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おかやまの植物事典

シンテッポウユリ(タカサゴユリ)(ユリ科) Lilium × formolongo

7~11月頃、茎頂に1~数個の花を咲かせる。実は人為的に交配・作出された雑種が野生化したもの。 花被片は6枚、筒状となった先は強く反り返る。葯は写真のような赤褐色のものと黄色のものがあるようだ。
▲7~11月頃、茎頂に1~数個の花を咲かせる。実は人為的に交配・作出された雑種が野生化したもの。 ▲花被片は6枚、筒状となった先は強く反り返る。葯は写真のような赤褐色のものと黄色のものがあるようだ。

 

シンテッポウユリは、本州、四国、九州の路傍や道路の法面、荒れ地など、日当たりが良い場所に生育する高さ30~150cmほどになる多年草です。かなり高温かつ乾燥する環境でも生育でき、石垣やコンクリートブロック擁壁の間隙に生育する場合もあります。岡山県下では、盛夏から秋頃に道路の法面などでよく見かける白いユリは、ほとんどこれであると考えて良いかもしれません。

花は7~11月頃、茎の頂部の葉のわきに1~数個の花が咲きますが、栽培条件下などで生育が良い場合には10個を超える花が付くこともあります。花は6枚の花被片が筒状となり先が反り返ったユリの花らしい形をしており、長さは15~20cm、径10~20cm程度、花被片の外側の中肋には、赤紫色の線状の斑があるものとないものがあります。2020年現在、倉敷市近辺で見られるものはほとんどが斑がないタイプのようで、斑がある個体もときに見られますが、個体によって濃淡にかなり違いがあります。雄しべの葯についても、個体によって赤褐色のものと黄色のものがあるようです。果実(蒴果)は長さ5~8cm、幅2~4cmで、内部には直径1cm程度で周囲に翼のある薄い種子が大量に詰まっており、晩秋~冬に果実が裂開すると、種子は風によって散布されます。

葉は線形、表裏無毛で長さ10~25cm、幅0.4~1cm、無柄で、生育状態が良いものでは茎下部ほど葉が長く、密に付きます。地下には直径5cmほどになる球形~広卵形の鱗茎(球根)があり、鱗茎の破片などからも栄養繁殖を行いますが、本種は種子の発芽から早ければ半年程度(他のユリの仲間は発芽から数年は必要)で開花するため、分布拡大は種子繁殖による部分が大きいようです。

葉は線形で、表裏無毛、無柄。生育状態が良い個体の場合、茎の下部の葉ほど長く、密に付く。 地下には球形~広卵形の鱗茎がある。左は別の鱗茎を分解した鱗片。鱗片からも繁殖することができる。
▲葉は線形で、表裏無毛、無柄。生育状態が良い個体の場合、茎の下部の葉ほど長く、密に付く。 ▲地下には球形~広卵形の鱗茎がある。左は別の鱗茎を分解した鱗片。鱗片からも繁殖することができる。

 

花被片外面には、線状の赤紫色の斑が見られるものがあるが、濃淡には幅がある。 現在、岡山県南部で見られるものは、この写真のように花被片の外面に線状の紫斑がないタイプがほとんど。
▲花被片外面には、線状の赤紫色の斑が見られるものがあるが、濃淡には幅がある。 ▲現在、岡山県南部で見られるものは、この写真のように花被片の外面に線状の紫斑がないタイプがほとんど。

 

一般には「タカサゴユリ」の別名のほうが知られていますが、「タカサゴユリ」の和名は、台湾に自生する L. formosanum(別名:タイワンユリ)の和名でもあり、「高砂」は台湾を意味します。このタカサゴユリ(タイワンユリ) L. formosanum と、南西諸島・九州南部に自生するテッポウユリ L. longiflorum を人為的に交配して作出された雑種がシンテッポウユリ(新・鉄砲ユリ)で、1928年頃から長野県で作出された((財)自然環境研究センター 編著.2019.最新 日本の外来生物.平凡社.p. 310)ものが野生化したものとされます。しかも、単純な雑種というわけではなく、さらにテッポウユリなどを何度も交配するなど、園芸種として改良を重ねられているようです(樋口幸男.2016.恵泉花の文化史(11):帰化植物としてのシンテッポウユリ.恵泉女学園大学園芸文化研究所報告:園芸文化 12:67 – 72)。そのため、「シンテッポウユリ」とされるものには、いくつかの系統(由来)があるうえ、稔性のある種子を作るため、野生条件下でも交雑を繰り返していると推測されます。さらには本来のタカサゴユリやテッポウユリそのものも、園芸種として流通・栽培されており、特に花被片外面の紫斑の濃いタイプのシンテッポウユリと「本物」のタカサゴユリとは外部形態での区別は非常に難しいようです。シンテッポウユリとは「人為的に交配された雑種(園芸種)を起源とするグループを指す名称」と考えた方が適当かもしれません。

「シンテッポウユリ」は、外来種のタカサゴユリと在来種のテッポウユリの雑種であることから、外来種として扱われており、地域によっては在来種のユリとの交雑が危惧されることから、環境省の「生態系被害防止外来種リスト」においては「その他の総合対策外来種」とされています。岡山県下では、花期が重複するユリの仲間がほとんどないことから、在来種との交雑の恐れは高くないものと思われますが、強健で繁殖力が高く、乾燥した県南地域でも冷涼な県北地域でも生育可能であり、群生することによって自然景観を改変してしまう恐れがあるため、やはり取扱い(自然性の高い地域での栽培、野外への植栽など)には注意が必要と考えられます。

(2020.8.23)

果実は蒴果。内部には翼のある種子が大量に詰まっている。種子は発芽から早ければ半年程度で開花する。 道路法面などにしばしば群生する。外来植物の扱いではあるが、岡山県下ではもっともよく見るユリである。
▲果実は蒴果。内部には翼のある種子が大量に詰まっている。種子は発芽から早ければ半年程度で開花する。 ▲道路法面などにしばしば群生する。外来植物の扱いではあるが、岡山県下ではもっともよく見るユリである。

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