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おかやまの植物事典

カラスウリ(ウリ科) Trichosanthes cucumeroides

開花したカラスウリの花。花弁のふちはレース状に細かく裂ける。雌雄異株で、写真は雄花。 巻きひげを伸ばして他の植物やフェンスなどに絡みつく。葉の両面、茎などには毛が密生してざらつく。
▲開花したカラスウリの花。花弁のふちはレース状に細かく裂ける。雌雄異株で、写真は雄花。 ▲巻きひげを伸ばして他の植物やフェンスなどに絡みつく。葉の両面、茎などには毛が密生してざらつく。

 

カラスウリは林縁や荒れ地のやぶのような場所に生育する、つる性の多年草です。北海道を除く全国に分布し、細い茎をのばして巻きひげで他の植物に絡みつきます。岡山県でも県中部~南部を中心に全域に分布しますが、乾燥する土質はあまり得意ではないようで、堆積岩地質など、やや水持ちの良い土質の地域でよくみられ、花こう岩(マサ土)の地域ではあまり見かけません。

茎は3~6m ほどにもなり、葉はキュウリやブドウの葉を思わせる6~10cm 程度の卵心形で互生し、ふちは波状の鋸歯があり、大きくなると浅く3~5 裂します。葉の両面や茎などには短毛が密生して、触れるとややざらついた感触があります。地下には紡錘形の塊茎(芋)があります。花期は7~8 月で、日没頃に開花し、翌朝にはしぼむ夜間のみの花です。本種は雌雄異株で、雄花・雌花とも6cm ほどの萼筒があり、その先に5 裂した花弁のふちがさらにレース状に細かく裂けた形状の花が咲きます。レース部分まで含めると直径10cm ほどで、雄花は3 つの葯がS 字状に屈曲してひとかたまりになっており、葉腋に1 花ずつつ咲くか、数花ずつの花序をつくって咲きます。雌花は先端が3 裂した柱頭があり、普通は葉腋に1 花ずつ咲きますが、まれに花序をつくって咲くこともあります。

雌花の柱頭は3 裂する。雌花は萼筒の基部に楕円形の子房があり、しぼんだ後も雄花のように脱落しない。 花は夜明け頃にはレース部分を丸めこむように閉じる。写真は雄花の花序で、未開花の蕾がみえる。
▲雌花の柱頭は3 裂する。雌花は萼筒の基部に楕円形の子房があり、しぼんだ後も雄花のように脱落しない。 ▲花は夜明け頃にはレース部分を丸めこむように閉じる。写真は雄花の花序で、未開花の蕾がみえる。

 

本種は同じ時期に咲くワスレグサ(ススキノキ)科のユウスゲなどとならび、夏の夜に開花する花の代表として紹介されることが多い植物ですが、ユウスゲが曇りの日や午後に夕立があって気温が下がった場合などには比較的早い時間から咲き始めることがあるのに対し、本種は天候による気温や光量の変化程度では、あまり影響を受けないようで、手元が見え難いぐらい暗くなってからでないと開花しません。明け方、明るくなってくると細かく裂けた花弁を上手に丸め込むようにしぼみ、開花の時とは逆の面白さがあります。雄花はしぼんだ後、その日の日中にも萼筒の基部から脱落しますが、雌花の萼筒は脱落せず、子房についたまま枯れ残ります。雌株には長さ5~7cm程度の俵型の果実が実ります。果実は未熟な時期にはスイカやカボチャを思わせる縞模様がありますが、熟すにしたがい縞模様は消失し、晩秋の頃には鮮やかな朱色に色づきます。なお、果肉は熟しても非常に苦く、食用にはなりません。種子は中央に帯がある独特な形状をしており、「結び文」を思わせるということで、手紙を意味する「タマズサ(玉章)」との別名があります。他にもカマキリの頭部だとか、「打ち出の小槌」形なので、財布の中に入れておくと金運が上向くとも言われます。

地下には紡錘形の塊茎がある。冬にこれを掘り上げて乾燥させたものを果実と共に生薬として利用する。 若い果実にはスイカやカボチャを思わせる縞模様があるが、熟すと消失する。
▲地下には紡錘形の塊茎がある。冬にこれを掘り上げて乾燥させたものを果実と共に生薬として利用する。 ▲若い果実にはスイカやカボチャを思わせる縞模様があるが、熟すと消失する。

 

カラスウリの和名は、普通は「烏瓜」と表記し、カラスが好んで食べるためとか、マメ科のカラスノエンドウとスズメノエンドウの関係のように、小さな白い実のなるスズメウリというウリ科の別種と比べて実が大きいので、大きさの違いを表したものと言われます。また、果実の色や形が平安時代に中国(唐)から輸入された染料の「朱」の鉱石(辰砂)を練って固めたものに似ていたので、「唐朱瓜」と呼ばれたとの説もありますが、朱(辰砂)は「魏志倭人伝」に日本で産することが記述されるなど、もともと日本にも産する鉱物であり、中国から輸入されるようになるのは、戦国時代ごろになってからとされます。万葉集などには本種の名は登場しませんが、平安時代に著された「本草和名」には「加良須宇利」と万葉仮名で記載されており、戦国時代より前には、すでにカラスウリと呼ばれていたようです。平安時代にもわずかに「朱」が輸入されていた可能性もあり、結論づけるには至りませんが、「唐の朱」説はやや根拠に乏しいようです。しかしながら、秋に色づいた朱色の果実を見ると、「唐の朱」も捨てがたい気がします。

なお、果実・種子・塊茎ともに生薬として利用され、熟した果実を干したものは「土瓜実(どかじつ)」、冬に掘り上げて輪切りにして干した塊茎は「王瓜根(おうかこん)/土瓜根(どかこん)」、種子は「王瓜子(おうかし)」と呼ばれて、煎じたものは利尿や催乳の薬効があるとされます。また、生の果実の果肉を酒で練ったものは、しもやけやあかぎれの塗布薬とされます。

(2020.7.23 改訂)

晩秋、雌株についた果実は朱色に色づく。この果実の色や形より「唐の朱」が和名の由来という説もあるが…? 種子は中央部に帯がある独特な形状。結び文、カマキリの頭部、打ち出の小槌など、様々に例えられる。
▲晩秋、雌株についた果実は朱色に色づく。この果実の色や形より「唐の朱」が和名の由来という説もあるが…? ▲種子は中央部に帯がある独特な形状。結び文、カマキリの頭部、打ち出の小槌など、様々に例えられる。

 

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