カラス…」ではなく「ヤハズ…」の和名が用いられるのかについては、、滋賀県の伊吹山などに生育する帰化植物、イブキノエンドウ V. sepium が、かつては「カラスノエンドウ」と呼ばれており、これとの混同を避けるために、本種には「ヤハズ…」の名を用いた、ということのようです。ラテン語の「学名」とは異なり、植物の和名には統一した命名規約はありませんので、どちらが「正しい」とか、「標準」の和名であるということはありません。一般には、混生することも多いスズメノエンドウなどと大きさの違いをイメージしやすい、カラスノエンドウの名で親しまれることが多いようです。

(2021.4.24)

 

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