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虫の世界
 
 ● 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち

2023.3.18

倉敷昆虫館 岡野貴司 

 

分類上チョウとガは同じ仲間であり、合わせて鱗翅類ともよびます。厳しい冬を越すことはすべての生きものにとって大きな試練です。これから身近な鱗翅類の越冬の姿を紹介していきたいと思います。

@  モンシロチョウ E  ヨトウガ
A  セスジスズメ F  ゴマダラチョウ
B  ジャコウアゲハ G  イラガ
C  オオミノガ H  ウスイロオナガシジミ
D  ウラギンシジミ I  ツマグロヒョウモン


 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち @モンシロチョウ


先頭バッターはおなじみのモンシロチョウ。一般的には蛹での越冬ですが、暖地では幼虫で越冬する場合もあるとされています。しかし私は岡山県において幼虫越冬も多いのではと感じています。冬の畑でキャベツの外葉やブロッコリーの蕾にもぐりこんでいる幼虫がよく見つかります。蛹越冬に対してどの程度の割合なのかは分かりませんが,これは面白い観察テーマかもしれません。幼虫の写真は2020年3月15日に倉敷市真備町で撮影したもので、無事冬を越しました。蛹は2022年12月に同じ場所でのものです。

   

 

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 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち A セスジスズメ(スズメガ科)

 
   前回のシリーズの「身近なガの幼虫たち」で紹介しましたセスジスズメです。このガの幼虫のエサの一つであるサトイモを畑で掘っていたところ、土中からコロンと蛹が出てきました。秋にエサの近くの土に浅く潜って蛹になり、そのまま越冬します。明確な繭は作らず、周辺の土を固めた程度のもので、日本産のスズメガ科の多くがこのような越冬形態です。そして翌年の5月ごろに土の中で羽化してすぐに地表に這い出てきます。夏にサトイモの葉をムシャムシャと食べる幼虫は困った存在ですが、厳しい冬を乗り切ろうとしている蛹は愛おしくさえ思えます。蛹は2022年10月に倉敷市真備町で撮影、成虫は1975年9月に総社市種井で採集したものです。

   

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 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち Bジャコウアゲハ(アゲハチョウ科)


 ジャコウアゲハを含め、日本のアゲハチョウ科の多くは蛹で越冬します。食草のウマノスズクサは草本で冬には枯れてしまうため、幼虫は食草を離れて安全な場所で蛹になります。この時人工構造物が選ばれることもよくあり、この写真は2022年11月に倉敷市真備町の生息地近くのガードレールで撮影しました。江戸時代にこの蛹を「お菊虫」と呼んでいました。着物姿の女性が後ろ手にしばられているように見えることから、番町皿屋敷のお菊さんを連想してこのような名がつけられました。このチョウは特に珍しいものではありませんが、ウマノスズクサが普遍的ではないため、このチョウの生息地も限定されます。標本は1998年4月に同地区で採集しました。

   

 

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 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち C オオミオノガ(ミノガ科)


 幼虫が小枝などで作った蓑の中にいるため蓑蛾(ミノガ)の名前がつきました。幼虫は極めて多くの樹木の葉を食べます。蓑で越冬したオスは初夏に羽化してガになりますが、メスは一生この蓑の中で幼虫の姿のまま過ごします。オオミノガは1995年頃、中国から日本に侵入してきたオオミノガヤドリバエの寄生によって激減し、一時は絶滅が心配されましたが、そうでもなさそうです。オオミノガが減少するとこの寄生バエも減少し、そうするとオオミノガが回復するという鬼ごっこを繰り返しているようです。寄生バエの侵入以前と比べると著しく減ったものの、この鬼ごっこ状態でかろうじて踏みとどまっています。蓑は倉敷市真備町で2022年2月に撮影、成虫(オス)は同地区で2021年5月に採集しました。

     

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越冬−春を待つチョウとガの仲間たち Dウラギンシジミ(シジミチョウ科)


 ツバキやカシ類などの常緑広葉樹の葉の裏で成虫越冬します。晩秋の頃は結構見つけることができますが、冬の寒さを乗り越えるのは大変なようで、大寒の頃になると急速に数を減じていきます。結局越冬できるのはほんのわずかなようです。越冬中オスの死亡率が高く、春を迎えることができるのは圧倒的にメスが多いという観察があります。まだ十分には検証されていませんが、交尾が越冬前なのか、それとも越冬後なのかがポイントのように思います。越冬したメスは春にフジ、アカシア、クズなど各種マメ科植物の蕾や新芽に産卵して次の世代につなげていきます。写真は2023年1月に倉敷市真備町で撮影しました。

