トップページ


重井薬用植物園の見学は予約制です。

見学をご希望の方 こちらをクリック



お問い合わせ

重井薬用植物園
岡山県倉敷市浅原20
TEL:086-423-2396
FAX:086-697-5865
E-mail:shigeihg@shigei.or.jp

 

おかやまの植物事典

ミゾソバ (タデ科) Persicaria thunbergii var. thunbergii

湿地では貧栄養な環境(写真中央奥)ではあまり生育せず、やや富栄養な環境に生育することが多い(写真手前)。 花は7~11月にかけて茎頂部の細長い穂に咲く。雌性先熟で、写真右側が雌性期、左側が雄性期終盤の穂。
▲全国の水辺など湿地に生育する一年草。茎の下部は地面をはうように広がり、節から根を出して群生する。 ▲花はふつう秋に咲き、10数花が密集して付く。花被はがく片が変化したもので、裂片の先は紅紫色を帯びる。

 

ミゾソバは、北海道から九州にかけての水辺や湿地など、湿った場所に生育する高さ30~100cmほどの一年草です。 国外では朝鮮半島・中国・ウスリー・アムール・サハリンに分布する(大橋広好・門田裕一ほか編.2017.改訂新版 日本の野生植物4.平凡社.p.93)とされます。 岡山県においてもほぼ全域に分布しており、降水量の多い県北部の中国山地、中部の吉備高原地域はもちろん、少雨乾燥気味の気候の県南部であっても、田のあぜや用水路の泥が溜まっているような場所、ため池の岸など常に湿っている場所であれば、ごくふつうにみられる植物です。 ただ、定期的な攪乱がある生育に適しているようで、長期間、攪乱がない状況では徐々に生育量が減少します。

花は7~10月頃とされますが、岡山県では県北部では9月頃、県南部では10月頃、秋の訪れとともに花が目立つようになります。 花は茎の先端あるいは上部の葉腋から出た枝の先に、10数花が密集して付き、花序の柄の上部には多数の腺毛が生えています。 一つの花は直径6~8mm程度で、花被は5裂して長さ4~7mm、花被片の下部は白色、先端はふつう紅紫色を帯びていますが、集団や個体によって花被片の色いは濃淡があり、紅色と言ってよいほど濃いものもあれば、ほぼ白色のもの(品種 シロバナミゾソバ f. viridialba とされることもある)もあります。 ちなみに本種を含めてタデ科の「花被」は「花弁(花びら)」ではなく、がく片が変化したもので、花弁はありません。 ときに地中に伸ばした枝の先に閉鎖花をつけることもあります。 花後にできる果実は痩果(そう)果で、花被片に包まれており、長さ3~4mm程度の3稜のある卵形をしています。 イヌタデなど同属の植物の痩果の多くが、黒色で光沢がありますが、本種の果実は褐色で光沢はありません。

花序は1本の穂に見えるが、実際には2本の穂(総)が密着した状態。写真は手で穂を開いたところ。 穂は長柄小穂と短柄小穂が対となったものが連なっている。痩果が熟すと節からばらばらになって散布される。
▲花序の柄の上部には多数の腺毛が生えている。 ▲痩果は花被に包まれ、3稜のある卵形。黒色で光沢があるイヌタデなどの痩果とは違い、光沢はなく、褐色。


葉は長さ1~15cm、幅1~10cmほどの先のとがった卵状ほこ形で、ふつう、葉の基部が耳状に大きく張り出した形となりますが、葉の形状は変異が大きく、耳状の張り出しの程度も様々です。 茎は直立することもありますが、大抵の場合、茎の下部は地面をはうような形となり、節から発根して広がることで、しばしば大きな集団をつくって群生します。 葉裏の主脈と茎には、ふつう下向きの刺毛が生えています。 刺毛は非常に小さいため、手に刺さるようなことはありませんが、素肌に擦れると多少の痛みを感じたり、小さなミミズ腫れのようになる場合があります。 葉や花序の枝の付け根には長さ5~8mm程度の筒状の托葉鞘(たくようしょう)があり、托葉鞘の先の縁には毛が生えています。 また、托葉鞘はしばしば上部が葉状に広がった形となりますが、この場合、広がった部分は全縁または波状で、やはり縁に毛が生えています。

稈の節は無毛。海岸の砂浜に生えるケカモノハシは稈の節に長毛があり、小穂にも毛が多い。 葉身と葉鞘の間には3~4mmの葉舌がある。葉鞘は普通無毛とされるが、当園では長毛があるものが多い。
▲葉は長さ1~15cm、幅1~10cmほどで、基部が耳状に張り出した卵状ほこ形。「ウシノヒタイ」との別名も。 ▲茎にはふつう、下向きの刺毛が生える。葉や枝の付け根には長さ5~8mmの筒状で縁毛がある托葉鞘がある。

 

和名は「溝・蕎麦」で、溝など水気のあるところに生えるソバ(蕎麦)の意味です。 ただし、葉や茎を薬草として利用することはあったようですが(指田豊 監修.2010.増補改訂フィールドベスト図鑑Vol.15 日本の薬草.学研.p.36)、食用になるわけではなく、基部が耳状に張り出した葉の形状から、やはり基部がやや張り出した三角形となる栽培植物のソバ Fagopyrum esculentum の葉を連想したものか、比較的大型で光沢がない本種の痩果を、やはり光沢のない「ソバの実」に例えたものと思われます。 ちなみに葉の形状を牛の額に例えて「ウシノヒタイ」との別名もあります。 そのほかにも、花が密集した花序の様子が「金平糖」に見えることから、「こんぺーとーばな」、カエルがいるような湿った場所に生えるためか「かえるぐさ」、「びっきぐさ」など、様々な地方名がある植物です(八坂書房 編.2001.日本植物方言集成.八坂書房.p.524-525)。 また、中国名は「戟叶蓼」といい、葉の形を刺突用の武器である「戟(げき・ほこ)」に例えた名のようです。

また、属(イヌタデ属)の学名の Persicaria (ペルシカリア)は、現在のイランの古い国名であるペルシアが由来ではありますが、イヌタデ属とペルシアに直接何らかの関係があるわけではなく、イヌタデ属の仲間の葉の形状(披針形の葉を持つ植物が多い)が、モモの葉を思わせるということから、モモを意味するPersica が直接の属名の由来であり、モモのPersicaは「ペルシアの」という意味で、こちらはペルシアに直接由来します(豊国秀夫 編.1987.植物学ラテン語辞典.至文堂.p.149-150)。 種小名の thunbergii はスウェーデンの植物学者、カール・ツンベルク(テューンベリ)に由来します。

 (2022.10.22)

叢生して大株となる。写真は4月上旬に芽吹いたカモノハシの株の様子。 和名は「鴨の嘴」で、2本の穂が密着した花序の様子をカモのクチバシに例えたもの。写真はカルガモ。
▲托葉鞘はしばしば上部が葉状に広がった形状となる。広がった部分は全縁または波状、縁に毛がある。 ▲栽培植物のソバ。基部が耳状に張り出すミゾソバの葉の形が、ソバの三角形の葉を思わせる?

▲このページの先頭へ