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おかやまの植物事典

クコ (ナス科) Lycium chinense

日本全国の日当たりの良い藪のような場所に生育する植物だが、中国原産の古い帰化植物ともされる。 茎(幹)は細く、太くなっても径1.5cm程度。低い稜があり、太い茎には縦方向の皮目がある。
▲日本全国の日当たりの良い藪のような場所に生育する植物だが、中国原産の古い帰化植物ともされる。 ▲茎(幹)は細く、太くなっても径1.5cm程度。低い稜があり、太い茎には縦方向の皮目がある。

 

クコは日本全国の河川敷や林縁、海岸付近などの、日当たりのよい藪のような場所に生育する、高さ1~2mほどの落葉低木です。国外では朝鮮半島、台湾、中国からネパール、パキスタンなどに分布するとされます(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物5.平凡社.p.37)。在来植物として扱われることもありますが、平安時代頃よりたびたび持ち込まれたものが逃げ出して広がった、中国原産の帰化植物ともされます(太刀掛優・中村慎吾 編.2007.改訂増補 帰化植物便覧.比婆科学教育委員会.p.323)

茎(幹)は株元で分枝して斜上(斜めに立ち上がる形)して長さ2m程度にも伸長しますが、太さは根元付近でも1.5cm程度です。茎には低い稜があり、比較的太い茎には縦方向の皮目があります。葉は互生、質は柔らかく、長さ1.5~6cm程度の長楕円形~楕円形で、葉先はやや丸いか、少しとがる程度、葉の基部はなだらかに葉柄に流れるような形となり、葉柄はしばしば紫色を帯びます。葉の表裏を含めて全体無毛で、たいていの場合、様々な大きさ、形状の葉が、ごく短い短枝の先にまとまるように着いています。また、葉腋や枝先には長さ1~2cm程度の鋭い刺があります。

葉はごく短い短枝の先に、様々な大きさ、形状の葉がまとまって付く。葉腋や枝先には鋭い刺がある。 葉裏の様子。葉先はやや丸いか、ややとがる。葉の基部は葉柄に流れる。葉の表裏を含めて全体無毛。
▲葉はごく短い短枝の先に、様々な大きさ、形状の葉がまとまって付く。葉腋や枝先には鋭い刺がある。 ▲葉裏の様子。葉先はやや丸いか、ややとがる。葉の基部は葉柄に流れる。葉の表裏を含めて全体無毛。

 

花は直径1~1.5cm程度の淡紫色~紫色の先が5裂したラッパ形をしており、葉腋に数個が付きますが、花期は7~11月と比較的長く、秋頃には赤く熟した果実と花を同時に見ることができます。果実は長さ1~1.5cm程度の楕円形の液果で、夏の終わり頃から初冬にかけて赤く熟し、食べることができます。質感は同じナス科の(ミニ)トマトのようでもありますが、本種の熟した果実にはほんのりとした甘みがあります。果実の中には直径2.5mm程度のやや歪んだ円形かつ扁平な形状をした淡褐色の種子が多数入っています。

花は淡紫色~紫色で、先が5裂したラッパ形。葉腋に数個付く。花期は長く、7~11月にかけて咲き続ける。 果実は長さ1~1.5cmの楕円形で晩夏から初冬にかけて赤く熟し、ほのかな甘みがあって食べられる。
▲花は淡紫色~紫色で、先が5裂したラッパ形。葉腋に数個付く。花期は長く、7~11月にかけて咲き続ける。 ▲果実は長さ1~1.5cmの楕円形で晩夏から初冬にかけて赤く熟し、ほのかな甘みがあって食べられる。


本種の根の皮を「地骨皮(じこつぴ)」、乾燥させた果実は「枸杞子(くこし)」、葉は「枸杞葉(くこよう)」と呼び、それぞれ疲労回復・強壮などの効果のある生薬として用いられます。特に「枸杞子」は中華料理や薬膳料理ではよく使われます。杏仁豆腐の上にのせられている、赤いドライフルーツのようなものが「枸杞子」ですが、クコの木そのものを見たことがない方でも、ご存知なのではないでしょうか。また、若葉は山菜としても利用され、若葉を混ぜたご飯は「クコ飯」と呼ばれます。

果実の中には、直径2.5mm程度のやや歪んだ円形かつ扁平な形状をした淡褐色の種子が多数入っている。 果実を乾燥させたもの。「枸杞子」の名で生薬とされるほか、杏仁豆腐など中華料理にもよく使われる。
▲果実の中には、直径2.5mm程度のやや歪んだ円形かつ扁平な形状をした淡褐色の種子が多数入っている。 ▲果実を乾燥させたもの。「枸杞子」の名で生薬とされるほか、杏仁豆腐など中華料理にもよく使われる。


和名は漢字の「枸杞」をそのまま音読みしたものです。中国語の発音では「gou qi (ゴー・チー)」となり、英名の「ゴジベリー」はこの中国語の発音に由来するものと考えられます。漢字の「枸」は刺のある植物に関する語に用いられる字であり、「杞」は伏せたものが次第に起き上がるイメージがある「己」に「木」を組み合わせた字で、茎から枝が立ち上がるように生え出る木を暗示させた(加納善光.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.39)とされます。古くから利用されている植物にも関わらず、クコの名は、古事記や万葉集には登場せず、西暦900年頃(平安時代)の漢和辞書「新撰字鏡」が初出とされます(磯野直秀.2009.資料別・草木名初見リスト.慶応義塾大学日吉紀要・自然科学.No.45:p.69-94)。同じく平安時代の「本草和名」には「奴美久須祢(ぬみくすり)」の和名が書かれていますが、「ぬみ=要」で「重要な」という意味があることから、「重要な薬」を意味する名だと考えられ、平安時代にも生薬として重要であっただろうことがうかがえます。

当園では、湿地エリアのフェンス沿いに数株が生育しており、毎年秋頃には多数の赤い実をつけている様子を見ることができます。苗木を購入したり、採集してきて植栽したような記録はなく、植物園の整備前から自生していたか、鳥などが種子を運んできたものが芽生えたものと考えています。

(2021.12.5)

 

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