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おかやまの植物事典

ネジバナ(ラン科)  Spiranthes sinensis var. amoena

花は5~8月に咲く。花序はらせん状にねじれているが、左右どちらにねじれるかは一定していない。 芝生のように草丈が低く、日当たりがよい草地に生育する。草刈りのタイミングが合えば花茎が群生することも。
▲花は5~8月に咲く。花序はらせん状にねじれているが、左右どちらにねじれるかは一定していない。 ▲芝生のように草丈が低く、日当たりがよい草地に生育する。草刈りのタイミングが合えば花茎が群生することも。

 

ネジバナは日本全国の芝生のように草丈が低く、日当たりの良い草地に生育する多年草です。日本に自然分布するネジバナ属 Spiranthes の植物は、沖縄に分布し花序などに毛がない変種ナンゴクネジバナ var. sinensis や白花や緑花の品種も知られていますが、種としては1種(S. sinensi)のみです。なお、2018年に滋賀県において、白花を咲かせ大型となる北アメリカ原産の外来植物で、販売もされている S. cernua アメリカモジズリの帰化が報告(藤井伸二・川北篤.2018.新帰化植物 Spiranthes cernua アメリカモジズリ(新称)を滋賀県大津市に記録する.植物地理・分類研究66(1): 75-78)されています。

花は5~8月頃、高さ10~40cmの花茎に長さ4~6mmの淡紅色の花が多数咲きますが、花序はらせん状にねじれており、花もらせん状に咲きます。左右どちら向きにねじれるかは決まっておらず、違う向きにねじれた花茎が隣り合って咲くことも珍しくありません。花の唇弁には細かな歯牙(切れ込み)があり、内側にはいぼ状の突起が多数あります。また、花茎や苞、萼片には白い毛が生えています。根生葉は長さ5~20cm、幅0.3~1cmほどの線状倒披針形ですが、しばしば草刈りをされるような草地に生育することが多いため、大きな葉を完全な形で観察することはなかなか難しいかもしれません。また、花茎には数個の鱗片葉が着きます。地下には白色、紡錘状に肥厚した根が数本あります。花期直前までは花茎を出さず、葉が草刈り、あるいは草食動物の摂食によって刈り取られても、根に貯蔵した養分によって速やかに葉を再生することができるため、芝生のような環境であっても、生育することができます。果実は直径4~5mm程度の倒卵状の蒴果(乾燥して裂開する果実)で、1ヶ月~1ヶ月半程度で結実します。種子は多数が詰まっており、1個は長さ0.5mm程度ですが、両端に細長い膜状の付属物があり、種子本体は0.1mm程度です。

花茎などには白色の短毛が生える。花の唇弁のふちには細かい歯牙があり、内側にはいぼ状の突起がある。 葉は長さ5~20cmになるが、頻繁に草刈りをされる草地に生育する場合、このような完全な形の葉は少ない。
▲花茎などには白色の短毛が生える。花の唇弁のふちには細かい歯牙があり、内側にはいぼ状の突起がある。 ▲葉は長さ5~20cmになるが、頻繁に草刈りをされる草地に生育する場合、このような完全な形の葉は少ない。


和名は、「捩花」で、花序あるいは花の咲き方が「捩じれて」いることに由来します。名の由来としては同じなのですが、「ネジ(螺子)のようだから」ではありません。別名「もじずり」という、とされますが、本来「もじずり」とは、現在の福島県の信夫(しのぶ)地方でかつて作られていた「摺り染め」のことで、石の上に置いた絹織物に染料植物を摺りつけることで染め、捩じれたような複雑な模様となることから「捩(もじ)摺り」と呼ばれた…とされます。本種の花序の捩じれている様子がこの模様に似ているので、「もじずり」の別名がある、とされます。しかし、各地の地方名(方言)を収録した書籍(八坂書房編.2001.日本植物方言集成)をみると、「もじずり」の呼び名は木曽地方で収録されているのみで、意外にも方言としては「もじずり」とはあまり呼ばれていないようです。

地下には肥厚した根がある。根に貯蔵した養分により、葉が刈られても速やかに葉を再生することができる。 果実は蒴果。開花から1ヶ月~1ヶ月半ほどで結実し、裂開する。
▲地下には肥厚した根がある。根に貯蔵した養分により、葉が刈られても速やかに葉を再生することができる。 ▲果実は蒴果。開花から1ヶ月~1ヶ月半ほどで結実し、裂開する。

 

百人一首にも入っている古今和歌集の「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに」(河原左大臣)の和歌の「しのぶもぢずり」も、ときに勘違いされている方がおられますが、これは「信夫地方の捩摺り染め」のことで、本種とは直接関係がありません。「もじずり」染めは現在では行われておらず、技法も絶えているとのことですが、2007年に福島県川俣町の「かわまたおりもの展示館」が、地元に残る「文知摺石(綾形石)」を使って復元した布があり、それを見ると、石に擦り付けるという染色法のせいか、濃淡やにじみのある模様となっていて、色使いによっては、本種の花序が群生する草原を思わせる模様にもなるかもしれません。本種の群生する草原をみて「もじずり(染めのよう)」と感じた風流人がかつていたのかもしれません。

植物園内では、6月下旬頃、湿地エリアの観察路沿いで花を咲かせます。生育と草刈りのタイミングが合えば、百株以上の乱れ咲きとなることもあり「しのぶもじずり」染めもかくや、の光景です。 

(2020.6.21 改訂)

種子は両端に細長い膜状の付属物があり、長さ0.5mm程度。種子本体は0.1mm程度と非常に小さい。 復元された「もじずり」染めの絹織物。染料植物は藍と紅花(画像提供:かわまたおりもの展示館(福島県川俣町)
▲種子は両端に細長い膜状の付属物があり、長さ0.5mm程度。種子本体は0.1mm程度と非常に小さい。 ▲復元された「もじずり」染めの絹織物。染料植物は藍と紅花(画像提供:かわまたおりもの展示館(福島県川俣町)

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