重井医学研究所

モノクローナル抗体の新時代-4Epoch of Monoclonal Antibody-4

    • 目的に応じたモノクローナル抗体を作製する

       モノクローナル抗体は立体構造を読み、結合する。モノクローナル抗体を作製するには目的に適した免疫用抗原が必要である。切片染色が目的であれば生体の蛋白質と同じ立体構造を持った免疫用抗原を用いるのが良い。ウエスタンブロットであれば変性した抗原が良い。

       モノクローナル抗体は特定の構造とのみ結合することから、立体構造を読んでいると表現できる。抗体が読んでいる構造物の大きさはペプチドに対する抗体ではおよそ3残基から10残基程度の大きさである。普通の蛋白質はアミノ酸残基で200から1000程度はあることから、抗体は蛋白質のごく一部だけを読んでいることになる。この抗体が結合する部位を抗原決定基と呼ぶ。抗原決定基はアミノ酸が連続配列的に並んでいることもあれば、2本のアミノ酸配列にまたがっている立体構造的なこともある。

       抗体が反応するためには、抗体と抗原決定基が出会う必要がある。蛋白質はアミノ酸が連なったものが折りたたまれてできている。このため表面に出ている抗原決定基と、隠れる抗原決定基ができる。表面に出ている抗原決定基はそのままで抗体が結合できるので切片染色に適している。このような抗原決定基は立体構造的なことが多く、合成ペプチドや組み換え蛋白質、変性した抗原ではその構造が失われていることが多い(図7)。

      図7 抗体は部分的にしか見ていない

       ウエスタンブロットと呼ばれる技術は、SDSの存在下で電気泳動した蛋白質を紙のような膜(メンブレン)に移して染色する方法である。この場合は、メンブレン表面の抗原は本来の立体構造を失っている変性した状態である。この抗原を染色するには、アミノ酸が連続配列的に並んでいる抗原決定基と結合する抗体が適している。

       切片染色用の抗体は本来の立体構造と結合する抗体で、ウエスタンブロット用の抗体は変性した蛋白質に結合する抗体である。これらは明らかに性格の異なる抗体である。同時に満たす抗体を作製しようとするのは大変に難しい。両方を満たす抗体ができる可能性はあるが、切片染色用、ウエスタンブロット用の抗体をそれぞれ作製するほうが早い。

       ウエスタンブロット用の抗体を作製するほうが簡単である。この場合は合成ペプチド、組み換え蛋白質を用いることによって可能である。これに比べて、切片染色用の抗体は天然の立体構造をもっている必要があるので抗原の用意が大変である。最近の研究では遺伝子が知られているが、天然の蛋白質がどこにあるのかわからないので、それを組織内、細胞内で探そうということが多い。この場合はしかたなく、天然の立体構造をもっていない合成ペプチド、組み換え蛋白質を免疫用抗原として利用するしかない。このため、抗体の作製は非常に難しくなる。将来、天然と同じ立体構造をもった組み換え蛋白質ができると染色用の抗体の作製は極めて簡単になる。(図8)

      図8 同じアミノ酸配列でも構造が異なる。天然の蛋白質は立体構造的である

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