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おかやまの植物事典

ウツギ(APGⅢ:アジサイ科/新エングラー:ユキノシタ科) Deutzia crenata

▲5~6月頃、枝先の花序に多数の白色花を下向きに咲かせる。 花は平開せず、釣鐘状に開く。雄しべは10本、狭い翼があり、やくの下部で角のような突起となる。
▲5~6月頃、枝先の花序に多数の白色花を下向きに咲かせる。 ▲花は平開せず、釣鐘状に開く。雄しべは10本、狭い翼があり、やくの下部で角のような突起となる。


ウツギは北海道南部から、本州、四国、九州の日当たりの良い山野に普通に生育する高さ3mほどになる落葉低木です。岡山県でも北部から南部まで全域に分布します。唱歌「夏は来ぬ」の冒頭で「卯の花の匂う垣根に…」とうたわれているように、刈り込みにもよく耐え、乾燥にも強いため、しばしば庭木や生け垣とされることもある樹木です。日本固有種であり、国外には分布しません(近縁種は東アジア中心に多く分布します)。なお、本種を含むウツギ属の植物は従来の植物の分類体系(新エングラー)では、ユキノシタ科として分類されていましたが、遺伝子情報を反映した新しい分類体系(APG)では、ユキノシタ科から独立してガクウツギなどのアジサイ属などと共にアジサイ科として扱われるようになっています。

5~6月頃、幹に対生した枝先から幅の狭い花序をだし、純白の釣鐘状の直径1㎝ほどの5弁花を多数咲かせます。花は大抵の場合下向きに咲き、花弁は平開(水平に開く)はせず、釣鐘状に開きます。10本ある雄しべの軸(花糸)には狭い翼があり、やく(花粉が付いている部分)の下部で2本の突起状に突き出します。果実は秋に熟し、乾燥して中から種子がこぼれ落ちる「さく果」で、直径5㎜前後、雌しべの軸(花柱)が果実に残ります。果実は冬に落葉した後も枝先に残っていることが多く、冬の間の見分けのポイントとなります。葉は先が尖った長卵形で対生、縁に細かい鋸歯があるほか、両面に星状毛(星やヒトデのように放射状に広がった毛)があり、触るとざらつきます。生育環境によって毛の状態や葉の形状、大きさには幅があることが多く、時には同じものとは思えないような姿となることもあります。なお、星状毛は葉だけでなく、花弁の外側(散生する程度)、がく、花柄や若枝などにもあり、葉の表裏や枝など部分ごとの星状毛の有無や状態は近縁種との見分けのポイントのひとつです。

本種の茎の内部はストローのように中空となっており(伸びたばかりの若い枝では白い髄がある)、中が「空(うつ)ろ」ということで「空木(うつぎ)」の名があります。本種のように茎が中空となる樹木は他にもあり、学術的な分類に関係なく「○○ウツギ」などという和名で呼ばれるものがあります。例えばスイカズラ科のタニウツギ、ツクバネウツギ、バラ科のコゴメウツギ、ミツバウツギ科のミツバウツギなどがあります。

葉は先が尖った長卵形で対生、縁に細かい鋸歯がある。葉の形状は生育環境によって変化が大きい。 葉裏の様子。両面に星状毛がありざらつく。写真の葉では主脈状の星状毛はやや長く伸びているが、毛の状態も生育環境や個体による変化が大きい。
▲葉は先が尖った長卵形で対生、縁に細かい鋸歯がある。葉の形状は生育環境によって変化が大きい。 ▲葉裏の様子。両面に星状毛がありざらつく。写真の葉では主脈状の星状毛はやや長く伸びているが、毛の状態も生育環境や個体による変化が大きい。

 

また、本種は「卯の花(うのはな)」とも呼ばれますが、これは「うつぎのはな」が略されたものとも、旧暦4月「卯月」の頃に花が咲くからとも言われます。ただ、「卯月」の由来も、「卯の花」が咲く月だからと説明されることが多く、鶏が先か、卵が先かの議論のように堂々巡りになっています。十二支の4番目が卯(ウサギ)だから、と説明されることもありますが、旧暦では立春からが新年になりますので、1月は「子」の月ではなく「寅」となり、4月に対応する十二支は「卯」ではなく「巳」となりますので、十二支の順番という説も違うようです。しかし、「卯」という字の語源を調べると、本来の読みは「ボウ」で、草「冒(おおうことを意味)/茂」と同様、草木が成長する様を意味するようです。つまり、「卯月」とは、「草木が成長し、茂りおおう月」を意味し、「卯の花」とは、「卯月に咲く花」もしくは「他の植物をおおうように茂る花」を意味すると考えることが適当ではないでしょうか。

豆腐を作るときに出る「おから」を「卯の花」と呼ぶことがありますが、これは「おから(本来は大豆の搾りかすなので「御殻」)」が「空」に通じるので縁起が悪いとされたため、白い「おから」の様子が本種の白い花の咲く様に似ていたことから「卯の花」と呼ぶようになったと言われます。

本種は前述の唱歌「夏は来ぬ」だけではなく、古典的な和歌においても、初夏の風物として詠まれたものが多くあります。例えば百人一首にも入っている、万葉集の持統天皇の「春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ(ほしたり) 天の香具山」という歌があります。この歌の「白妙の衣」とは、普通には「山に白い布を干している様子」とされますが、山に本種の花が咲いている様子を白い衣を干している様子に例えたとの説もあります。本種の咲き方を知っている人であれば、持統天皇の見た「天の香具山」がどのような状況であったか、目に浮かぶのではないでしょうか。季節の植物が詠み込まれていることが多い万葉の和歌としても、「白妙の衣=ウツギ」説はかなり説得力がある説ではないでしょうか。

本種は当園の周辺にも普通に自生しており、園内にもあちこちに生育しています。ちょうど園の周辺で田植えが始まるころに純白の花を枝いっぱいに咲かせ、春の終わりと夏の訪れを教えてくれています。また、園内にはマルバウツギ、マルバコウツギ、コウツギ、バイカウツギ、ニシキウツギなどの「ウツギ」の名を持つ樹木が他にもあり、本種の花期の前後は、様々な「ウツギ」を観察することができます。

(2016.5.21 改訂)

茎が中空(若い時には白い髄がある場合も)であることから「空木(うつぎ)」と呼ばれる。 満開となったウツギ。持統天皇の和歌にはこの様子を白い衣を干している様子に例えたとの説もある。
▲茎が中空(若い時には白い髄がある場合も)であることから「空木(うつぎ)」と呼ばれる。 ▲満開となったウツギ。持統天皇の和歌の解釈にはこの様子を白い衣を干している様子に例えたとの説もある。

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