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おかやまの植物事典

コブシ (モクレン科) Magnolia kobus

3~4月頃、直径7~10cmの花を葉の展葉に先立って咲かせる。花中央の黄色部が雄しべ、緑色部が雌しべ。 開花時には花の下に1枚の小型の葉がつくことがタムシバとの区別点だが、無いことも多く、慎重な観察が必要。
▲3~4月頃、直径7~10cmの花を葉の展葉に先立って咲かせる。花中央の黄色部が雄しべ、緑色部が雌しべ。 ▲開花時には花の下に1枚の小型の葉がつくことがタムシバとの区別点だが、無いことも多く、慎重な観察が必要。

 

コブシは北海道から九州にかけての山地に生育する、高さ15m以上になる落葉高木です。地域によっては比較的標高の低い場所にも生育するとされますが、岡山県下においては、県南部の平野部では植栽品をのぞいてほとんど見られず、自然分布は中部以北、主に北部の中国山地で見られます。花がよく似ている同属のタムシバ M. salicifolia も県全域に分布しており、花期もほぼ同時期のため、よく間違えられるようですが、コブシが谷部など比較的水分条件の良い場所を好むのに対し、タムシバはやや乾燥気味で日当たりが良い尾根部のような場所に生育することが多いため、春、山地の目につきやすい場所で咲いている「コブシ」と思っている白い花の樹木は実はタムシバの可能性が高いかもしれません。

花は3~4月、葉の展葉に先立って直径7~10cmの白色の花を咲かせます。花被片(花びら)は6枚、萼片も白色で花被片のような質感ですが、小型で細く、花被片に隠れて目立ちません。雌しべは緑色で花の中央にあり、多数が集まって棍棒状、雄しべは雌しべの周りに多数あって黄白色~黄赤色をしています。花の下部には長さ3cmほどの小さな葉がついていることが多く、花期には小型の葉がつかないタムシバとの区別点となりますが、すべての花に必ずついているわけではなく、また相当近くに行かないと葉があることが見えないので、観察には双眼鏡などを使用して、慎重に観察することが必要です。

果実は集合果で、充実した種子が入った果実の部分だけ膨らむため、凸凹としたいびつな形状となる。 種子は光沢のある赤色。種子は白色の糸状の珠柄で果実とつながっており、ゆっくり引っ張ると長く伸びる。
▲果実は集合果で、充実した種子が入った果実の部分だけ膨らむため、凸凹としたいびつな形状となる。 ▲種子は光沢のある赤色。種子は白色の糸状の珠柄で果実とつながっており、ゆっくり引っ張ると長く伸びる。

 

果実は小さな果実(袋果)が集まった集合果で、花後には花床が肥大し、屈曲した形状となりますが、多数ある雌しべのうち、充実した種子を形成するのは一部であるため、充実した種子が入った部分のみが膨らみ、凸凹としたいびつな形状となります。果実は10月頃、赤く熟して裂開し、内部から光沢のある直径1cm程度の赤色の種子が出てきます。種子は白い糸状の珠柄で果実とつながっており、種子をゆっくりと引っ張ると長く伸びます。これは、果実から種子がすぐに落下しないようにすることで、鳥に種子を食べてもらいやすくしている…という説がありますが、実際には集合果ごと落下していることも多く、どの程度効果があるのかはよく分かっていないようです。種子の赤色の部分は肉質の種皮で、内部には硬い黒色の種子が入っています。また、赤色の種皮部分には、特に精油成分を多く含み、葉などよりも強い香りがあります。

また、花芽は前年の秋、落葉の頃には既に形成されており、光沢のある褐色の軟毛の生えた芽鱗(托葉と葉柄が合着したもの)に覆われています。もっとも外側の2枚ほどの芽鱗は冬の初めの早い時期に脱落してしまいますが、内部から現れる花芽はやはり同様の芽鱗で覆われています。

種子の赤色の部分は肉質の種皮で、内部には黒色の種子入っている。赤色の種皮部分には強い香りがある。 冬芽は光沢のある褐色の軟毛のある芽鱗に覆われている。もっとも外側の芽鱗は初冬の頃に脱落する。
▲種子の赤色の部分は肉質の種皮で、内部には黒色の種子入っている。赤色の種皮部分には強い香りがある。 ▲冬芽は光沢のある褐色の軟毛のある芽鱗に覆われている。もっとも外側の芽鱗は初冬の頃に脱落する。

 

葉は互生、長さ6~15cm、幅3~6cmの倒卵形~広倒卵形で全縁、精油成分を含んでおり、葉を揉むとスーッとした芳香があります。花期にはよく間違えられるタムシバの葉は披針形~卵状披針形で本種の葉よりも幅が細く、厚みも薄いため、展葉後であれば、まず見間違えることはまずないでしょう。

和名はいびつな形となる集合果を人の「握りこぶし」に例えたものとされます。ときに花芽や蕾を子供の「こぶし」に例えたのだ、と解説されていることがありますが、果実と蕾、どちらが「こぶし」に似ているかは一目瞭然と思います。漢字で表記する場合は「辛夷(しんい)」と書きますが、この字は本来は中国での生薬名で、厳密には、中国に自生するシモクレン M. liliiflora を指す(加納善光 著.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.413)とされますが、生薬としては日本では主にタムシバの蕾が「辛夷」として多く流通しているようです(指田豊・木原浩 著.2013.身近な薬用植物 あの薬はこの植物から採れる.平凡社.p.12-13)

当園では温室エリアに数本植栽しており、特に入口わきに植栽している木は、大きくありませんが、春には花で、夏には涼しい木陰をつくって、来園者を迎えてくれています。

(2020.3.27)

葉は互生、長さ6~15cm、幅3~6cmの倒卵形~広倒卵形で全縁。葉を揉むと爽やかな芳香がする。 同属のタムシバ。花期には判別がしにくいが、葉は披針形で細い形状のため、まず見間違えることはないだろう。
▲葉は互生、長さ6~15cm、幅3~6cmの倒卵形~広倒卵形で全縁。葉を揉むと爽やかな芳香がする。 ▲同属のタムシバ。花期には判別がしにくいが、葉は披針形で細い形状のため、まず見間違えることはないだろう。

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