トップページ


重井薬用植物園の見学は予約制です。

見学をご希望の方 こちらをクリック



お問い合わせ

重井薬用植物園
岡山県倉敷市浅原20
TEL:086-423-2396
FAX:086-697-5865
E-mail:shigeihg@shigei.or.jp

 

おかやまの植物事典

クスノキ(クスノキ科) Cinnamomum camphora

植物園・湿地エリアのクスノキ(写真中央)。 樹高20mほどで、当園のシンボルツリーとなっている。 花は5~6月頃、円錐状の花序に直径3mmほどの黄緑色の花が咲く。 葉は基部から伸びる3行脈が目立つ。
▲植物園・湿地エリアのクスノキ(写真中央)。 樹高20mほどで、当園のシンボルツリーとなっている。 ▲花は5~6月頃、円錐状の花序に直径3mmほどの黄緑色の花が咲く。 葉は基部から伸びる3行脈が目立つ。

 

クスノキは、本州、四国、九州、琉球にかけての暖地に生育する常緑高木ですが、「九州以北のものは野生かどうかはわからない。」(大橋広好・門田裕一ほか編.2015.改訂新版 日本の野生植物1.平凡社.p.80)とされています。 ただし、幹などから新たな芽(萌芽・シュート)が出る「萌芽性」が強く、強度の剪定によく耐えること、さらに病害虫がつきにくいため、街路樹や公園、学校の校庭などに植栽されることが多く、全国各地の街中でごく普通に見られる身近な樹木となっています。 成長すると高さ20m以上、幹の直径は5m以上になることもあり、各地の社寺の境内などに生育あるいは植栽され巨樹となったものが神木とされたり、天然記念物や文化財等として大切にされている例がよくみられます。 岡山県においても、南~中部に分布していますが、分布は南部に偏っており、北部の中国山地などにはみられません。 なお、当園のある岡山県倉敷市では本種が市木とされています。

葉は枝に互生し、長さ5~12cm、幅3~6cmの卵形~楕円形、やや革質で両面無毛、葉の縁はやや波打っています。 葉の表面は緑色で光沢があり、裏面は黄緑色~灰白色を帯びています。また、主脈と主脈の基部付近から伸びる2本の側脈の3行脈が目立ちます。 葉裏の葉脈の腋には小孔があり、ダニ室(domatium/domatia) と呼ばれます。 ダニに棲み処を提供することで、ある種の共生関係を結んでいるとされますが、その共生の仕組みについてはかなり複雑で分かっていない部分が多く、現在も研究が進められています。

葉の裏は黄緑色または灰白色を帯びる。 脈腋には小孔(ダニ室)があるが、機能については不明なことが多い。 果実は液果、直径8mmほどで、10~11月に光沢がある黒紫色に熟す。
▲葉の裏は黄緑色または灰白色を帯びる。 脈腋には小孔(ダニ室)があるが、機能については不明なことが多い。 ▲果実は液果、直径8mmほどで、10~11月に光沢がある黒紫色に熟す。


花は5~6月頃、新葉の葉腋に円錐状の花序をつけ、直径3mmほどの小さな黄緑色の花を咲かせます。花被は筒型で先は6裂しています。 開花に先立ち、4月頃には新葉の展開にともなって古い葉が落葉し、花期には古い葉は大部分落葉して新葉ばかりとなっていますが、この時期には新葉の緑が濃くなっておらず、花序や花被と似た色あいのため、花が満開になっていても花盛りであることに気づかない方も割合多くおられるようです。 果実は液果で直径8mmほどの球形、10~11月頃に光沢がある黒紫色に熟します。 果実の内部はほとんどが種子で占められており、果肉の部分はわずかです。 種子は黒色で硬く、球形ですが、周囲に少し隆起した部分があり、まるで調理用のボウルを2つあわせたような形状をしています。

果実は液果だが、内部はほとんど種子で占められている。 種子は黒色でボウルを2つあわせたような球形。 樹皮は灰白色、短冊状に縦に裂ける。 大木となり、材は腐りにくいため、古くから建築材や船舶材とされた。
▲果実は液果だが、内部はほとんど種子で占められている。 種子は黒色でボウルを2つあわせたような球形。 ▲樹皮は灰白色、短冊状に縦に裂ける。 大木となり、材は腐りにくいため、古くから建築材や船舶材とされた。

 

樹皮は灰白~帯黄褐色で、短冊状に縦方向に裂けています。 材には葉や枝などと共に芳香(樟香)があります。 この匂いは本種に含まれる樟脳(しょうのう)という精油成分によるものです。 樹皮や材を水蒸気蒸留すると樟脳の白色の結晶が得られますが、伝統的に衣服の防虫材や香料、または汲み取り式便所の臭い消し、殺虫剤(ウジ殺し)などとして利用されてきました。 また、樟脳は英語で「camphor(カンファー)」、オランダ語では「kamfer(カンフル)」といい、「景気のカンフル剤として・・・」などという時の 「カンフル剤」とは、樟脳がかつて強心剤として用いられたことに由来します。 ただし、樟脳には毒性があり、大人でも2~3g程度を経口摂取すると中毒を引き起こしますので取扱いには注意が必要です。 また、材は腐りにくく耐水性もあるため、建築材、船舶材、家具材などとして古来より利用されてきました。 古事記には、イザナギノ命とイザナミノ命の間に生まれた神の一柱として「鳥之石楠船神(とりのいはくすぶねのかみ)」(別名:天鳥船神(あまのとりふねのかみ))という神様が登場するほか、スサノオノ命がスギとクスノキを「浮寶(うくたから)」 =舟とせよ、と指示する場面もあり、古代においては、本種自体が神格化されたり、宝と呼ばれるほど重要な樹木として考えられていたことがうかがえます。

和名の「くす」の由来には、神秘的であることをさす「奇(くす)し」から「奇木(くすしき)」とされた、あるいは臭いがあることから「臭木(くさのき)」など、諸説あります。 また、本種を表す漢字には「樟」と「楠」の2つがありますが、中国では本種を含めたクスノキ属を指す漢字は「樟」のほうで、「楠」はクスノキ科の別属 Phoebe (タイワンイヌグス)属の樹木を指すそうです。 この理由としては「日本の古辞書が楠をクスノキとしたのは中国側の文献の読み違いか、あるいは、クスノキが比較的南の暖かい土地に生えるので、(日本において)南に木偏をつけて創作したかのいずれかであろう」(加納善光.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.96)とされています。

(2023.2.19)

樟脳の白色結晶(右)。徐々に揮発し、防虫効果が得られる。通常は左のように紙や布に包んだ状態で使用。 「日本山海名物図会」(1754年)に描かれた「樟脳製法」。 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/ )
▲樟脳の白色結晶(右)。徐々に揮発し、防虫効果が得られる。通常は左のように紙や布に包んだ状態で使用。 ▲「日本山海名物図会」(1754年)に描かれた「樟脳製法」。 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/

▲このページの先頭へ