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おかやまの植物事典

ツキミソウ(アカバナ科) Oenothera tetraptera

6~9月頃、日没とともに純白の4弁花を咲かせる。花弁は時間とともに徐々に色づき、朝しぼむ頃には全体が紅変する。 紅変した花。葉の縁は浅~中裂するが、生育初期など状況によってはほぼ全縁となることもある。
▲6~9月頃、日没とともに純白の4弁花を咲かせる。花弁は時間とともに徐々に色づき、朝しぼむ頃には全体が紅変する。 ▲紅変した花。葉の縁は浅~中裂するが、生育初期など状況によってはほぼ全縁となることもある。

 

ツキミソウは北アメリカ南部~メキシコを原産地とするアカバナ科マツヨイグサ属の草本です。6~9月ごろの夜、高さ10~20cmほどの茎の上部に、直径5cm程度の白い4弁の花を咲かせます。本種は江戸時代の弘化4(1847)年に観賞用の栽培植物として渡来したとされます(磯野直秀.2007.明治前園芸植物渡来年表.慶應義塾大学日吉紀要・自然科学42:27-58)。しかしながら開花・結実はするため累代栽培は不可能ではないのですが、日本の気候では株が根腐れなどで枯れてしまう場合が多く、手がかかるため栽培植物としては広まらず、当時の小石川養生所にあった「御薬園」(現在の小石川植物園)などで細々と栽培されるにとどまったようです。原産地域では2年生~多年生のようですが、日本では結実後に枯れてしまうことも多いため、栽培する場合は実質1年生植物として考えた方がよいかもしれません。発芽から開花までの成長はきわめて速く、4月に播種すると当年の6月頃には開花します。

蕾は緑色の萼裂片に包まれた長細い棒状をしており、開花直前のものには赤い筋が目立ちます。赤い筋があるため、赤い花が咲きそうな印象なのですが、日暮れとともに咲く花は純白です。しかし、夜がふけるにつれて花弁はだんだんと紅色を帯び、夜明けごろには紅変してしぼみます。黄色い花が咲く同属のマツヨイグサの仲間もしぼむと紅変しますが、純白の花だったものが朝にはいつの間にか赤くなっている様子は大変不思議なものです。

開花直前の蕾。がくに覆われた状態で、赤い筋が目立つ。 若い果実には8稜があり、茎などとともに短毛が多い。
▲開花直前の蕾。がくに覆われた状態で、赤い筋が目立つ。 ▲若い果実には8稜があり、茎などとともに短毛が多い。

 

植物体の茎や果実(子房)の部分には短毛が多く生えていますが、葉の表面や蕾(萼裂片)は無毛です。茎は栽培条件がよければ高さ50cmほどにもなることがありますが、大抵の場合はそれほど大きくならずに花を咲かせます。花の数も生育状態によってまちまちで、一輪だけ咲いて終わってしまう株もあれば、断続的に5~8花ほど咲かせる株もあります。花後には4つの大きな稜とその間に低い稜の8稜がある卵型の果実ができ、熟してくると上部が裂けて種子が顔をのぞかせます。そのまま種子がこぼれそうな姿なのですが、面白いことに、雨が降ると果実はさらに大きく裂けて平開します。これは雨の水滴の衝撃などによって種子を散布する「雨滴散布」という種子散布様式です。本種は少雨乾燥の地域原産であるため、発芽に必要な水分があるとき=降雨時に種子散布をする工夫であると考えられます。

果実は種子が熟すと上部が裂け、種子が顔をのぞかせる。 果実は雨が降って湿ると、大きく開く。(2004年7月25日 古屋野寛 名誉園長撮影)
▲果実は種子が熟すと上部が裂け、種子が顔をのぞかせる。 ▲果実は雨が降って湿ると、大きく開く。(2004年7月25日 古屋野寛 名誉園長撮影)

 

なお、「ツキミソウ(月見草)」と呼ばれている植物には、マツヨイグサ、オオマツヨイグサ、メマツヨイグサなどの黄色い花を咲かせる仲間もあります。これらはやはり南北アメリカ大陸を原産地とする本種と同属の外来植物で、ツキミソウより数年遅れて嘉永4(1851)年にやはり鑑賞用の園芸植物として渡来しましたが、日本の気候にも適応して旺盛な繁殖力を発揮し、現在では日本国中に野生化しています。1939(昭和14)年に発表された太宰治の作品「富嶽百景」には「黄金色の月見草の花ひとつ…(中略)…富士には月見草がよく似合ふ」と書かれており、この「月見草」は「黄金色」ですから、オオマツヨイグサかマツヨイグサであろうと考えられています。先に渡来したのは白い花の「ツキミソウ」ですので、先にツキミソウの名で呼ばれていた植物は、本種の方であったはずなのですが、ほぼ同時期の渡来でもあり、当時は和名が混乱して、白花のものも黄花のものも含めて「ツキミソウ/マツヨイグサ/ヨイマチグサ」と複数の名で呼ばれていたようです(磯野直秀.2007.『新渡花葉図譜』:幕末渡来植物の一資料.参考書誌研究67:1-16)。そのうち、栽培種として普及しなかった本種は忘れられてしまい、「ツキミソウ」の名は、国内での定着に成功し、身近に見られるようになったマツヨイグサの仲間の別名として使われるようになっていったのではないかと思われます。

当園では、小石川植物園で栽培されていたものの種子を、1994年に古屋野寛 名誉園長が知人を介して入手し、園内にて栽培しています。前述したように、比較的枯れやすい植物であるため、花期には定期的に種子を採取して冷蔵庫で保存をしています。しかしながら、倉敷市の位置する岡山県南部の気候は温暖かつ少雨で原産地の気候に近いのか、割合は低いものの、越冬する株もありますし、こぼれ種からも良く発芽しますので、毎年ほとんど播種する必要はなく栽培できています。ちょうどユウスゲやカラスウリなど、他の夜間に咲く花と同時期に咲いていますので、毎年、7月に開催している夜間観察会の際には、「定着できなかった外来植物」として、「定着に成功した外来植物」のメマツヨイグサやコマツヨイグサなど、黄金色の「月見草」と共に観察を行っています。

(2014.7.27)

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