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おかやまの植物事典

マンリョウ (サクラソウ科) Ardisia crenata

おもに常緑林内に生育する小低木だが、比較的明るい林内にも出現する。茎は下部ではあまり分枝しない。 葉は長さ7~15cm程度の長楕円形、独特の形の波状の鋸歯がある。葉表はやや光沢があり濃緑色。
▲おもに常緑林内に生育する小低木だが、比較的明るい林内にも出現する。茎は下部ではあまり分枝しない。 ▲葉は長さ7~15cm程度の長楕円形、独特の形の波状の鋸歯がある。葉表はやや光沢があり濃緑色。

 

マンリョウは関東地方以西の本州、四国、九州から沖縄にかけての、おもに常緑林内に生育する常緑の小低木です。耐陰性の強い樹木ですが、やや明るい環境の方が花や実付きは良いようです。国外では朝鮮半島、中国、台湾、東南アジア、インドに分布します。岡山県下では、おもに県中部から南部の比較的暖かい地域に分布しています。本種やヤブコウジ A. japonica などヤブコウジ属の植物は、旧来の分類体系ではヤブコウジ科とされていましたが、近年主流となっているAPG分類体系では、サクラソウ科に含められています。

高さは30~100cm程度、茎(幹)は下部ではあまり分枝せず、上部でいくつかの枝に分枝します。太さは0.8~1cm程度、樹皮は灰白~灰褐色、ときにやや光沢があります。葉は茎の上部の枝に互生し、長さ7~15cm、幅2~4cmの長楕円形で両面無毛、葉表は少し光沢があって濃緑色、葉裏は光沢はなく、粉白を帯びて緑色あるいは紫~赤紫色、葉縁には波状の鋸歯があり、鋸歯の間の凹んだ部分には内腺点(腺が露出せず組織内にある)があります。また、葉の表面をルーペでみると、褐色の小点が全体に、やや大きな黒点がまばらにある様子が観察されます。大きな黒点は葉裏からも観察できます。図鑑では、「明点」と「黒褐色の細点」(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物4.平凡社.p.190)と解説されています。

葉裏はやや粉白を帯びる。緑色の場合が多いが、写真のように紫~赤紫色になる個体もめずらしくない。 褐色の小点が全体に、やや大きな黒点がまばらにある。鋸歯の間の黒くなっている部分に腺点がある。
▲葉裏はやや粉白を帯びる。緑色の場合が多いが、写真のように紫~赤紫色になる個体もめずらしくない。 ▲褐色の小点が全体に、やや大きな黒点がまばらにある。鋸歯の間の黒くなっている部分に腺点がある。

 

花は7~8月、幹上部の枝先の散形~散房状の花序に、直径8mm程度の白色の花を咲かせます。花冠は5深裂して裂片はやや反り返ります。花冠および雄しべの葯(やく)には赤褐~黒褐色の細点があり、特に葯の黄色に黒い点のある様子は目立ちます。果実は直径6~8mmの球形で、晩秋に鮮やかな赤色に熟します。果実は光沢があって美しく、サクランボのようで美味しそうに見えますが、残念ながら赤色の外果皮の内部は果肉(中果皮)の部分はほとんどなく、ほぼ核(種子のように見える内果皮の変化したもの、本当の種子は内部にある)で占められています。核はやや扁平な球形で淡黄色、縦に白っぽい筋が走っており、小さな玉ねぎのような印象です。果実はおもに野鳥に食べられて散布されますが、食べられる部分がほとんどないためか、鳥にとってもあまり積極的に食べたい果実ではないようで、春先まで長く残っています。

花は7~8月頃に咲く。黄色で黒褐色の点がある部分が雄しべの葯、その中心から伸びた糸状のものが雌しべ。 果実は直径6~8mmの球形、晩秋に鮮やかな赤色に熟す。光沢があり美しいため、庭などに植栽される。
▲花は7~8月頃に咲く。黄色で黒褐色の点がある部分が雄しべの葯、その中心から伸びた糸状のものが雌しべ。 ▲果実は直径6~8mmの球形、晩秋に鮮やかな赤色に熟す。光沢があり美しいため、庭などに植栽される。

 

和名は「万両」で、同属のカラタチバナ A. crispa の中国名が「百両金」ということから、冬に赤い実をつける常緑低木の中でカラタチバナよりも実付きが良く美しいものについて、より値打ちがあるという意味でセンリョウ科のセンリョウ Sarcandra glabraを「千両」、本種を「万両」としたものとされます。ただしマンリョウの名は万葉集などには登場せず、文献史料における初出は江戸時代後期の1780年頃に発行された「本草鏡」とされます(磯野直秀.2009.資料別・草木名初見リスト.慶応義塾大学日吉紀要・自然科学.No.45:p.69-94)。それ以前には、中国名(生薬名)の「朱砂根(すさこん)」、または「あかぎ(赤木)」と呼ばれており、「まんりょう」の名が定着したのは、園芸植物として盛んに栽培され、多くの園芸品種も作られた江戸時代後期以降のようです。現在でも、名が縁起が良く実も美しい植物ということで、庭園に植栽されたり、カラタチバナ、センリョウなどと共に正月の寄せ植えなどに使用され、園芸店では、シロミノマンリョウ(白実の万両) f. leucocarpa や、キミノマンリョウ(黄実の万両) f. xanthocarpa といった園芸種が販売されています。

なお、属名の Ardisia は、雄しべの葯が3角形をしていることから「槍先」を意味するギリシャ語 ardis に由来します(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.27)。種小名 crenata は「円い鋸歯」を意味し、本種の葉の特徴的な鋸歯の形状を示しています。

(2022.1.16)

果実は美味しそうだが、内部はほぼ核で、果肉はほとんどない。核は淡黄色で白い筋があり、玉ねぎのよう。 葉形や果実の色が変化した多数の園芸品種がある。写真はシロミノマンリョウ f. leucocarpa の「大実」タイプ。
▲果実は美味しそうだが、内部はほぼ核で、果肉はほとんどない。核は淡黄色で白い筋があり、玉ねぎのよう。 ▲葉形や果実の色が変化した多数の園芸品種がある。写真はシロミノマンリョウf. leucocarpa の「大実」タイプ。

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