重井医学研究所

培養設備があればモノクローナル抗体は簡単にできるEpoch of Monoclonal Antibody-3

    • モノクローナル抗体が研究で重要なことは理解しているが、モノクローナル抗体を作製するのは難しいと考えている研究者が多いと思う。しかし、2006年にマウス腸骨リンパ節細胞を利用する方法が開発された今、モノクローナル抗体を作製する環境は飛躍的に良くなっている。
      モノクローナル抗体の作製には以下の6項目の必要条件がある。しかし、簡単に満たすことができる。

      1)モノクローナル抗体作製のしっかりしたプロトコルを手に入れる
      2)細胞培養設備が必要である
      3)培養消耗品を揃える
      4)ラット、マウスが飼育できる
      5)基礎的な培養技術がある
      6)SP2細胞(ミエローマ)を手に入れる

      1)のモノクローナル抗体作製プロトコルは必須のものである。全体を把握でき、しかも細部にわたって実用的なプロトコルなしにはモノクローナル抗体はできない。プロトコルとして推奨するのは組織細胞化学2007である。この中にはリンパ節法の詳細が書かれている。

      2)の細胞培養設備に関しては必ず必要であり、クリーンベンチ、-80度冷凍庫、冷蔵庫、倒立顕微鏡、CO2インキュベータ、低速遠心機、オートクレーブがなければ培養ができない。

      3)の培養消耗品を揃えることは容易である。試薬、培養器はすべて市販品を購入することで済む。培地の準備、融合の試薬、等で簡単な試薬添加はあるが、数種類を添加するなどの面倒な操作はない。市販品を使用するだけに試薬の良否を心配する必要がない。

      4)のラット、マウスが飼育できることは重要であるが、ポリクローナル抗体を作製するためにウサギを飼うのに比べると格段に楽である。飼育期間も1ヶ月以内である。

      5)の基礎的な細胞培養ができることは必要であるが、モノクローナル抗体の作製に必要な技術は簡単に習得できる。培養のほか、目的の融合細胞を選び出すエライザ法、切片の蛍光抗体染色などが必要であるが、研究者が日常行っている程度ものである。

      もうひとつ重要なことは、細胞融合のためのマウスミエローマとして、必ずSP2細胞を手に入れることである。SP2細胞以外にもミエローマはあるが、それらを使用するのは抗体作製に慣れてからにしてほしい。まずはSP2細胞である。SP2細胞は丈夫で扱いやすい細胞である。SP2細胞は信頼の置けることろから譲ってもらう。この細胞の丈夫さが細胞培養を簡単にし、培養に気を使うことから開放してくれる。

      抗体を作製する方法の情報源として重井医学研究所が販売していたテキスト、「リンパ節法実験現場プロトコル」があったが、2007年年末で販売を終了している。どうしてもうまく行かない場合は当研究所まで連絡して下さい。相談に応じている。初歩的な部分は必要に応じてコンピュータの動画ファイルでもサポートしている。

      モノクローナル抗体の作製はリンパ節細胞を利用する方法が開発され、細胞培養の設備があればだれでも簡単にできるようになった。時間と労力はあるが、お金がなくて困っている人は自分で作製してみよう。培養設備があれば1種類の抗体の作製に必要な費用は20万円程度である。培養に必要な時間は特別の日を除いて1日、1から2時間以内で、培地交換などの細胞の世話があるが、休日があっても前々日、前日、翌日に処理するなどの方法によりそれほど問題にならない。大切な研究と平行して行うことが可能で、モノクローナル抗体の作製だけに研究時間を費やすことはない。

      モノクローナル抗体の作製は以前に比べ格段に進歩した。生命科学の研究者が自由にモノクローナル抗体を作製できる時代がやって来た。

      参考文献
      主要論文
      ラットリンパ節法:
      1) Kishiro Y, Kagawa M, Naito I, Sado Y. 1995
      A novel method of preparing rat-monoclonal antibody-producing hybridomas by using rat medial iliac lymph node cells.
      Cell Struct Funct. 20: 151-156.
      (PubMed経由でpdfファイルを得ることができます。)

      マウス腸骨リンパ節法:
      2) Sado Y, Inoue S, Tomono Y and Omori H. 2006
      Lymphocytes from enlarged iliac lymph nodes as fusion partners for the production of monoclonal antibodies after a single tail base immunization attempt
      Acta Histochem. Cytochem. 39: 89-94.
      (日本組織細胞化学会のホームページからpdfファイルを得ることができます。Google検索でsado inoue tomono omoriと入力して検索すると見つかります。)

      3) 佐渡義一 2006
      抗原エマルジョンを尾根部筋肉内注射したマウスの腫大腸骨リンパ節を用いたモノクローナル抗体の作製 (Sado Y. 2006 Production of monoclonal antibodies by using lymphocytes from enlarged iliac lymph nodes of mice immunized intramuscularly at the tail base)
      生化学 78: 1092-1094.

      4)佐渡義一
      モノクローナル抗体の作製
      組織細胞化学2007、pp55-77、学際企画
      (リンパ節法によるモノクローナル抗体の作製方法が詳しく書かれている)