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おかやまの植物事典

ナワシログミ (グミ科) Elaeagnus pungens

林縁など明るい場所に生育する。岡山県では海岸近くから比較的内陸部まで分布する普通種である。 花は普通3~6月頃に白色の4弁花を咲かせる。生育環境によっては厳冬期にも開花個体が見られる。
▲林縁など明るい場所に生育する。岡山県では海岸近くから比較的内陸部まで分布する普通種である。 ▲葉の縁は波打ち、裏側へ反り返る。成葉の表面はほぼ無毛で深緑色だが、裏面は汚白色の鱗片に覆われている。

 

ナワシログミは静岡県以西の本州、四国、九州の林縁などの明るい場所に生育する、高さ2~3mになる常緑低木です。Elaeagnus (グミ)属 の植物は、マメ科植物と同様に根に根粒菌を共生させ、窒素固定をすることができるため、肥料分に乏しい、やせた土壌環境でも生育することができ、岡山県では南部の海岸近くから内陸の県中部(吉備高原)にかけてはごく普通に生育しているほか、多くはないものの県北部の山地にも生育しています。国外では中国の東部・南部にも分布します。

葉は互生、革質でかたく、ふつう長さ5~10cm、幅2~6cm程度の楕円形~長楕円形で、葉の縁は強く波打ち、裏面に反り返ります。葉の表面は展葉直後は銀色の鱗片(鱗状毛)がありますが、だんだんと脱落し、成葉になるとほぼ無毛となり、光沢のある深緑色となります。一方、葉の裏面は成葉になっても汚白色~帯黄白色の鱗片に覆われており、さらに褐色の鱗片が散生しています。アキグミ E. umbellata などのように、グミの仲間の葉裏は銀白色の光沢をもつものがありますが、本種の葉裏はほとんど光沢はありません。樹皮は灰褐色で小さな丸い皮目があり、古くなると縦に裂け目が入ります。密に分枝することが多く、枝は数mほども伸長することがあります。若い枝は葉柄とともに、褐色の鱗片に覆われています。小枝はかたく鋭い刺状になることが多いほか、葉腋にもかたく鋭い小さな刺がでます。幹はあまり太くはなりませんが、材は粘り強く折れにくいため、かつては鎌やナタの柄として使われていました。

葉裏の拡大写真。汚白色の鱗片が密生し、褐色の鱗片が散生。他のグミ類のような銀色光沢はほとんどない。 樹皮は灰褐色。小枝は鋭い刺に変化することが多い。写真の株は何度か伐採され、株立ちとなっている。
▲葉裏の拡大写真。汚白色の鱗片が密生し、褐色の鱗片が散生。他のグミ類のような銀色光沢はほとんどない。 ▲樹皮は灰褐色。小枝は鋭い刺に変化することが多い。写真の株は何度か伐採され、株立ちとなっている。

 

花は10~12月頃、当年枝の葉腋に数花がつきます。花は花弁はなく、先が4裂した萼(がく)筒が、まるで花弁のように見えます。花は基部から、褐色の鱗片に覆われた長さ3~6mmの小花柄、子房を包む細い紡錘形の萼筒下部、4稜があって角ばった形の萼筒上部となっており、萼筒外面は、葉裏と同様に白っぽい鱗片に覆われ、さらに褐色の鱗片が散生しています。雄しべは4裂した萼裂片の間の位置に4本があり、花糸はきわめて短く、長さ2mmほどの葯が萼筒内側に直接着いているように見えます。雌しべ(花柱)はまるで傘の持ち手のように曲がっており、柱頭は萼筒の内側に接した状態になっています。また、開花初期には萼筒は帯白色ですが、花の終わり頃になると淡黄色に変化します。果実は長さ1.5cmほどの長楕円形で、4~5月頃に赤く熟します。果実の外面には褐色の鱗片が残り、先端には萼筒上部がしばしば残存します。果実は食べられますが、甘みと同時に渋みもあり、あまり多くは食べる気にはならない味です。

若い枝と葉柄は褐色の鱗片に覆われている。葉腋には硬く鋭い刺が出る。 花は秋。花弁のように見えるのは先が4裂した萼筒。萼筒ははじめ帯白色だが、次第に淡黄色に変化する。
▲若い枝と葉柄は褐色の鱗片に覆われている。葉腋には硬く鋭い刺が出る。 ▲花は秋。花弁のように見えるのは先が4裂した萼筒。萼筒ははじめ帯白色だが、次第に淡黄色に変化する。

 

和名は「苗代(なわしろ)・茱萸(ぐみ)」で、果実が「苗代」をつくる頃に熟して食べられることに由来します。「茱萸」とは本来、中国ではミカン科の樹木であるゴシュユ(呉茱萸) Tetradium ruticarpum のことで、日本では「茱萸」が指す植物を、実の色や実の着き方が似ているグミの仲間と誤認したものであろうとされ、本種の漢名(中国名)は「胡頽子(こたいし)」が本来です(加納善光 著.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.220)。読みの「ぐみ」の由来については、「ぐい=刺」、「み=実」で、「ぐい・み」→「ぐみ」となった、という説が一般的ですが、実に渋みがあることから「えぐい実」が由来であるとか、実を口に含むことから「含玉実(くくたまみ)」→「くくみ」→「くみ」ではないか、といった説(深津正 著.2000.植物和名の語源探究.八坂書房.p.190)など、諸説あります。岡山県には、地域にもよりますが、サルトリイバラやノイバラ類などの鋭い刺を持ったつる植物を「ぐい/○○ぐい」と呼ぶ地域が多くあり、特に本種の実は「ぐいび」と呼ばれます。これは本種が鋭い刺を持つことから、「ぐい・み」が訛った呼び名であろうことは想像に難くなく、やはり「ぐい・み」が「ぐみ」の名の由来であろうと思われます。

(2021.2.14)

雄しべは4裂した萼裂片の間に位置し、花糸はきわめて短い。花柱はまるで傘の持ち手のように曲がっている。 果実は4~5月頃、赤く熟す。外面に褐色鱗片が残る。果実は食べられるが、甘みと同時に渋みもある。
▲雄しべは4裂した萼裂片の間に位置し、花糸はきわめて短い。花柱はまるで傘の持ち手のように曲がっている。 ▲果実は4~5月頃、赤く熟す。外面に褐色鱗片が残る。果実は食べられるが、甘みと同時に渋みもある。

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