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おかやまの植物事典

 ツタ(ナツヅタ) (ブドウ科) Parthenocissus tricuspidata

伝統的に建物の壁面などにはわせて緑化に利用される。 写真は「倉敷アイビースクエア」の壁面を覆うツタ。 花序がつく短枝の葉は大きく、葉柄が長く、基部は心形、上部は大きく3裂し、縁にはあらい鋸歯がある。
▲伝統的に建物の壁面などにはわせて緑化に利用される。 写真は「倉敷アイビースクエア」の壁面を覆うツタ。 ▲花序がつく短枝の葉は大きく、葉柄が長く、基部は心形、上部は大きく3裂し、縁にはあらい鋸歯がある。

 

ツタは、北海道から九州にかけての山野の比較的日当たりのよい場所に普通に生育する落葉性のつる性木本植物です。 国外では朝鮮半島、中国に分布しています。 同属で北アメリカ原産のアメリカヅタ P.  quinquefolia が園芸種として植栽されることがあり、北海道や関東地方では逸出し、野生化して帰化植物として扱われています(清水矩宏,森田弘彦,廣田伸七 編著.2005.日本帰化植物写真図鑑.全国農村教育協会.p.177)

葉は花(花序)がつく短枝の葉は、長さ約15cmほどの長い葉柄をもち、長さ、幅ともに5~15cm程度の広卵形、基部は心形(ハート型のように凹む)で、縁にはあらい鋸歯があり、上部は大きく3裂します。 対して花のつかない長枝の葉は、短枝の葉に比べて小型で葉柄も短く、葉形も上部が3裂しないものから、3小葉になるものまで様々になります。 特に3小葉となったものはウルシ科のツタウルシ Toxicodendron orientale subsp. orientale の葉、ヤマウルシ T. trichocarpum の実生の葉に非常によく似ています。 本種の葉の鋸歯の先端は芒状となっており、ウルシ類は芒状にならないので、落ち着いて観察すれば判別可能ですが、慣れていても何かの拍子にぎょっとさせられることがあります。

長枝には花がつかない。 葉はウルシ科のツタウルシやヤマウルシの実生のような3小葉となる場合がある。 茎(つる)で巻きつくのではなく、節から先端が吸盤状になった“巻きひげ” を出して、壁面などに付着する。
▲長枝には花がつかない。 葉はウルシ科のツタウルシやヤマウルシの実生のような3小葉となる場合がある。 ▲茎(つる)で巻きつくのではなく、節から先端が吸盤状になった“巻きひげ” を出して、壁面などに付着する。


幹(茎)の節から巻きひげを伸ばしますが、“巻き”ひげとは言うものの、いくつかに分岐した巻きひげの先端が丸い吸盤状になっており、他のつる植物のように他の植物などに「巻きつく」のではなく、他の樹木や岩肌などに吸着する(正確には接着成分を分泌して接着する)ことでよじ登っていきます。 そのため、巻きつくところのない建築物の垂直な壁面にもはわせることができることから、伝統的にレンガ造りの建物の壁面などの緑化のため利用されており、倉敷市の「倉敷美観地区」にある「倉敷アイビースクエア」では、建物全体を覆うほどの見事なツタ壁を見ることができますし、阪神甲子園球場の外壁を覆うツタも球場のシンボルとなっています。

花は6~7月頃、短枝から3~6cm程度の集散花序を出して直径2~3mmの黄緑色の5弁花を咲かせます。 果実は直径5~8mm程度の球形で、秋に藍黒色に熟します。 表面には白粉(ろう状物質)がついていて、食用のブドウの果実にも似ていますが、シュウ酸塩などを含んでいるようで、食用には適しません。 果実の内部には1~3個ほどの茶褐色で長さ4~5mmほどの倒卵形の種子が入っています。

6~7月頃、短枝から3~6cm程度の集散花序を出し、直径2~3mmの黄緑色の5弁花を咲かせる。 果実は液果、直径5~8mmの球形で秋に藍黒色に熟し、表面に白粉がある。 種子は茶褐色で1~3個ほど。
▲6~7月頃、短枝から3~6cm程度の集散花序を出し、直径2~3mmの黄緑色の5弁花を咲かせる。 ▲果実は液果、直径5~8mmの球形で秋に藍黒色に熟し、表面に白粉がある。 種子は茶褐色で1~3個ほど。

 

晩秋には葉が鮮やかな紅紫色に色づいたのち、落葉します。 別名の「ナツヅタ(夏蔦)」は、冬には葉を落とす夏緑性(落葉性)の植物であることを意味しています。 「ナツヅタ」に対して、ウコギ科のキヅタ Hedera rhombea は常緑性であるため「フユヅタ(冬蔦)」との別名で呼ばれます。

和名の「ツタ(蔦)」は「つたう」の意味で、他のものに、伝い登る様子からの名ですが、万葉集などでの「つた」は、キョウチクトウ科のテイカカズラ Trachelospermum asiaticum 、クワ科のイタビカズラ Ficus sarmentosa subsp. nipponicaなど常緑のつる性木本を指すとされ(木下武司.2010.万葉植物文化誌.八坂書房.p.364-367)、本種は平安時代中期の「和名抄(和名類聚抄)」、「本草和名」では「『アマヅラ』という和名」が用意されている」とされます(木下.2010)。 「あまづら」とは、「甘(い)つる」の意味で、古くは本種の樹液を煮詰めたものを甘味料としたことを指していますが、現在ではそのような利用は無くなっており、「アマヅル」の名は本種ではなく、ブドウ科の Vitis saccharifera を指す和名となっています。 さらに、漢字の「蔦」の字についても本来は本種を指すものではなく、ビャクダン科のヤドリギ Viscum album を指し、「日本では新撰字鏡が蔦にホヨ(ヤドリギの古名)の訓をつけている。 正しい同定があったにも関わらず、室町時代の下学集あたりからツタと誤読し、現在に至っている」(加納善光.2008.植物の漢字語源辞典.東京堂出版.p.297)というややこしい変遷をしています。

英名についてもややこしく、ivy,common ivyと言った場合には常緑のキヅタの仲間を指し、本種はJapanese ivy,Boston ivy などと呼ばれます。 なお、中国では本種を「地錦」と表記していますが、岩崖などの地面を覆った本種が美しく紅葉した様子か、紅葉した葉が落葉し、地面を覆った様子を「錦」と例えたものと思われます。

 (2022.11.26)

晩秋には紅紫色に紅葉したのち、落葉する。「ナツヅタ(夏蔦)」との別名は夏緑性であることを意味する。 ウコギ科のキヅタ。常緑のため「フユヅタ(冬蔦)」とも。英語の“ivy”が本来指すのはこちらである。
▲晩秋には紅紫色に紅葉したのち、落葉する。「ナツヅタ(夏蔦)」との別名は夏緑性であることを意味する。 ▲ウコギ科のキヅタ。常緑のため「フユヅタ(冬蔦)」とも。英語の“ivy”が本来指すのはこちらである。

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