               

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 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち Eヨトウガ(ヤガ科)


前回のシリーズ「身近なガの幼虫たち」で、「夜盗虫(よとうむし)」の仲間としてオオカブラヤガを紹介しましたが、今回は同じ夜盗虫のヨトウガです。名前からして本家という感じですね。キャベツやハクサイなどの多くの野菜の大害虫であり、時には大発生して農家の方を困らせます。畑でハクサイの外葉を外していると葉の隙間に潜り込んでいる越冬中の幼虫がよく見つかります。若齢幼虫の時は緑色で昼間に行動しますが、大きくなると茶色に変わって夜行性になり作物を食い荒らします。幼虫の写真は2022年12月に倉敷市真備町で撮影しました。成虫は大変地味な色合いであるため、普通種の割にはあまり目にすることがないかもしれません。成虫は2019年4月に同地で採集しました。

         

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越冬−春を待つチョウとガの仲間たち Fゴマダラチョウ(タテハチョウ科)


日本の国蝶オオムラサキの仲間で、幼虫はよく似ています。幼虫のエサとなるエノキと里山的環境が保たれておればごく普通に見ることができるチョウです。春から2〜3回発生を繰り返し、秋が深まると5齢まで成長した幼虫はエノキの幹をつたって降り、根元の落葉に潜り込んで冬を越します。葉を食べている時の幼虫の色は緑色ですが、越冬の時は茶色っぽい灰色に変色します。春になると再びエノキの幹をよじ登って猛烈な勢いで新芽を食べますが、この時幼虫は再び緑色に変わります。やがて蛹になって5月頃に羽化します。幼虫は2021年12月に岡山市北区で見つけたもので、よく見えるように白い紙に置いて撮影しました。成虫は2005年5月の倉敷市酒津産です。

    

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 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち Gイラガ(イラガ科)


 日本のイラガで最もポピュラーな種と言いたいところですが、最近は外来種のヒロヘリアオイラガの爆発的な増加に押されて以前ほど見られなくなりました。幼虫は白黒の斑模様の美しい繭を作り、この中で越冬します。この繭は大変丈夫で、幼虫がお尻から出したカルシウム質(白色)と口から吐き出したタンパク質(茶色)からできています。幼虫は何でも食べますが、カキやサクラでよく見つかります。地域によってはこの繭を「スズメのタマゴ」、「スズメのツボ」、あるいは「スズメのショウベンタゴ」などと呼ぶそうです。スズメと関連づけていることが不思議ですね。両者とも昔から人々に大変馴染みの深い生き物だったということです。岡山県でも何か愛称があるのでしょうか。繭は2023年2月に総社市上林で撮影、成虫は2022年7月に倉敷市真備町で採集しました。

    

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 冬−春を待つチョウとガの仲間たち Hウスイロオナガシジミ(シジミチョウ科)


 今までは幼虫、蛹(繭)、成虫の越冬でしたが、今回は卵です。写真はウスイロオナガシジミの卵塊で、硬くてごつごつした殻に覆われています。2006年12月に恩原高原のカシワの枝で見つけました。このグループのチョウは年1回の発生で、夏に産み付けられた卵で越冬します。しかし、冬を迎えた時点で卵の中では既に幼虫の一歩手前まで成長していますので、完全な卵越冬とは言えないかも知れません。このチョウは岡山県南部では身近なチョウとは言い難く、吉備高原から中国山地が分布の中心です。ただし、金甲山(岡山市、玉野市)や倉敷市と接する総社市清音黒田などでも確実な記録があります。標本は2004年6月に真庭市下中津井で採集したもので、左が表、右が裏です。 

  

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 越冬−春を待つチョウとガの仲間たち I ツマグロヒョウモン(タテハチョウ科)


 このシリーズも今回が最後になりました。春も近いですね。近年、南からの昆虫の進出が顕著で、今後はこれらの昆虫の越冬タイプが増えるのではと思い、ツマグロヒョウモンを取り上げました。熱帯系のチョウで、越冬と言っても生理的機能を大きく低下させて休眠するのではなく、寒さに耐えながらエサも食べ続けます。この点が今までの越冬とは少し異なります。幼虫の食草はスミレですが、冬のエサの確保が大変でした。しかし、同じスミレ科の園芸品種であるパンジーなどの普及によってエサの心配がなくなり、現在関東以西ではごく普通種になっています。むしろパンジーなどの害虫として嫌われてもいます。幼虫は2016年1月に倉敷市真備町で撮影しました。暖かい日で葉の茂みから這い出してきて摂食し、地面には糞も落ちています。成虫は2022年5月の同地区産です。 

  

 

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